
執筆:弁護士 箕輪 洵(メタバース / エンターテインメントチーム)
1. はじめに
2023年7月18日、総務省の研究会「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」は、メタバース等の利活用が急速に進展しつつあることを踏まえ、様々なユースケースを念頭に置きつつ情報通信行政に係る課題を整理することを目的としてなされた議論及び意見募集の結果を踏まえとりまとめた「報告書」を公表しました。(※1)
同「報告書」25ページにおいては、「メタバース」の定義について考察がなされています。近年、「メタバース」の用語は急速に広まっていますが、いまだ「メタバース」の明確な定義は確立されていません。
そこで、本稿では、同研究会がとりまとめている「メタバース」の定義について紹介します。
2. 同研究会による「メタバース」の定義
同研究会は、「メタバース」について、「ユーザ間で『コミュニケーション』が可能な、インターネット等のネットワークを通じてアクセスできる仮想空間。」としつつ、仮想空間が、次のⅰ~ⅳを備えている場合に、これを「メタバース」と呼称するとしています。
ⅰ 利用目的に応じた臨場感・再現性があること(デジタルツインと同様に物理空間を再現する場合もあれば、簡略化された物理空間のモデルを構築する場合、物理法則も含め異なる世界を構築する場合もある)
ⅱ 自己投射性・没入感があること
ⅲ (多くの場合リアルタイムに)インタラクティブであること
ⅳ 誰でもが仮想空間に参加できること(オープン性)
同研究会は、個々の仮想空間サービスにおいて上記のそれぞれの要素があると言えるか否かについては、一般に利用される技術水準と対照した上で考えることが必要であるとしています。
また、多くの場合は3Dの仮想空間として構築され、VRデバイスを必須とするものもあるとしつつ、スマートフォンなど一般のデバイスから利用可能なものもあり、ビジネス向けの一部には2Dで構築されるものもあるとしています。すなわち、同研究会は、3Dの仮想空間であっても、2Dの仮想空間であっても、いずれも上記のⅰ~ⅳの要素を全て備えていれば、「メタバース」であると整理しているといえます。
この点については、メタバースの定義について、三次元空間であることを前提として整理している立場(※2)とは異なるといえます。
続いて、同研究会は、「メタバース」について、次のⅴ~ⅶのいずれか又は全てを備えている場合もあるとしています。
ⅴ 仮想空間を相互に接続しユーザが行き来したり、アバターやアイテム等を複数の仮想空間で共用したりできること(相互運用性)
ⅵ 一時的なイベント等ではなく永続的な仮想空間であること
ⅶ 仮想空間でも物理空間と同等の活動(例:経済活動)が行えること
同研究会は、上記のⅴ~ⅶについては、メタバースにおいて多く見られる要素でありつつも、「メタバース」の定義としては必須の要素ではないと整理しているといえます。
特にⅶについては、メタバースにおいて経済活動が盛んになされていることに着目し、経済活動の要素をメタバースの定義に取り込む例もあるところ(※3)、同研究会では定義としては取り入れていない点が注目されます。
3. 最後に
以上、総務省の研究会がとりまとめた報告書における「メタバース」の定義について紹介しました。
メタバースは現在も急速に発展を続けており、さらなる技術の革新・進化と共に、「メタバース」の定義・概念自体も変容を続けていくことが予想されます。
メタバースが将来どのように発展を遂げていくか、今後も最新の動向が注目されます。
(※1)https://www.soumu.go.jp/menunews/s-news/01iicp0102000120.html
(※2)舘暲・佐藤誠・廣瀬通孝監修=日本バーチャルリアリティ学会編『バーチャルリアリティ学』(コロナ社、2011)251頁、経済産業省「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」( https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210713001/20210713001.html )等。
(※3)経済産業省・前掲注2)は、メタバースの定義(仮)として、「一つの仮想空間内において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供」されることを要素に掲げています。また、日本政策投資銀行「AR/VRを巡るプラットフォーム競争における日本企業の挑戦」DBJ Research No.354-1( https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/15b521ee498fac61aec71ff2d93da2e6_1.pdf )は、メタバースの定義について、「現時点では、『誰もが現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことができるオンライン上のバーチャル空間』と考えて大きな誤りはないだろう。」としています。