
執筆:弁護士 金子 知史、弁護士 宮本 真衣 (国際チーム)
1 最低賃金法令の概要
フィリピンでは、労働者の権利と福祉を保護するために、“The Republic Act No. 6727”通称”Minimum Wage Law”(以下「フィリピン最低賃金法」といいます。)が制定されています。
フィリピンにおける最低賃金に関する制度は、およそ日本における制度と類似しているといえます。
フィリピン最低賃金法は、フィリピンの全ての業種および雇用者に適用され、フィリピンの各エリアによって異なる金額が設定されています。また、最低賃金の決定は、労働市場の状況、物価の変動、および地域経済の能力を考慮して、“Regional Tripartite Wages and Productivity Boards”によって行われます。
特徴としては、エリアのカテゴリに加えて、”Non -Agriculture“, “Agriculture-Plantation”, and “Agriculture-Non Plantation”のカテゴリごとに最低賃金が記載されている点が挙げられます。
2 最低賃金に関する企業のコンプライアンス
フィリピンの企業は、適用される地域の最低賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。労働者が所定の労働時間を超えて働いた場合の残業手当も、最低賃金に基づいて計算されていることが必要になるため注意が必要です。
3 主要エリアの最低賃金
フィリピンでは、地域によって最低賃金が異なります。例えば、首都圏であるメトロマニラのエリアでは、最低賃金が他の地域に比べて高く設定されている傾向が見られます。一方、農村地域や発展途上地域では、相対的に低い最低賃金が設定されています。これらの差は、各地域の生活費や経済活動の差を反映しています。
各エリアの最低賃金は“Department of Labor and Employment”通称“DOLE”と呼ばれるフィリピンの政府機関がウェブサイトにて提示しています。
Summary of Current Regional Daily Minimum Wage Rates by Region, Non-Agriculture and Agriculture
(最終閲覧:2023年11月28日)
4 フィリピン最低賃金法違反に関する罰則とリスク
フィリピン最低賃金法に違反した企業は、罰金や懲役刑が科される場合があります。具体的には、2万5,000ペソ以上10万ペソ以下の罰金、2年以上4年以下の懲役、または罰金と懲役の両方が科されます。なお、この法令に関して有罪判決を受けた者は、保護観察に付されることがないため注意が必要です。
また、企業は、労働者への未払給付金がある場合は、当該未払給付金の2倍に相当する額の支払いを命じられる場合があり、さらには企業活動の停止命令が下されるリスクもあります。