【弁護士/司法書士解説】新株予約権・ストックオプションの発行手続について

執筆:弁護士 小名木 俊太郎、司法書士 小林 哲士

2020年10月28日公開
2024年4月18日更新

新株予約権・ストックオプションとは

前回はストックオプションのメリット・デメリットやその利用方法について見てきました。
そのため、今回はそのストックオプションを発行する際の手続について見てみます。

 

■ストックオプションの発行方法

スタートアップ企業のインセンティブ報酬として、ストックオプション(新株予約権)を発行することが一般的ですが、会社法上の新株予約権の発行方法は、株主割当第三者割当に分かれています。

株主割当とは、各株主が保有する株式数に応じて、各株主に対して新株予約権の割当てを受ける権利を与えることをいいます。

一方で、第三者割当とは、株主割当以外の場合、つまり、株主に限らず第三者に対して新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合をいいます。また、各株主が保有する株式数(の割合)に応じることなく、既存株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合についても、株主割当ではなく、第三者割当となります。

 

 

■第三者割当による発行手続き

ストックオプションとして発行する新株予約権の付与対象は役員や従業員などであり、株主でない者に対して発行することが通常であるため、ここからは、実務上よく用いられる第三者割当による方法を前提に発行手続きを見ていきたいと思います。

まず、会社が新株予約権を引き受ける者(引受人)を募集する場合には、以下のような募集事項(会社法第238条第1項)を定めることが必要となります。

 

① 募集新株予約権の内容(会社法第236条第1項。以下ア~サに関する事項)及び数

 ア 新株予約権の目的である株式の数又はその数の算定方法

 イ 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法

 ウ 金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

 エ 新株予約権を行使することができる期間

 オ 新株予約権の行使により増加する資本金及び資本準備金に関する事項

 カ 譲渡による新株予約権の取得について会社の承認を要することとするときは、その旨 

 キ 取得条項(一定の事由が生じた際に会社が新株予約権を取得すること)に関する事項

 ク 組織再編において新株予約権者に交付する新株予約権に関する事項

 ケ 新株予約権の行使に際して生じる株式の端数処理に関する事項

 コ 新株予約権証券を発行するときは、その旨

 サ 証券発行新株予約権について記名式と無記名式の転換請求の制限に関する事項

② 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨

③ ②以外の場合には、募集新株予約権の払込金額又はその算定方法

④ 募集新株予約権の割当日

⑤ 募集新株予約権の払込期日(②の場合を除く)

⑥ 新株予約権付社債の場合には、会社法第676条に掲げる事項等(募集社債に関する事項ですが、詳細については割愛します。)

 

募集事項の決定については、非公開会社(発行株式の全てに譲渡制限が付されている会社)では、原則として株主総会の特別決議により行います。

例外として、募集事項の決定を取締役会の決議(取締役の過半数の決定)に委任することも認められていますが、この場合であっても、募集新株予約権の内容、募集新株予約権の数の上限及び払込金額の下限(払込金額を無償とする場合にはその旨)については、株主総会の特別決議(委任決議)で定める必要があります。つまり、委任する場合であっても、募集事項の大半を占める新株予約権の内容は株主総会で決議する必要があるのです。

公開会社(発行株式の全部又は一部に譲渡制限が付されていない会社)では、有利発行(※)にあたる場合を除き、取締役会の決議により、募集事項を決定します。

※有利発行とは、新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることが引受人にとって特に有利な条件である場合や払込価額が引受人にとって特に有利な金額である場合がこれにあたります(会社法第238条第3項)。有利発行に当たる場合には、有利発行によって新株予約権の募集を行うことが必要な理由を説明する必要があり、かつ、公開会社であっても株主総会の特別決議が必要となります(会社法第240条第1項)。

 

さらに、種類株式発行会社(複数の種類の株式を発行する会社)において、新株予約権の目的である種類株式が譲渡制限株式である場合には、株主総会での募集事項の決定に加えて、当該種類株式の種類株主総会の決議も必要となります(会社法第238条第4項)。

また、委任決議についても、種類株式発行会社では、株主総会の決議に加えて、目的である種類株式の種類株主総会の決議が必要となります(会社法第239条第4項)。

なお、これらの種類株主総会の決議は、定款において種類株主総会の決議を要しない旨を規定している場合は省略することができます。

募集事項を決定したら、会社は、新株予約権の引受けの申込みをしようとする者に対して、以下の事項を通知する必要があります(会社法第242条第1項)。

① 株式会社の商号

② 募集事項

③ 新株予約権の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所

④ 上記①~③に掲げるもののほか、法務省令で定める事項(株式に関する事項などになりますが、詳細については割愛します。)

上記の通知に応じて、申込みをする引受人は、以下の事項を記載した書面(新株予約権引受申込証)を株式会社に提出します(会社法第242条第2項)。この申込みは書面で行う必要があり、電磁的方法(EメールやPDFデータ)で申込みを行う場合は会社の承諾を得る必要があります(会社法第242条第3項)。

① 申込みをする者の氏名又は名称及び住所

② 引き受けようとする募集新株予約権の数

引受人からの申込みがあったら、会社は、誰に対して何個の新株予約権を割り当てるかを決め(割当決定)、割当てた結果を引受人に通知することになります(以下、この「募集事項の通知~申込み~割当決定~割当通知」による新株予約権の発行方法を「申込割当方式」といいます。)。

この割当決定は、新株予約権の目的である株式の全部若しくは一部が譲渡制限株式である場合、又は新株予約権が譲渡制限新株予約権(新株予約権自体の譲渡による取得について会社の承認を要するもの)である場合は、以下の機関によって、割当決定を決議する必要があります。

・取締役会設置会社(取締役会を置く会社):取締役会の決議

・取締役会非設置会社(取締役会を置いていない会社)の場合:株主総会の特別決議

※定款で定めることにより、上記とは異なる決議機関とすることもできます。

 

一方で、会社と引受人との間で総数引受契約(引受人が新株予約権の総数を引き受けることを定める契約)を締結する場合には、上記の「募集事項の通知~申込み~割当決定~割当通知」を行うことなく新株予約権を発行することができます(以下、この方法を「総数引受契約方式」といいます。会社法第244条第1項)。

なお、総数引受契約方式の場合には、割当決定の決議に代えて、総数引受契約の承認決議が必要となります。決議機関については割当決定の決議と同様、取締役会設置会社は取締役会の決議取締役会非設置会社は株主総会の特別決議が原則です(こちらも定款で定めることにより、上記とは異なる決議機関とすることができます。)。

申込み・割当て又は総数引受契約の承認・締結が完了した後は、割当日(新株予約権の発行日)の到来により、新株予約権が付与され、引受人は新株予約権者となります。

なお、会社は、新株予約権が発行された後遅滞なく新株予約権原簿を作成する必要があります(会社法第249条)。

また、新株予約権の割当日(新株予約権の発行日)から2週間以内に、管轄法務局へ新株予約権の発行に関する登記申請を行う必要があります。

 

ここまでをまとめますと

☑ 発行方法としては株主割当と第三者割当があるが、実務上は第三者割当がほとんど
☑ 募集事項や新株予約権の内容は、会社法の規定に従って決める必要がある
☑ 会社形態や定款の規定によって、必要となる決議(株主総会や取締役会)が異なる
☑ 割当方法としても申込割当方式と総数引受契約方式がある
☑ 発行後も登記申請や新株予約権原簿の対応が必要となる

がポイントになります。

 

■申込割当方式と総数引受契約方式の違いについて

ところで、申込割当方式の場合には、新株予約権の割当日の前日までに申込者に割り当てる新株予約権の数を通知しなければなりません(会社法第243条第3項)。そのため、株主の同意を得て株主総会を1日で開催できたとしても、新株予約権の発行には最低でも2日必要となります。

他方、総数引受契約方式の場合には、割当通知も不要となるため(会社法第244条第1項)、最短1日で新株予約権を発行することができます。また、「募集事項の通知~申込み~割当決定~割当通知」という一連の手続きを省略できるため、書類の数も少なくなります

スタートアップ企業では急いで手続きを進めなければならないことも多いため、なるべく早急で簡潔な手続きとしたいという点では、総数引受契約方式は便利であるといえます。

もっとも、申込割当方式を選択するメリットもあります。

総数引受契約方式の場合、引受人と割当てる新株予約権の数が決まった上で総数引受契約を締結し、その総数引受契約を株主総会(取締役会)で承認します。しかし、ケースによっては株主総会(取締役会)で総数引受契約を承認した後に、総数引受契約を締結する場合があります。

このとき、決議どおり全員と総数引受契約を締結できれば問題ありませんが、引受人の一部と総数引受契約を締結できないこともあります。そのようなケースでは、総数引受契約を承認した株主総会(取締役会)の決議内容に疑義が生じることがあり、その結果、他の引受人への新株予約権の発行に影響するおそれがあります。

他方、申込割当方式の場合、引受人からの申込みの前に割当決定の決議を行うケースでは、引受人からの申込みを条件に割当決定します。そのたため、引受人の一部が申込みを行わなかったとしても、その引受人の割当てが無かったことになるだけであり、他の引受人への新株予約権の発行には影響しません

 

スタートアップ企業では未確定のまま手続きを進める場合や、直前で変更が生じる場合も多いため、柔軟な対応がしやすい申込割当方式が適切となる場合もあります。

ここで、総数引受契約方式と申込割当方式の違いについて整理してみたいと思います。

申込割当方式    

総数引受契約方式  

発行決議の要否

必要

必要

会社からの募集事項の通知

必要

不要

引受人からの申込み

必要

不要

割当決議・総数引受契約承認決議

必要

必要

会社からの割当通知

必要

不要

発行手続きの必要日数(※1)

最短2日が必要

1日で可能

引受人の押印の省略の可否(※2)(※3)

可能

可能

※1  株主総会の招集手続の省略について株主全員の同意が得られている場合を前提にしています(会社法第300条)。

※2  登記実務上、申込割当方式・総数引受契約方式のいずれにおいても、「申込証(総数引受契約書)ひな形+引受人リスト」を添付した会社代表者が作成した証明書をもって登記申請が可能となります。

※3  申込証・総数引受契約書そのものを提出する場合でも、それらの書類の押印の有無について審査を要しないと登記実務が変更されましたので、申込証・総数引受契約書に押印しなくても登記は受理される取扱いとなっていますが、将来の紛争防止のため、申込証・総数引受契約書には押印や電子署名をしておくことが望ましいです。

 

 

■最後に

今回は、新株予約権の発行手続きの概要について見てきましたが、次回以降は税制適格ストックオプション有償ストックオプション1円ストックオプション(株式報酬型ストックオプション)等、様々な種類のストックオプションについて見ていきたいと思います。

新株予約権・ストックオプションについては、会社法の規定に従った発行手続きが必要となります。また、発行手続きのみならず、ストックオプション自体の設計を会社の実情に沿う形で有効に活用していくことが重要です。

 

GVA法律事務所では、ストックオプションとして新株予約権の設計・発行手続きなどの相談を広く受け付けております。
近年は税制改正によりストックオプション税制が改正されています(令和6年度も改正予定)ので、新たなストックオプションの発行や既に発行しているストックオプションの見直しなどを検討してみてはいかがでしょうか。
ご不明点やご相談などありましたら、お気軽にお問い合わせください

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)