【弁護士解説】サステナビリティ条項のモデル条項を公開しているガイダンス等の紹介

執筆:弁護士 水谷 守国際チーム

第1 はじめに

 近年ESGへの取組は企業にとって重要な課題であり、例えば有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示をする必要があります(参考:『【弁護士解説】有価証券報告書におけるサステナビリティ開示基準の改正について』)。

 そして、企業は、策定したサステナビリティに関する方針を実行するため、取引先に対してもこの方針に沿った行動を求める必要性が出てきています。これを法的に担保する手段として、契約書に「サステナビリティ条項」(注1)を規定する方法があり、モデル条項も発表されています。今回はサステナビリティ条項のモデル条項を発表しているガイダンス等をいくつか紹介します。

注1
他にも人権条項、CSR条項などの呼称がありますが、ここでは「サステナビリティ条項」といいます。呼称に関する決まりは特になく、論ずる重要性も特段ないと考えます。当然ですが、重要なことは中身を理解することです。
また、サステナビリティ条項の具体的な機能としては、 コンプライアンス宣言的①機能、事前抑止的機能、 裁判規範としての機能、 情報共有促進機能の② ③ ④ 4つが挙げられています(日本弁護士連合会2015 p57)。

第2 東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した調達コード(第3版)[解説]

 まず1つ目は、『東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した調達コード(第3版)[解説]』です(以下、「東京オリンピック2020調達コード[解説]」といいます。)。東京オリンピック2020調達コード[解説]は、大会の準備・運営段階調達プロセスにおいて、経済的合理性だけではなく持続可能性にも配慮した調達を行うべきという考えのもと、これを実現する調達を行うための基準や運用方法等を定めています。

 そして、東京オリンピック2020調達コード[解説]は、サプライヤーやライセンシーによるサプライチェーンへの働きかけやコミュニケーションの効果を高めるために、契約においてサステナビリティ条項を導入することが有益であるとして、さらに全9項からなるモデル条項を公表しています(具体的な条文内容等は、東京オリンピック2020調達コード[解説]p52-56。) 。

モデル条項の見出し

  1.  条項の目的

  2. 調達コードの遵守

  3. サプライチェーンへの働きかけ

  4. 発注企業による情報提供

  5. 受注企業による報告

  6. 発注企業の調査権・監査権

  7. 改善措置

  8. 解除権

  9. 損害賠償の免責

 注目する点はおおまかに2つあります。

 1つ目は、受注者の義務の内容です。受注者は自身だけではなく、自身のサプライチェーンに対しても調達コード等の遵守について働きかけをする必要があります。さらに、受注者は求めに応じて遵守の状況等について速やかに報告する必要があります。これは、受注者は調達コードの遵守のためにガバナンスを整備する必要が生じるということであり、その負担は軽くないと考えられますが、その負担を少しでも軽くするために「発注企業による情報提供」(4項)があります。重要なことは受注者へ一方的に負担を押し付けるのではなく、全体で協力体制を築いて措置を講じていくことです。

 2つ目は、本条項に違反した場合です。違反が発覚した場合でも直ちに契約を解除することはできず、まずは改善措置を要求することになります。詳細は省きますが、いきなりの解除は望ましくないと考えられています。さらに、解除する場合においても、「調達コードの重大な不遵守が継続した場合」(8項)と規定されており、単に改善措置に応じなかったからといって解除できるわけではありません。「重大な不遵守」とは、社会的非難可能性が高い場合や受注者が重大な人権侵害を引き起こした又は助長した場合等が含まれます(日本弁護士連合会2015 p65参照。)。


第3 人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)

 2つ目は、「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」です。こちらは、企業が策定したサステナビリティに関する方針を達成するため、受注者に対しても当該方針を遵守させるために契約書で義務を負わせることを推奨しており、さらにモデル条項を公表しています(日本弁護士連合会2015 p61~69)。

モデル条項見出し

  1. 本条項の目的

  2. CSR行動規範の遵守

  3. 人権デュー・ディリジェンスの実施

  4. 発注企業の情報提供義務

  5. サプライヤーの報告義務

  6. サプライヤーの通報義務

  7. 発注企業の調査権・監査権

  8. 違反の場合の是正措置要求

  9. 是正措置要求に応じない場合の解除権

  10. 損害賠償の免責

  11. CSR行動規範の改定

 東京オリンピック2020調達コードよりも見出しが多いですが、基本的な枠組みは同じです。したがって、 ①受注者はこの条項を遵守するためにガバナンスを整備する必要があり、②違反が発覚しても発注者は直ちに解除することができません。

 なお、ここではじめて「人権デュー・ディリジェンス」という用語が出てきましたが、簡単にいいますと、企業が、自社グループ会社及びサプライヤーにおける人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、どのように対処したかについて説明・情報開示 していくために実施する一連の行為を意味します(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議2022 p7)。


第4 BALANCING BUYER AND SUPPLIER RESPONSIBILITIES Model Contract
Clauses to Protect Workers in International Supply Chains, Version 2.0

 こちらはアメリカ法曹協会によって公表されたモデル条項であり、発注者がアメリカに所在していること等を前提としており(American Bar Association p19)、内容も長いため本稿では名前を紹介するだけに留めますが、厳格な内容であるため日本国内の契約でこのモデル条項をそのまま利用することは困難かと思われます。

第5 最後に

 以上、モデル条項を公開しているガイダンス等を紹介しました。サステナビリティ条項を定める際にとても参考になりますが、重要なことはサステナビリティ条項を規定する目的をしっかりと意識したうえで内容を定めることです。


【参考文献】

参考文献は全て2024年3月31日に閲覧しました。

Working Group to Draft Model Contract Clauses to Protect Human Rights in
International Supply Chains American Bar Association Section of Business Law”
BALANCING BUYER AND SUPPLIER RESPONSIBILITIES Model Contract Clauses to
Protect Workers in International Supply Chains, Version 2.0” (2021)
https://www.americanbar.org/content/dam/aba/administrative/human_rights/
contractual-clauses-project/mccs-full-report.pdf

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会『東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した調達コード(第3版)[解説]』(2019)
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/special/docs/%E8%AA
%BF%E9%81%94%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89%E8%A7%A3%E8%AA
%AC.pdf

日本弁護士連合会『人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)』(2015)
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2015/150107_2.html

ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議『責任あ
るサプライチェーン 等 における人権尊重のためのガイドライン』(2022)
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf


執筆者

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