【弁護士解説】メタバース事業における法的課題と対策(4/4)

第4回 メタバースに参入する事業者が採るべき対策

執筆:弁護士 山本 大介メタバース / エンターテインメント チーム

 今回は、前回までに取り上げた法的課題を踏まえて、メタバースに参入する事業者がどのような対策をしておくべきなのかについて検討します(第1回からお読みでない方はぜひ第1回よりご覧ください)。

目次

第1回 メタバースとは
⑴ 定義
⑵ MMORPGやデジタルツインとの違い
⑶ 従来のメタバースとの違い

第2回 法的課題の検討(前編)
⑴ 著作権法などの知的財産権の観点
 ア アニメのキャラクターアバターやゲームのステージの再現
 イ 現実世界の再現
 ウ 現実のモノの再現
 エ 絵を描く、歌をうたう、楽器を演奏するなど、メタバース上の芸術的行為
 オ ユーザーによる配信


第3回 法的課題の検討(後編)
⑴ 肖像権やプライバシー権の検討
 ア 現実の人を再現したアバター
 イ 現実の第三者になりすますアバター
 ウ 第三者のアバターを再現したアバター
⑵ その他のリスク


第4回 メタバースに参入する事業者が採るべき対策 
⑴ 事業者自身がメタバースを提供する場合(メタバースを運営する場合)
⑵ 他社が提供するメタバースプラットフォームを利用する場合
⑶ おわりに

⑴ 事業者自身がメタバースを提供する場合(メタバースを運営する場合)

 事業者自身がメタバースを提供する場合には、その利用規約において、十分な禁止事項を定めることにより、ユーザーによる違法行為や違反行為を防止することが考えられます。もし、違反行為が繰り返された場合にはアクセス制限やアカウントBANなどの措置を採ることができるものとすることが好ましいでしょう。

 また、ユーザーによる違法行為や違反行為に関し、免責事項を定めて自衛を図ることも重要です。

 その他、世界中からユーザーが参加することを念頭に準拠法や管轄裁判所を明確に定めておく必要があります。

 ただし、ユーザーによる創作物(ユーザー生成コンテンツ、UGCとも。)に関する著作権等の権利を事業者に帰属させるかどうかについては判断が必要です。

 事業者に帰属させるメリットとしては、ユーザーの作品をウェブサイトで公表したり、宣伝に利用するなど、自由に利用することができる点や、ユーザーにより問題のある投稿や創作がなされた場合に、事業者側で削除したり修正を施すことが容易となることが挙げられます。

 他方、デメリットとしては、ユーザーに強い抵抗感を与えてしまうことが挙げられます。つまり、メタバースでは、土地・建物やユーザーが創作したアバターなどのアイテムの売買がユーザー同士で行われることが想定されますが(※1)、ユーザー同士の自由な取引を前提としたサービスの建付けにする場合において、メタバース上のアイテムの権利を事業者に帰属させるという規定は、取引を阻害するものにほかならず、ユーザーから敬遠されてしまう懸念があるというものです。このことは、日本円による取引に限らず、暗号資産(仮想通貨)による取引を認める場合であっても同様です。

 したがって、メタバースにおいては、従来のtoCのサービスでよく見受けられていた「サービス上でユーザーが創り出したコンテンツの権利は事業者に帰属する」という定式からの見直しが必要不可欠であると考えられています。

 そして、メタバース上に運営者以外の著作物がある場合には、運営者や他のユーザーによる著作物の利用についての規定を設けるなどの手当てが必要となります。

⑵ 他社が提供するメタバースプラットフォームを利用する場合

 この場合、メタバース自体の利用規約を独自に定めることが難しいため、自社の別のサービスと紐づけて、そちらで利用規約を定め同意を取得することが考えられます(ただし、このような利用方法が、メタバースプラットフォーマーの利用規約に違反していないかどうかをあらかじめ調査しておく必要があります。)。

 なお、現状、他社が提供するメタバースプラットフォームにおいて自社のサービス(メタバース上の飲食店など)を運営するような場合、自社が運営する世界(ステージ)の入り口近くに規約を掲示する方法が採られているケースが多く見られますが、現実の飲食店やゲームセンターとは異なり、どこからサービスの利用を始めたか、すなわち、店舗が定める規約やルールにいつ承諾したとみなされるかが明確ではないため、有効な同意とはならないおそれがあります。

⑶ おわりに

 全4回にわたり、メタバースに関する法的課題とその検討をお送りして参りましたが、今回取り上げましたとおり、メタバースには、未知の法的課題の出現が予想される一方で、事前に予想したうえであらかじめ手当てしておくことが可能なケースも多く存在しますから、参入前にきちんと準備しておくことが極めて重要です。

 もっとも、第1回でも述べましたとおり、法整備はまだまだ検討段階であり、現在は極めて流動的な状況にありますから、現行法だけでなく、官公庁が発表するホワイトペーパーやガイドラインを日々キャッチアップする必要があります。

 加えて、メタバースは、仮想オブジェクトの権利者を定めたり、アイテムやアバターの取引を行うにあたって、暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)、スマートコントラクトといったブロックチェーン技術との相性が非常に良く、もはやメタバースには不可欠の要素と言っても過言ではありません。

 そのため、メタバースへの参入にあたっては、これらの各先端分野における知見と豊富なビジネス理解力を有する法律専門家のサポートを受けられる環境を整えておくことが望ましいといえるでしょう。


(※1)従来のMMORPGのほとんどが、いわゆるリアル・マネー・トレード(RMT)を禁止していることも、メタバースとは対照的であるといえます。

監修
弁護士 箕輪 洵
(スタートアップ企業を中心に、上場企業から中小企業まで企業法務を幅広く対応。知的財産法を得意とし、特にメタバース法務、エンターテインメント法務に注力。)

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