【弁護士解説】フィリピンの倒産・再生手続の概要

執筆:弁護士 水谷 守国際チーム

(1) 倒産制度の概要

 フィリピンにおける倒産・再生制度は、以下の法令・規則に基づいています。

  • 企業倒産法(Financial Rehabilitation and Insolvency Act)
  • 大統領令第902-A号(Presidential Decree No. 902-A)
  • 金融再生手続規則(Financial Rehabilitation Rules of Procedure)

 企業が財政的に困難な状況に陥った場合、対応としては主に次の2つの方法があります

①企業再生(Rehabilitation):会社を存続させることを目的とした手続です。債務を再構築し、経営を立て直します。

②清算(Liquidation):会社の資産を処分し、債務の返済に充てたうえで、会社を終了させる手続です。

(2) 再生手続

 再生にはいくつかの方法がありますが、ここでは裁判所を通じた再生手続(judicial rehabilitation)について説明します。再生手続は、以下のいずれかの方法で始まります。

①会社からの申立て(任意的再生)

 会社から再生を申し立てる場合には、取締役会における過半数の同意に加え、発行済株式の3分の2以上を有する株主の賛成が必要です。申立てには、債務者が破産状態であり再生の見込みがあることを示すために、支払不能の事実や再生計画案などを提出する必要があります。

②債権者からの申立て(強制的再生) 

 債権者も、一定の条件を満たせば、会社に対して再生手続の開始を裁判所に申し立てることができます。会社からの申立てと同様に、再生計画案などを提出する必要があります。

【申立てが可能な債権者の条件】

(ⅰ)100万ペソ以上、(ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上相当する金額のうち、いずれか高い方の債権を有していること

【申立てが認められる条件】

  • 債務者が支払期日から60日以上にわたり支払を行っておらず、その債務について法律上の実質的な争いがない
  • 他の債権者によって差押え等の手続が始まり、その影響で債務者が支払不能になる可能性がある

 債権者や裁判所によって再生計画が承認されると、会社はその計画に従って債務の支払いや業務の再構築を進めていきます。ただし、再生が難しいと判断された場合には、裁判所の判断により清算手続に移行することもあります。

(3) 清算

 再生手続と同様に、清算にも2つの申立方法があります。

①会社からの申立て(任意的清算)

②債権者からの申立て(強制的清算)

 一定の条件を満たす債権者は、裁判所に対して債務者の清算を申し立てることができます。

【申立条件】

 以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります:

  • 債権者が3人以上であること
  • 債権者の会社に対する債権の合計額が、(ⅰ)100万ペソ以上、または (ⅱ)債務者である会社の払込資本金の25%以上に相当する金額のいずれか高い方に相当していること


【申立ての根拠となる事情】

 申立ての際には、債務者が支払期日から180日以上にわたり債務を履行していないことや、債務者に再生の見込みがないことなどを示す必要があります。


監修
フィリピン法弁護士 Marcus J. Valdez
(2015年にフィリピン大学ディリマン校にて経済学の学士号を取得し、2020年にはSan Beda College Alabang School of Law にて法務博士を取得。2022年弁護士会登録。同年に法律事務所、Quicho Law Officesにてアソシエイトとして法務分野でのキャリアをスタートさせ、その後2023年にJ&T Expressで企業内弁護士として勤務をし、法律事務所、Cruz and Cruz Law Officesに入所。経済学と法学の両分野において強固な基盤を持ち、戦略的な法的解決策を提供しクライアントを効果的に弁護することに尽力している。有能な弁護士として常に成長をし、能力と熱意をもってすべてのクライアントの利益を代表し保護することを目標としている。)

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