【2026年最新】AI事業者ガイドライン改訂の要点|生成AI利用で企業が守るべき新たな基準の方向性とは?

執筆:弁護士 阿久津 透 ( AI・データ(個人情報等)チーム )


 2026年現在、生成AIのビジネス利用は「試験導入」から「本格運用」のフェーズへと移行しています。それに伴い、従来の AI事業者ガイドライン(第1.1版) ではカバーしきれなかったデータの利活用や個人情報保護の在り方が厳しく問われています。

 本記事では、2026年2月16日のAIネットワーク社会推進会議 AIガバナンス検討会で公表された 最新の政府資料 に基づき、弁護士の視点から企業が直面する法的リスクと対策を解説します。



1.2026年更新の背景なぜ更新が必要なのか

 事業者アンケートによると、AI事業者ガイドラインの認知度は81%に達し、そのうち35%の企業が全社的な共有・活用を行っています。しかし、ガバナンスにおいて「セキュリティ(17%)」や「プライバシー保護(12%)」が依然として上位の懸念事項となっており、生成AI利用における実務上の不安は解消されていません(参照:総務省「AI事業者ガイドラインに関する事業者アンケートの結果 概要」)

 これを受け、2026年2月に公表されたAI事業者ガイドラインの「令和7年度更新内容(案)」ではAIエージェントやフィジカルAIといったAI技術の動向を踏まえた事項の追加や、リスク評価手法やユースケースの追加によるリスクベースアプローチの具体化といった項目が盛り込まれています。

 これにより、事業者にとってよりAIリスクを把握・対応しやすくなることが予想されます。



2.リスクの追加と見直しハルシネーションやRAG等の利用によるプライバシーリスクとの向き合い方

 生成AIをビジネスに組み込むと、ハルシネーションの問題であったり、RAG(検索拡張生成)やマルチモーダル生成AI利用時のプライバシー侵害の問題であったりと、日常業務の中で具体的なリスクが顕在化します。



【用語解説】

  • ハルシネーション:AIが事実と異なる情報をもっともらしい文体で生成してしまう現象。存在しないガイドラインや裁判例等をあたかも実在するかのように生成する。
  • RAG(Retrieval-Augmented Generation=検索拡張生成):社内文書や顧客データベースなど自社が保有する情報をAIに参照させながら回答を生成する技術。参照元のデータに含まれる個人情報や秘密情報が意図せず出力されてしまうリスクが想定される。
  • マルチモーダル生成AI:テキストだけでなく、画像・音声・動画・センサーデータなど複数の種類の情報を同時に処理できるAI。カメラやマイクを通じて取得した情報の中に含まれる個人情報の取扱いやプライバシー侵害の問題が生じうる。


 令和7年度の更新方針(案)では、こうした実務上のリスクが新たにガイドラインへ追記されることが示されています。

 「使い始めたら問題が出た」という後手の対応を避けるためにも、導入前の段階からリスクを把握し、対応策を講じることが求められます。



3.用語の整理・見直し「学習・推論・データ」の定義と契約実務への影響

 今回の更新ではAIに関する前提の理解として、「学習」や「推論」の定義の追加、「データ」の定義・表現の見直しが予定されています。

 これまであいまいだった用語が定義されることは、法律事務に携わる担当者だけでなく、AIを活用するすべての事業者にとって重要な意味を持ちます。

 「学習」という言葉は日常的に広く使われますが、AIの文脈では大きく二つの異なるプロセスを指します。一つ目は機械学習で、AIモデル自体のパラメータ(内部の重み付け)を更新し、モデルの性質そのものを変化させるプロセスです。二つ目は文脈内学習(In-Context-Learning)で、RAG等によってAIが一時的にデータを参照しながら回答を生成するプロセスであり、モデル自体は変化しません。令和7年度更新方針(案)では、この二つを区別する定義が明記される予定です。

 また、RAG等によりAI活用時に扱うデータが拡大している点を踏まえて「推論」について明確な定義の追加が予定されているほか、そもそも「データ」とは何なのかという点も明示される予定です。

ガイドラインの定義が業界標準として定着すれば、現在使用している契約書の雛形の文言では意図した内容を正確に表現できなくなる可能性があります。今回のような定義の設定・明確化は、自社の契約書が最新の定義に照らして適切かどうかを見直す良いきっかけとなります。



4.最新のAI技術の動向の反映AIエージェント・フィジカルAI導入企業のチェックポイント

 PWC「生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較」によれば、AIエージェントについて理解しており導入済み/導入を進めている事業者はまだ31%にとどまりますが、検討中の事業者まで含めると合計68%まで達する状況です。

 OpenAIのOperatorや、AnthropicのClaude CodeといったAIエージェントは、目覚ましい進歩を遂げており、活用がさらに拡大することが見込まれますが、現行のガイドラインでは特に定義もされていなければ、具体的な便益やリスクについては言及されていません。

 AI事業者ガイドラインの1.1版が策定・公表されたのはまだ2025年3月のことですが、それ以降AIエージェントやフィジカルAIの技術発展や社会浸透には目を見張るものがあり、今回の更新ではこのような最新技術に関する定義やリスクなども反映される予定となっています。




5.まとめAIガバナンスの実施に向けて

 AI技術の急速な発展により、事業者がAIを利用する際にはそのメリットとリスクの双方を正確に把握することが不可欠な時代となりました。

 AI事業者ガイドラインは、単に守るべきルールを示すだけでなく、社内のAIリテラシー向上やガバナンス構築の判断軸として機能するほか、ガイドラインに沿った設計であることを示すことが対外的な信頼性の担保にもつながります。

 今回の更新でガイドライン自体のボリュームは増加しますが、それを補うようにライトユーザー向けの「活用ガイド」や「チャットボット」のリリースも予定されており、幅広い事業者が活用しやすい環境が整いつつあります。

 今回の更新内容を踏まえ、自社のAI利活用の在り方や社内規定が現状のガイドラインに照らして適切かどうか、改めて確認してみてください。対応すべき事項の洗い出しや優先順位付けに迷う場合は、専門家への相談も有効な選択肢の一つです。

 当事務所では、ガイドラインに準拠した社内規定の策定やAI導入時のリーガルチェックを承っております。「何から手をつければよいかわからない」という段階からでもお気軽にご相談ください



本記事の情報は2026年2月時点のものであり、法改正・ガイドライン改訂により内容が変わる場合があります。(出典:AI事業者ガイドライン(第1.1版)総務省・経済産業省 令和7年3月28日 / 同令和7年度更新内容(案)2026年2月16日)

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