【弁護士解説】事業承継から成長戦略へ~中小企業庁「中小 M&A 市場の改革に向けた検討会 中間とりまとめ」の概要

執筆:弁護士 鈴木 景M&Aチーム

はじめに

 2025年8月5日、中小企業庁から「中小M&A市場の改革に向けた検討会」の中間とりまとめが公表されました。
 このとりまとめでは、これまで「事業承継」の手段として捉えられてきた中小企業M&Aについて、引き続き、事業承継の手段としての浸透・実現の後押しに加え、「成長戦略」としても積極的に活用できるよう、市場全体の質の向上や支援体制の再構築を目指す重要な提言が含まれています。

 近年、経営者の高齢化や後継者不在といった問題に直面する中小企業が増える一方、労働人口の減少や人手不足といった構造的な課題も深刻化しています。そうした中でのM&Aは、単なる事業承継手段にとどまらず、事業の持続可能性や生産性向上、地域経済の活性化につながる手段として利用することも期待されます。

 本記事では、中小企業庁が発表した中間とりまとめの内容を、法律実務の視点からわかりやすく解説するとともに、弁護士としてどのような支援が求められるのかについても掘り下げていきます。

1. 改革プラン策定の背景

 中小企業においては、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な課題となっており、特に地方や小規模事業者においてM&Aの活用が十分に進んでいません。これまでにも「事業承継5ヶ年計画」(2017年)や「中小M&A推進計画」(2021年)を通じた支援策が講じられてきましたが、依然として承継予定が未定の中小企業は約26万社にのぼるとされています。

 さらに、近年の人手不足、賃上げ圧力の高まりなどから、生産性の向上が非常に重要となっている状況において、M&Aが売上高や生産性の向上にもつながりうる取り組みであることから、M&Aを「成長戦略」の一手段として活用するべきとの認識が強まっています。

 加えて、中小M&Aの市場の急速な拡大により、M&A支援業者の数が増加する一方で、質のばらつきや、不適切な譲受側の関与によるトラブルの問題などの課題も指摘されてきました。

 こうした背景のもと、2025年4月に中小企業庁が設置した検討会の議論を踏まえ、実施することが求められる取り組みとして「中小M&A市場改革プラン」の中間とりまとめ(以下「本取りまとめ」といいます。)が公表されるに至りました。

2. 中小M&Aの意義と活用の可能性

 本取りまとめでは、中小M&Aが持つ意義について、以下のとおりまとめられています。

(1)経営資源の散逸防止

 後継者がいないまま廃業を選択する中小企業は、黒字企業であっても少なくありません。
これは、地域や業界にとって貴重な経営資源(人材・技術・顧客など)が失われることを意味するところ、M&Aを活用することで、こうした資源を次世代へと引き継ぐことができます。
 特に、M&Aの実施により、譲受側にとっては貴重な経営資源である人材の獲得ができ、譲渡側にとっては、これまで長年事業を支えてくれた従業員の雇用を守ることも可能となります。

(2)地域社会の機能維持

 とりわけ地方では、商店や整備業者、建設業など、地域住民の生活に欠かせない事業が廃業によって失われてしまうと、地方社会それ自体の衰退につながってしまいます。
M&Aの実施により、地方における必須の機能を担う後継者不足企業が廃業を免れることによって、地域社会の持続的発展につながります。

(3)成長・生産性の向上

 M&Aの実施によって、経営者の世代交代による事業刷新や、買収企業とのシナジー効果(販売チャネルの共有・人材交流など)により、人手不足の状況においても、企業の成長や生産性向上を実現することが期待できます。

3. これまでの支援策の概要

 中小企業庁は、これまで、M&A による後継者不在企業の第三者への承継や M&A による成長の実現を図るため、様々な取り組みが講じられてきました。

 一例としては、「事業承継・引継ぎ支援センター」による、事業承継の相談やM&Aマッチング支援等の実施、事業承継に関する税制優遇や補助金の交付、中小M&Aガイドラインの策定や、中小M&A支援期間登録制度、中小PMIガイドラインや実践ツールの公開などが挙げられます。

 これらの取り組みにより、支援件数は増加しつつあり、第三者への承継が着実に浸透してきたと評価できる反面で、潜在的に譲り渡し側になりうる企業が約26万社あることから、まだまだ継続的に支援を行う必要性がある状況です。

 また、第三者承継が増えた一方で、M&Aを実施した後、譲り渡し側から資金を吸い取る一方、経営者保証が解除されず、負債を残したまま連絡を絶つ手口を繰り返すといったトラブル事案も顕在化してきました。

4. 今後の施策の方向性(3本柱)

 以上の状況を踏まえ、本取りまとめでは、以下の3つの軸で施策を展開する必要があると示されています。

(1)譲り渡し企業への支援策

 譲り渡し企業への支援策として、まず、商工会議所や地域金融機関等による、事業診断や相談体制の強化を通じて、潜在的なM&Aニーズを掘り起こす取り組みが挙げられています。これにより、これまでM&Aを検討していなかった経営者にも選択肢を提示し、早期の準備を促すことが可能になります。

 また、広報活動や成功事例の紹介を通じて、経営者の不安を払拭し、M&Aに対する心理的ハードルを下げる、といった方策についても検討されています。

 さらに、経営者保証の解除等の担保のためのM&A契約の規定の検討や実務慣行の定着、具体的なM&A取引に入る前段階での、会社の状況精査に関する支援、中小M&Aの取引相場の醸成等により、譲渡企業が、M&Aを前向きに検討でき、また、実現可能な公正かつ納得感のあるM&Aを実現できるような支援を行う方針が示されています。

(2)M&A支援機関の「質」の担保

 M&Aの支援機関による支援の「質」の担保のため、複数の支援機関について、業務実績や手数料等の観点で比較検討を行うことができるようにする、M&Aアドバイザー個人の知識やスキルを高めるための資格制度を設ける、地方のM&Aを活性化させるため、地域の事業承継・引継ぎ支援センターの体制強化を図る等の方針が示されています。

(3)買手側企業に対する支援の強化

 買い手側企業に対する支援として、複数回M&Aの実施・推進、ファンドによる譲受けの促進、PMIに対する補助金の交付、支援機関による優良な買い手企業の発掘の推進等の方針が示されています。

5. 中小M&Aにおける弁護士の活用ポイント

 以上のように、中小企業庁は今後も中小M&Aに関する支援を一層拡充していく姿勢を示しています。

 前記のとおり、昨今では、中小M&Aは「事業承継」の手段であるだけでなく、売り手・買い手双方にとっての「成長戦略」としての役割にも注目が集まっています。

 こうした流れの中で、M&Aを確実に成功へと導くことの重要性は、これまで以上に高まっているといえるでしょう。

 このような状況の中では、弁護士に、以下のような業務を依頼することを検討されるとよいでしょう。

(1)売り手側による弁護士の使い方

・具体的な案件に入る前の会社内の整備

 M&Aの確実性を高めるために、また、会社が持つ本来のポテンシャルに基づく適正な価格でのM&Aを実行するためには、具体的な案件に入る前に、会社内を整備しておくことが非常に重要です。

 M&Aの実行場面では、法務に関するデューディリジェンスも行われることから、具体的な案件に入る前の段階で、法務面についても整備しておくことが有用です。

 当事務所では、法務面に関する支援に加え、他の専門士業との協働により、具体的な案件に入る前の段階での財務・法務面についての整備をワンストップでお受けいたします。

・支援機関選定に関するアドバイス

 前記のとおり、支援機関についてはその「質」の担保が非常に重要とされています。

 当事務所でも、これまでのM&A支援の実績から、信頼性の高い支援機関とのお付き合いもございますので、支援機関選定に関するアドバイスやご紹介も可能です。

・最終契約におけるアドバイス

 前記のとおり、昨今では、経営者保証の解除がされない、譲渡後に雇用が守られないなどのトラブルが顕在化してきています。

 このようなトラブルを回避するためには、最終契約について慎重に検討をすることが必要不可欠です。

 オーナーとしてはM&A後に安心して身を引くことができるように、また、自身が育てた会社において従前の雇用が守られ、社員の方が安心して働く環境が売却後も維持されるように、最終契約はきちんと、費用をかけて、確認をするべきポイントです。

 当事務所では、これまで多くのM&A取引を実施してきた経験がありますので、最終契約のレビューについても安心してご依頼いただけます。

(2)買い手側による弁護士の使い方

・取引スキームの設計助言

 税務や法務、許認可の観点を踏まえ、最も効率的かつ安全な取引形態や資金の流れを設計し、全体のリスクを軽減します

 当事務所では、法務面に関する支援に加え、他の専門士業との協働により、具体的な案件に入る前の段階での税務・法務面についての整備をワンストップでお受けいたします。

・法務デューデリジェンスの実施

 対象会社の契約、許認可、労務、知的財産などを精査し、法的リスクや潜在的な問題点を洗い出すことで、価格や条件交渉、さらにはPMIに活かします。

 当事務所では、これまで多くのM&A取引においてデューディリジェンスを行ってきた実績がございますので、デューディリジェンスについても安心してご依頼いただけます。

・最終契約書の作成・レビュー

 株式譲渡契約などの最終契約について、表明保証、補償条項、売却金額の調整条項の設定(アーンアウト)など、法的観点から検証し、売り手側と交渉を行います。

・PMIフェーズでの法務支援

 M&Aは、購入して終了ではなく、むしろクロージングは買収の第一歩です。

 統合後の規程整備、組織変更等、法務面に関する統合作業の実施にあたり、弁護士を関与させることがスムーズなPMIにつながることも考えられます。また、法務デューディリジェンスにて発覚した修正ポイントも、PMIの過程で修正を行うことが必要であり、これらの項目は法務デューディリジェンスを担当した弁護士が実践することがスムーズといえます。

 特にPMIについては、前記のとおり補助金の交付制度が用意されています。

 当事務所では、ご依頼者との伴走によるビジネスの共創に強みを有しておりますので、PMI支援についても安心してご依頼いただけます。後の実務分野として注目されます。

6. おわりに

 今回の中間とりまとめは、中小企業のM&Aを単なる承継手段にとどめず、地域経済の活性化や生産性向上といった、売り手企業にとっての「成長戦略」として、再定義する内容となっています。支援体制の整備や新制度の導入によって、M&Aを検討しやすい環境が整いつつあります。

 当事務所では、関連する士業や支援機関との充実した提携関係により、中小M&Aを総合的にバックアップする体制が整っておりますので、M&Aで会社を売却しようとしている方や、初めてのM&Aで不安を抱える企業様、M&Aで中小企業を譲り受けようとする企業様、ぜひ当事務所までご相談ください



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