【弁護士解説】株式を対価とするM&Aの手法~株式交換~

執筆:弁護士 鈴木 景M&Aチーム

はじめに

 近年、スタートアップ企業が複数の企業を傘下に収める「ロールアップ戦略」を採用し、精力的にM&Aを進める事例が増えてきています。

 こうした動きの中で、現金を対価とする従来型のM&Aだけでなく、現金を使わず株式を対価とする手法にも注目が集まっています。その手法の一つの例が、ある会社が他の会社を完全子会社化するためのスキームである「株式交換」です。

本記事では、株式交換の基本的な仕組み、法的手続、メリット・デメリット、契約上の留意点、そして弁護士の支援内容をわかりやすく解説します。

1. 株式交換とは?

 株式交換とは、会社法2条31号に定義される手法で、一つの株式会社(親会社)が、他の株式会社(子会社)を完全子会社とするために、子会社の株主からその株式を取得し、対価として親会社の株式を交付する組織再編行為です。

 この結果、買収会社が、対象会社の株式の100%を保有することになり、対象会社は買収会社の完全子会社となります。

 また、対象会社の株主は、対象会社の株式が取得される代わりに、親会社となる買収会社の株式が交付されることになります。

 通常の株式譲渡は、原則として現金を対価として行うことが多いところですが、この株式交換の手法を利用することにより、現金ではなく株式を対価としてM&Aを実行することが可能となります。

2. 株式交換の具体的な流れと法的手続

 具体的な株式交換の手続は、以下のとおりです。

(1)株式交換契約の締結

 買収する企業とされる企業との間で、株式交換契約書を締結します。

 株式交換契約に記載しなければならない事項は会社法において規定されておりますので、株式交換契約を締結する際は、それらの記載が網羅されているかを確認する必要があります。

(2)株主総会決議

 原則として、買収する企業・される企業の双方において、株主総会の特別決議が必要となります(会社法795条)。
 ただし、一定の要件を満たせば、買収する企業側では、取締役会決議で足りる場合もあります(簡易株式交換)ので、簡易な手続で行うことができるかどうか、確認をしておく必要があります。

(3)債権者保護手続

 株式交換を行う場合、買収される側については、株主構成が変わるのみで、法人格には影響がなく買収される企業の債権債務関係に影響を及ぼすものではないことから、債権者保護手続は原則として不要です。

 また、買収する側についても、買収対価が株式である限りは、自社の株式を発行するのみで、会社の財産に影響を及ぼすものではないため、債権者に不利益を生ぜず、したがって原則として債権者保護手続は不要です。
 株式以外の資産が対価として交付される場合には、会社の財産状態が悪化することがありうることから、この場合には例外的に、買収する側の会社の債権者について、債権者異議手続が必要とされています。

(4)反対株主の対応

 株式交換は、株主総会決議によって有無を言わさず株主関係を変動させるものであり、株式交換に反対する株主にとっては自分の意思に反して株式を処分させられることになりますので、そのような反対株主の意思の尊重のため、反対株主には株式の買取請求権が認められています。

 また、株式交換契約において新株予約権についての定めがある場合、その内容があらかじめ新株予約権の内容として定められた内容と合致している場合を除いて、買収される会社の新株予約権者に、新株予約権の買取請求が認められます。

(5)効力発生・登記

 株式交換契約で定めた日をもって、株式交換の効力が発生します。
 株式交換の効力が発生した後、当事会社は法務省令で定める事項を記載した書面等を作成し、効力発生日から6か月間本店に備え置かなければなりません。
 また、株式交換の登記も必要となります。

3. 株式交換を行うメリット・デメリット

 株式交換は、これまで述べたとおり、株式を対価として、他の会社の株式を取得する手続ですが、買収する側からすると、「買収される企業の株主に対して新たに株式を発行して、その対価として、買収する企業の株式を取得する」と見ることができるため、同じく新株発行時に金銭以外の財産で払込を行う「現物出資」の手続に似ているといえます。

 現物出資の場合、払込のために供する財産の価値について、原則として検査役による検査を受ける必要があり、この手続が実務上やや重い、という面があります。

 株式交換の手続であれば、検査役の検査が不要である点はメリットといえます。

 他方で、株式交換は前記のとおり、全般的な手続の工数がかかる点はデメリットといえるかもしれません。

 また、反対株主がいる場合には、反対株主による買取請求に対応する必要がある点も、デメリットといえるでしょう。

4. 株式交換によるM&Aを行おうと思ったら

 以上のとおり、株式交換は会社法において厳格に要件・手続が定められており、これらの手続を漏れなく対応することが必要になります。

 そのため、買収する企業・される企業、共に株式交換によるM&Aを検討する場合には、弁護士に依頼をすることが望ましいといえるでしょう。

 また、株式交換については、税制適格に該当するか否かによって税務が変わりうることから、税理士にも併せて関与を依頼することが望ましいといえます。




5. まとめ

 株式交換は、株式を対価として100%買収を行うことができる手法であり、キャッシュがなくても他社を自社の傘下に収めることができる点で、スタートアップにフィットした成長戦略といえます。

 一方で、手続の複雑性や税務上の処理など、通常の株式譲渡とは異なる難しさがありますので、お考えになった際は、早いタイミングで弁護士や税理士等の専門家を関与させるのが有益といえるでしょう。

 当事務所では、株式交換・合併・会社分割などの組織再編型M&Aについて、スキーム設計から契約作成、登記・手続支援、税理士との連携までトータルでご支援しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください

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