【弁護士解説】M&Aのメリット・デメリットとは? ~法律的観点から初心者にもわかりやすく解説~

執筆:弁護士 大橋 乃梨子M&Aチーム

はじめに:M&Aは万能ではない

 M&A(Mergers and Acquisitions/合併・買収)は、企業の成長や再編を図るうえで有効な戦略のひとつです。近年では中小企業やスタートアップにおいても活発に行われており、事業承継やスケール拡大を目的にM&Aを検討する経営者も増えています。

 しかし、M&Aは決して「万能な手段」ではありません。法的リスクを含めた慎重な検討が必要であり、適切な意思決定のためには、メリットとデメリットの両面を理解することが不可欠です。

 本記事では、M&Aの主なメリット・デメリットを法律的な視点から整理し、初心者の方にもわかりやすく解説します。

1. M&Aの主なメリット(買い手側)

 まずは、企業を「買収する側」にとってのM&Aのメリットを見てみましょう。

(1)時間を買う:スピーディな事業拡大

 既存の企業や事業を買収することで、ゼロから事業を立ち上げるよりも圧倒的に短期間で市場参入や事業拡大が可能です。具体的には、営業許可やライセンスを引き継ぐことができ、株式譲渡の場合であれば、既存の取引先との契約関係をそのまま承継することができます(ただし、CoC条項に注意が必要です)。

 特に、医療・建設・運輸等、許認可が必要な業種では、一から資産を準備して、体制を整備して申請という流れになると、相当なコストや工数がかかるため、既存法人の買収によりこれらを引き継げるのであれば、事業拡大のために大きなメリットといえます。

(2)人材・ノウハウの獲得

 買収により、優秀な人材・組織・知的財産などを一括で取得できます。この場合、事業運営上必要な知的財産権が対象会社に帰属しているか確認します。

 具体的には、就業規則や職務発明規程の内容、(業務委託先に開発を外注している場合には)業務委託契約の内容を確認します。また、報奨金の支払いの有無や第三者からの権利主張の有無をあわせて確認の上、権利帰属の状況を精査します。

 また、従業員との関係では労働条件通知書や雇用契約書の内容を確認して労働関係法令を遵守しているか、また未払残業代の有無等を確認の上、円滑な取得ができるか、必要な手当てはないか、確認することが重要です。

(3)競合排除やシェア拡大

 競合企業を買収することで、市場シェアの拡大や競争環境の優位性確保が期待できます。ただし、独占禁止法の企業結合規制の対象となる場合には、届出や審査が必要となり得ますので、該当性を判断の上、クロージングまでのスケジュールを立てる必要がございます。

2. M&Aの主なメリット(売り手側)

 会社を売却する側にも、様々なメリットがあります。

(1)事業承継の手段として

 後継者不在に悩む中小企業にとって、第三者への売却(第三者承継)は有力な事業承継手段です。経営者が退任した後の責任等について、取引契約で明確化しておくことが適当です。

(2)資金回収とリスクの切り離し

 企業価値を現金化することで、将来の経営リスクから解放されると同時に、引退や新規事業への資金とすることもできます。複数の事業を運営している場合、事業譲渡をすることで、本当に注力したい事業の発展に力を入れることができます。取引契約においては、売主による補償責任が規定されることが多いので、当該責任の内容(範囲や期限等)を明確化することが適当です。

3. M&Aのデメリットと法的リスク(買い手側)

 M&Aは成功すれば大きな効果がありますが、失敗した場合のリスクも大きく、慎重な検討が求められます。

(1)簿外債務や法的トラブルの引き継ぎ

 買収後に「知らなかった訴訟リスク」や「未払残業代」等が発覚すると、買い手が多額の損害を被る可能性があります。デューデリジェンスの実施で状況を確認するとともに、表明保証の対象とし、補償条項でカバーすることが重要です。

(2)従業員や取引先の離脱

 買収がきっかけで、従業員の退職や主要取引先の契約解除が生じることもあります。事前の従業員への説明を義務付けたり、キーマンについては取引契約においてキーマンロック条項を入れることで対象会社からの離脱した場合の補償を定めておくことが考えられます。また、主要取引先との契約について事業譲渡の場合であれば、売主をして事前の取引先から同意を取得させたり、株式譲渡であればCoC条項の有無をチェックすることが重要です。

(3)独禁法リスクや許認可の問題

 大規模な買収や特定業種のM&Aでは、独占禁止法上の届出義務や、許認可の承継ができないリスクがあります。薬局・建設・人材紹介等の許認可の承継要件が複雑な事業においては特に、要件の充足、手続きや流れを確認しておくことが必要です。

4. M&Aのデメリットと法的留意点(売り手側)

 売却側にも、以下のような法的注意点があります。

(1)責任が売却後も残る

 取引契約書上の表明保証違反や補償条項により、売却後も売主が損害賠償責任を負うケースがあります。表明保証の範囲を限定したり、賠償の下限・上限及び期間を設定する等で、対応することが望まれます。


(2)情報開示と秘密保持のジレンマ

 M&Aのプロセスでは、買主に対して会社機密情報を開示する必要がありますが、秘密保持契約(NDA)をしっかり締結しておかないと、漏えいや悪用のリスクがあります。

(3)関係者対応

 株主総会決議、契約書相手方に対する通知義務がある場合、並びに従業員、株主及び債権者等各方面への説明義務等、会社の状況によって、関係者への適切な対応をする必要がありますので、整理することが適当です。



5. 弁護士の役割:M&Aを安全に成功させるために

 M&Aの成功には、「戦略的判断」だけでなく「法的リスクの予防・調整」が欠かせません。弁護士は以下のような局面で重要な支援を行います。

フェーズ弁護士の主な支援内容
検討段階スキームの選定、各スキームによるリスクの洗い出し
調査段階法務デューデリジェンスによるリスクの可視化
契約締結契約書の作成又はレビュー・交渉(表明保証、補償条項等)
実行段階クロージング支援
PMI規程の整備、契約書ひな形の統合、検出された法務課題の対応等


まとめ:メリットを活かし、リスクに備えるM&Aを

 M&Aは、事業成長・承継・競争力強化のための強力な手段ですが、それと同時に法的リスクを伴う高度な取引です。

 だからこそ、メリットとあわせてデメリットも把握した上で、適切な戦略を立てることが重要です。


M&Aをご検討中の方へ:
 ご自身の事業にとってM&Aが最善の選択肢かどうか、どのようなスキームが適しているか、法的にどのような準備が必要か等、まずはお気軽にご相談ください。貴社の状況に応じた法的視点からのご提案をいたします。

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)