【弁護士解説】他人の著作物を利用するときの検討手順

執筆:弁護士 中牟田 智博メタバース / エンターテインメントチーム

1. はじめに

 誰もが高度な複製機器や高速のインターネットを手にするようになった現代では、他人が作成した著作物を再利用し、さらには全世界へ発信することもきわめて簡単になりました。

 たとえば、インターネット上に掲載されていた記事やイラストを会社の資料にのせたり、レストランで食べた精巧な盛り付けの料理を写真に撮ってSNSにあげたりなど、「他人が作った物」を利用することは企業や個人の活動において日常的に行われています。

 しかし、こういった行為が他人の著作権を侵害するのか、それとも自由に行ってよいのかを厳密に考えようとすると、いくつもの難問に行き当たり、堂々巡りの議論になりがちです。そこで、まずは著作権法の構造に従って、検討の順序を整理しておくのが有効です。

 本稿では、他人の著作物を利用する行為の適法性について、どのような順序で考えていけばよいのかを解説します。

 

2. そもそも、著作物か?

(1)著作物の定義

 著作権法上、「著作物」と定義されるものが保護の対象となります。そこで、利用しようとしている他人の写真、他人の文章などが、そもそも著作物の定義に該当するのかを検討します。

 著作権法では、「著作物」は以下のように定義されています。

 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

 この定義を分解すると、a. 思想又は感情を表現したものであること、b. 創作性のある表現であること、及びc. 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであることとなります。以下、それぞれ簡単に説明します。

(2)思想又は感情の表現であること

 著作物に該当するか否かを検討する際の第一のポイントは、「思想又は感情」そのものではなく「思想又は感情の表現」が著作物であるということです。思想又は感情(アイデア)自体は著作権法の保護は及ばず、アイデアを外部に表した個別具体的な表現が著作物とされます。

 例えば独創的な筋書きや設定の小説があった場合、小説の中の具体的な文章は著作物ですが、そのもとになった筋書きや設定は小説家の思想・感情そのものですので、著作物ではありません。

(3)創作性があること

 創作性があるとは、作者の何らかの個性があらわれていることをいいます。例えば幼児の落書きでも著作物として保護されるなど、極めて緩やかに解釈されています。

 しかし、表現の目的や性質上、表現の仕方が一義的に決まってしまい、それ以外の表現が考えられない場合(例えば、法令に従って情報を整理したにすぎない図表など)には創作性が認められません。

 また、表現の仕方が一義的に決まるというほどではないものの、表現の選択の余地が小さいごくありふれた表現についても、基本的に創作性が認められません。もっとも、ごくわずかに作者の個性があらわれていれば、少なくとも完全なる複製(デッドコピー)については著作権侵害が認められることがあります。

(4)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること

 「文芸」「学術」などは例示と解され、知的・文化的精神活動の所産に属すものであれば、この要件は満たします。

 特許で保護すべき発明など、技術の範囲に属するものは除かれますが、コンピュータプログラムは著作権の対象になります。工業製品のデザインなど、工業的な側面と美術的な側面をあわせもつもの(応用美術といいます。)がどのような場合に著作権の対象になるかについては、裁判例が積み重ねられており、慎重な検討が必要です。

 

3. 保護期間が切れていないか?

(1)著作権には寿命がある

 著作権は、一定の期間が経過すると自動的に消滅します。これを、著作物の保護期間(または著作権の存続期間)といい、保護期間(存続期間)が満了した後は、著作物は公共財(パブリックドメイン)となり、誰でも自由に利用できるようになります。

 ただし、著作権法は著作権とは異なる権利として「著作者人格権」も保護しており、著作権が期間満了により消滅した後も、著作権人格権はなお存続し、著作者又は一定の範囲の遺族が権利を行使できます。保護期間が切れれば原則は自由に利用できるものの、勝手に作品を改変するような行為は慎むべきといえます。

(2)保護期間は著作物の種類によって違う

① 著作者の死亡から70年が原則

 著作権の保護期間は、原則として、著作者が死亡した年から70年間です。著作者の死亡した年の翌年から数えて、70年目の大晦日で著作権が消滅します。なお、複数の著作者が存在する著作物(共同著作物)の場合は、最後に死亡した著作者の死亡した年から数えます。

② 公表の年から70年となる場合

 ただし、以下の著作物については、例外的に、著作物が公表された年から70年間が保護期間となります。

a.     無名・変名の著作物

 著作者名を伏せて公表されている無名の著作物や、変名(ペンネームなど)で公表されている著作物については、誰が著作権者なのかがわからず、著作者がいつ死亡したのかを容易に知ることができないため、公表された年が基準にされています。
 ただし、有名な作家のペンネームであるなど、誰が著作者なのかが明らかな場合には、原則どおり著作者の死亡時が基準となります。

b.     団体名義の著作物

 法人等の団体名義で公表された著作物については、著作者が誰であるかを外部から知ることができず、あるいは法人等が著作者である場合(職務著作といいます。)もあるため、著作者の死亡時ではなく公表された年が基準にされています。

c.      映画の著作物

 映画の著作物(ゲームソフトなども含みます。)は、具体的に誰が著作者であるかが必ずしも明確にならない場合があることから、著作者の死亡時ではなく公表時が基準とされています。
 なお、特に外国の古い映画については、著作権法の改正の経緯などの関係で保護期間の計算が非常に複雑になるため、注意が必要です。

③ いつを公表時と考えるか(継続的刊行物と逐次刊行物)

 以上のように、いくつかの種類の著作物は公表時が保護期間の基準となります。ところが、雑誌や新聞、連載漫画のように幾度にもわたって公表されていく著作物については、いつを公表時とみるべきかが問題となります。

a.     継続的刊行物

 雑誌や新聞など、回を追って定期的に公表される著作物(継続的刊行物)は、毎回の公表の時が基準となります。したがって、同じ雑誌や新聞であっても、別の年に刊行された号は保護期間の満了時が異なることになります。
 ただし、継続的に刊行される雑誌などに掲載されている著作物であっても、例えば連載漫画など、1つの作品が数号に分割して掲載されているような部分は、次の逐次刊行物にあたります。

b.     逐次刊行物

 連載漫画や連続ドラマなどのように、一つのまとまりのある著作物が一部分ずつ逐次公表されていく著作物(逐次刊行物)については、最終部分が公表された時が基準となります。

4. 利用行為に該当するか

 著作権の対象となる著作物であり、保護期間も切れていない場合には、その作品は著作権で保護されていることになります。

 もっとも、著作権は著作物を一定の方法で利用することを独占する権利ですので、法律で定められた利用行為に該当しない方法での利用は、著作権を侵害しません

 著作権法に規定されている利用行為には様々なものがありますが、大きく分けると、「公衆」に対して行ってはじめて利用行為に該当するものと、「公衆」に対して行わなくても利用行為に該当するものがあります。

(1)「公衆」に対して行うことが要件とされる利用行為

以下の利用行為は、「公衆」に対して行わなければ著作権侵害とはなりません。

・上演、演奏、上映
・インターネット配信、テレビ放映
・口述
・展示
・頒布、譲渡、貸与

 「公衆」とは、一般的には不特定多数の者をいいますが、著作権法ではそれにとどまらず、「不特定かつ少数の者」や「特定かつ多数の者」も含む概念です。言い換えると、「特定されていて、かつ少数の者」以外の者に対して行う上記の行為は、著作物の利用行為にあたります

 たとえば、DVDをネットオークションで販売する場合、譲渡の対象者は落札者一人だけですが、落札されるまでは誰が買うかわからないため、「不特定かつ少数の者」すなわち「公衆」に対する譲渡です。一方、親が子供に対して絵本を読み聞かせる行為は、「特定かつ少数の者」に対する口述ですので、「公衆」への口述ではなく、絵本という著作物の利用行為にはあたりません。

(2)「公衆」が要件とならない利用行為

 以下の利用行為は、「公衆」に対するものでなくても(言い換えると自分ひとりで秘密裡に行っても、)著作権侵害になりえます

・複製
・翻案、翻訳、編曲、変形

 したがって、たとえば美術館の絵を写真に撮った場合、たとえそれをSNSなどにアップしなくても、撮影した時点で「複製」という利用行為に該当します。

5. 権利制限規定に該当するか

 上記の利用行為のどれかに該当する場合でも、一定の状況、目的、方法でなされる利用行為については著作権の行使が制限され、自由に行うことができます。これを権利制限規定といいます。

 情報技術の発展などに伴い、著作権法には多種多様な権利制限規定が列挙されるに至っていますが、以下では特に知っておきたいものをいくつか取り上げます。

(1)私的使用のための複製

 著作物の複製は、私的なごく限られた範囲内でその著作物を利用する目的であれば、自由に行うことができます。たとえばテレビ番組を録画する行為などのように、日常生活において私的使用のための複製として認められている行為は多いですが、いくつか注意点があります。

①    私的使用のための複製として認められるのは、「個人的または家庭内その他これらに準ずる限られた範囲内」で著作物を使用するために複製する場合です。家族などのごく親密な関係の中だけに限られ、企業内部での複製は、たとえ少人数で利用する場合でもほとんどの場合はこれに該当しません

②    著作物を使用する者本人(親や介助者なども含みます)が複製を行う場合でなければならないため、いわゆる自炊代行業者の行為は、私的使用のための複製として認められないという裁判例があります。。

③    海賊版などの違法なものを複製する場合も、私的使用のための複製として、原則として侵害とはなりません。ただし、違法にインターネットにアップロードされた録音・録画物をダウンロードする行為は、たとえ私的使用の目的であっても、違法アップロードされたものであることを知ったうえで行えば著作権侵害となります。

(2)著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用

 著作権法第30条の4は、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない」利用については、自由に行うことができると規定しています。「思想又は感情の享受を目的としない」利用とは、典型的にはコンピュータ内部で著作物を処理する場合を指します。AIに著作物を学習させる行為もこれに該当するため、近年の生成系AIの爆発的発展に伴って急速に解釈の整理が進められています。詳しくはこちらの記事(【弁護士解説】論点整理!生成AIに関する著作権法上の解釈まとめ)で解説していますので、あわせてご覧ください。

(3)引用

 引用とは、新しい著作物を創作する際に、過去の他人の著作物を利用して自己の表現の中に取り込むことです。文化は先人の業績の上に築かれるものですので、文化の発展や自由な言論のためには一定の条件のもとで引用を行えることが必須といえます。

 著作権法が定める適法な引用の条件は、公表された著作物を利用することのほか、①公正な慣行に合致すること、②報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行うことです。

①    公正な慣行に合致すること

 「公正な慣行」といっても慣行は業界や著作物のジャンルによって様々ですが、ひとつ重要な視点は、「他人の著作物を引用している箇所」と「自身のオリジナルの表現の箇所」が明瞭に区別できなければならないということです。たとえば文章なら鍵括弧でくくったり、網掛けをしたりなど、どこからどこまでが他人の文章の引用なのかがはっきり区別できなければなりません。

②    報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行うこと

 利用の範囲が引用の目的に必要な範囲にとどまり、かつ著作権者の利益を過度に害するものであってはなりません。

 具体的には、自分のオリジナルの表現部分が質的・量的に主要となっており、引用箇所は従的なものにとどまっている必要があります。例えば、ある著作物を引用しつつ論評する記事を書く場合に、論評部分が短いために全体としてはその著作物を読者に読ませることが目的とみられる場合は、オリジナルの論評部分がメインとはいえません。

 また、目的を達成するうえで明らかに必要のない部分についてまで引用する場合も適法な引用ではありません。絵や写真、短い詩などであれば全部の引用もできる場合が多いと考えられますが、ある程度のボリュームのある著作物については、どこまで必要なのか吟味してから引用するべきでしょう。

③    出所の明示

 ①②の条件を充たすことに加えて、引用の際には原則として出典を明示しなければなりません。たとえば書籍を引用する場合は、引用箇所に近いところに「弁護士法人GVA法律事務所『Web3ビジネスの法務』(技術評論社、2023年)100頁」のように記載します。

(4)公開の美術の著作物や建築の著作物の利用

 屋外の場所に恒常的に設置されている美術の著作物や建築の著作物については、原則として自由に利用ができます。これは「風景の自由」とも呼ばれ、屋外の場所にある建物、彫刻、看板などは自由に撮影や写生などして構いません。ただし、風景を自由に撮れるといっても、その写真を撮った人は写真に対して著作権を持っていますので、他人の風景写真を勝手に利用してよいということではありません。

 なお、自由に利用できるのは屋外の場所に恒常的に設置されている著作物ですので、たとえ外から見えるとしても、ショーウインドウの中などは対象外となります。

6. 権利処理が必要な場合の対応

 権利制限規定にも該当しなければ、他人の著作物を利用する行為は、許可なく行えば著作権を侵害することになります。この場合には、何らかの方法で著作権者から許諾を得る必要があります。

(1)利用許諾を得る

 利用許諾を得るためには、基本的に当該著作物の著作権者に連絡をとることになります。そのためには誰が著作権者であるかを特定しなければなりませんが、注意しておきたいのは、「著作権者=その著作物の著作者」であるとは限らないということです。著作権はその著作物を創作した人(著作者)が取得するのが原則ですが、著作権は物のように自由に売り買いをすることができますので、別の人や会社が著作権者になっている可能性があります。特に、商業的に創作された作品は、その作品の商品化にかかわる会社に著作権が譲渡されている(あるいは最初から会社が著作権を取得している)ことがありますので、まずはそういった会社に連絡するほうがよいかもしれません。

 ただし、音楽の著作権については、JASRACやNexToneといった著作権管理団体が利用許諾の申請を受け付けている場合があります。これらの著作権管理団体では、管理している音楽をデータベースにして公開していますので、自分が使用したい音楽がデータベースに記載されていれば、自分で著作権者を探し出さなくても著作権管理団体の申請フォームから申請ができます。

(2)「フリー」に注意

 多くの人に利用してもらうことを目的として創作された著作物は、著作権者の側からみると、それを利用したいと希望する多くの人に対して許諾を与える必要があります。このとき、個別に許諾を与える方法では膨大な手間がかかりますので、多くの人に一斉に許諾を与えるための工夫がなされた著作物が存在します。こういったいわゆる「フリー素材」であれば、個別に連絡をとらなくても利用が可能となります。

 例えば、インターネット上で公開されているフリー素材サイトでは、ホームページ上に「利用規約」が公開され、その利用規約に同意することで素材の利用が可能となる場合が多いです。また、作品をユーザー間で共有するプラットフォーム上では、作品を投稿する際にその作品の二次利用に関するルールを設定することができるものもあります(ニコニ・コモンズなどが有名です)。

 さらに、作品そのものに利用許諾の意思表示が付与される方法として、パブリックライセンスという仕組みがあります。パブリックライセンスの中でも広く活用されているクリエイティブ・コモンズ・ライセンスでは、作品にマークを付与することで、その作品に関する利用許諾の意思表示がされています。

 ただし、注意が必要なのは、「フリー素材」であっても利用には一定のルールが課せられている場合が多いということです。特に①商用利用可能か、②改変可能か、③著作者名の表示が必要かという点については、何らかの制限がかけられていることが多いため、利用規約の記載内容や、マークの意味などを確認しておかないと、適法な利用のつもりで著作権を侵害していたということになりかねません。

(3)著作権者が不明等の場合に使える裁定制度

 「フリー素材」でなければ著作権者の許諾を得たいところですが、「著作権者が誰か分からない」、「どこにいるのか分からない」、「著作権者が死亡しているが誰が相続人でどこにいるのかわからない」といった場合には、許諾を得るのは困難です。このような場合に、著作権者から許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、使用料に相当する金銭を納めることで一定の著作物を利用可能になる制度(裁定制度)があります。

 令和5年にこの裁定制度に関する改正法が成立しており、施行はしばらく先になる見込みですが、施行後は裁定制度を利用可能な場面がさらに広がります。従来は著作権者の連絡先(SNSアカウントやメールアドレスなど)が明らかであれば、連絡に対して返事がない場合には裁定制度の利用ができませんでした。改正法では、著作権者に連絡をとるなどの措置を試みたにもかかわらず、著作権者の意思が確認できないときなどの一定の要件をみたす場合には、使用料相当額を支払うことで(裁定が取り消されるまでの間は)利用可能になります。

7. まとめ

 本稿では、他人の著作物を利用したいときの検討手順を紹介してきました。改めて全体を概観すると、以下が検討のステップになります。

(1)  その作品が著作物かどうか、どの部分に著作権があるのか

(2)  著作権の保護期間が切れていないか

(3)  その作品の使用方法は、著作物の利用行為に該当するか

(4)  著作権の権利制限規定に該当しないか

(5)  誰から利用許諾を得るべきか、それとも個別に許諾をとらなくてもルールを守れば利用可能か

 細かい部分は割愛してきましたが、上記のステップに沿って考えれば、検討すべき事項を整理できるのではないかと思います。

 個別のステップに存在する論点については、必要に応じて専門家である弁護士や弁理士に相談してみてください。

監修
弁護士 箕輪 洵
(スタートアップ企業を中心に、上場企業から中小企業まで企業法務を幅広く対応。知的財産法を得意とし、特にメタバース法務、エンターテインメント法務に注力。)

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