現地採用の日本人による労働訴訟

執筆:弁護士 金子 知史国際チーム)、労務コンサルタント 浅原 潤国際チーム


フィリピンで事業を展開する日系企業にとって、現地従業員との関係は労使トラブル回避の重要課題とされる一方、現地採用の日本人スタッフへの配慮は不十分なことが多い。彼らは駐在員との待遇差に敏感で、不満を抱きやすく、退職や転職に至ることもある。中にはDOLE(労働雇用省)に訴えを起こすケースもあり、DOLEは外国人労働者の申立ても受理する。

【関連する事例】

K氏(日本人), VS. TOYOTA BOSHOKU (PHILS.)
G.R No. 201396, September 11, 2019

 K氏はToyota Boshoku(以下トヨタ)に応募し、マーケティング・アカウンティング部門のアシスタントGMとして現地採用された。手取り給与は90,000PHPから始まり、試みの使用期間(6か月)後の給与は100,000PHPとなり、各種ボーナスと各15日の有給休暇と傷病休暇と運転手付きの社用車も与えられた。

 K氏の最初の人事考課は「パーフェクト」の評価であったが、その翌々月の人事考課の評価は「やや良」であった。K氏は仕事の取り組みに別段変化がない状況での、かかる評価の変動について、評価方式・基準に定量性と客観性が欠けているとし不満を表明した。

 その後、K氏は(本人曰く)最も古い社用車をあてがわれ、ガソリン代用のクレジットカードの使用を控えられ、業務に必要だったガソリン代は自己負担分を後から実費精算するように指示を受けた。

 のちにK氏は生産管理部門への異動命令をうけ、社用車の使用許可も撤回された。近藤氏は、生産管理部門への異動は、本人のスキルに合わない業務に従事させることによって、退職に追い込む目的であり、実質的に出社が不可能な状況となったため出社しなくなった。

 その後、DOLEに出頭し、職務待遇の一方的引き下げにより事実上、辞めざるを得なかったとし、トヨタ側に対し損害賠償の請求を行った。労働仲裁人はK氏の主張を前面的に支持したが、控訴裁ではトヨタ側の措置は経営上合理的判断と認め、K氏の主張を退けた。

【ポイント】

  • 社用車の使用が規則上明記された福利厚生でないこと且つ社用車使用はもともと駐在員に限定されている慣習として、社用車使用許可の撤回は不利益変更且つ差別的待遇と認められなかった。
  • 部署異動はK氏の有する知識や技能を発揮できる機会を失わせる動機によるものではなく、近藤氏の有する資質等を加味されたものであると判断された。
  • 近藤氏が出社しなくなった後でトヨタ側は出社要請の書面を送付していることから、トヨタ側が近藤氏を退職に追い込もうとする動機は否定された。

【企業側へのアドバイス】

  • 判決は企業側勝訴だったが、似た事案では従業員の主張が認められるケースも多い
  • 特に外国人・高給取りの解雇訴訟では、数百万ペソ単位の損害賠償が発生する可能性あり
  • 労働条件や人事異動の基準を明文化することが極めて重要
  • (特にフィリピンでは)「職務権利の減少」や「不合理な配置転換」に対する裁判所の目は非常に厳しい


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