
執筆:弁護士 阿久津 透(AI・データ(個人情報等)チーム)

1.はじめに
個人情報保護法に関する相談を受ける際、「●●は個人情報ですか」や「氏名が含まれていないのでこれは個人情報にあたらないという理解で良いですか」という質問を受けることが多々あります。
日常的に使用される個人情報という単語から想定されるものと、個人情報保護法上の「個人情報」が完全に別物というわけではないため、混乱が生じやすいところかと思います。
本記事では、個人情報保護法上の「個人情報」とは何を意味しているのかという点を解説していきます。
2.「個人情報」=法律用語
個人情報という用語からは、氏名や電話番号、メールアドレス、SNSのID、クレジットカードの番号といったものをイメージする方も多いのではないかと思います。日常用語としては、このイメージが間違っているわけではありません。
ただ、当然のことではありますが、個人情報保護法は、「氏名は個人情報である」、「電話番号は個人情報である」、「SNSのIDは個人情報ではない」といったように、個別に○×を定めているわけではありません。
個人情報保護法の中には定義規定があり、その中で「個人情報」という用語の定義も定められています。この定義に該当するもののみが「個人情報」となります。
そのため、個人情報保護法対応を検討する際には、「個人情報」が法律用語であること、その定義は法律に明記されていること、個人情報かどうかという点はその定義にあたるか否かで判断する、という部分をまずは理解していただく必要があります。
3.「個人情報」とは
個人情報保護法では、「個人情報」は以下のように定義されています(個人情報保護法2条1項)。
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
①当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第2号において同じ。)で作られる記録をいう。以下同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
②個人識別符号が含まれるもの
冒頭の1行目にあるとおり、「個人情報」といえるためには、生存する「個人に関する情報」である必要があります。
氏名、住所、性別といった情報に限らず、ある個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての情報がここには含まれます(ガイドライン通則編2-1参照)。
その上で、①では、当該情報に含まれる記述等により「特定の個人を識別することができるもの」が個人情報であると記載されています。また、他の情報と容易に照合でき、照合することにより特定の個人を識別することができるものも、個人情報であると記載されています。
②では、当該情報に個人識別符号が含まれるものは個人情報であると記載されています。この「個人識別符号」については、個人情報保護法2条2項や政令、規則で詳細な規定が設けられているのですが、本記事では割愛させて頂きます。
4.具体例
(1)記名式アンケートの場合
パーソナルジムを運営する会社が、利用者から以下のようなアンケートを回収する場面を例に、「個人情報」の考え方について整理していきます。

この場合、このアンケートは、ジムの利用者という生きた人間に関する情報が記載されたものですので、このアンケートそのものが、個人情報保護法の定義のなかの「生存する個人に関する情報」にあたります。
氏名や生年月日という1つ1つの要素が「生存する個人に関する情報」と位置付けられるわけではないので注意が必要です。
そして、このアンケートには、氏名や、生年月日、住所などの記述があり、それらの記述から特定の個人を識別することができます。
そのため、このアンケートそれ自体が、「個人情報」にあたるということになります。
(2)匿名のアンケートの場合
次に、以下のように、身長や体重、運動習慣といった項目しかないアンケートの場合の考え方についてみてきます。

このアンケートの場合も、生存する個人に関する情報であることには変わりありません。しかし、先ほどのアンケートとはことなり、同じ年齢や身長、体重の方は数多く存在しますので、この記載事項だけでは、特定の個人を識別することはできません。
そのため、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができないかぎり、このアンケートは「個人情報」ではないという結論になります。
5.さいごに
個人情報保護法では、「個人情報」の他に「個人データ」、「保有個人データ」など、様々な用語が登場します。それぞれ別々に定義されており、用いられる場面も異なるのですが、いずれも「個人情報」という用語が出発点となります。
「個人情報」とは何かという点をクリアにしていかないと、その他の用語の理解にも齟齬が生じてしまいますのでご注意下さい。
監修
弁護士 森田 芳玄
(都内の法律事務所にて主に企業法務に携わったのち、2016年GVA法律事務所入所。現在は、企業間紛争、労務、ファイナンス、IPO支援、情報セキュリティ法務を中心としたさまざまな企業法務案件に携わる。情報処理安全確保支援士。ITストラテジスト。システム監査技術者。)