
第1 はじめに
競業避止義務は、基本的には当事者が自由に条件を定めることができます。したがって、競業避止が課される期間、競業避止義務の対象となる事業の範囲や、違反した場合の罰則等は当事者間で自由に決定することができます。
第2 重要な判例
他方、公序良俗に反すると判断される内容の義務を設定した場合、裁判所が効力を否定する場合があります。裁判所は、①競業避止義務の期間②地理的範囲③競業避止義務の対象となる事業の範囲④競業避止義務を負う従業員が有する情報や知見といった要素を勘案して判断しているものと考えられています。
1. G. MARTINI (LTD.) v. J. M. GLAISERMAN, G.R. No. L-13699 November 12, 1918
この事件において、従業員の競業避止義務の期間は退職後1年間とそう長くありませんでしたが、競業避止義務の対象は会社が行っていた事業全部と設定されていました。当該会社は広く複数の事業を行っていましたが、従業員は、会社の一部の事業のためのみに雇用されていました。
結果として、裁判所は、制限の範囲が広範すぎるとして競業避止条項の全体の効力を否定しました。
2. ALFONSO DEL CASTILLO v. SHANNON RICHMOND G.R. No.L-21127 February 9, 1924
この事件において、裁判所は、競業避止義務の範囲に、時間または場所のどちらかに制限が付されている場合で、従業員に課す義務が会社の利益保護のために必要な範囲を超えない合理的な内容である場合には、競業避止義務の規定は有効であると判示しました。この判例は、競業避止義務の有効性の判断基準を示したものであると考えられます。
3. Tiu v. Platinum Plans Phil., Inc., G.R. No. 163512, February 28, 2007
他の裁判例と同じく、競業避止義務は時間、範囲等に関して合理的な制限であれば有効であると判示しました。
本件での競業避止義務条項は、その期間を2年間に限定していました。また、競業避止の対象となる取引に関しても、会社が行っている特定の事業に限定していました。
さらに、裁判所は、重要な事実として、従業員は部長という重要な役職であり、当該事業における機密性の高い情報を有していると認定しました。そして、裁判所は、当該従業員が退職後すぐに当該事業に従事することを認めれば、会社の企業秘密が危険にさらされると判断しました。
結果として、裁判所は、当該事業への参画を制限することは合理的であると判示しました。