【弁護士解説】日本の企業も知っておきたい…!EUのAI規制法案の概要について(1/3)

執筆:弁護士 森川 そのかAI・データ(個人情報等)チーム

はじめに

 2023年現在、ChatGPTをはじめ生成系AIブームの流れもあり、世界中の企業のAI利用のニーズが以前になく増しています。もっとも、AIを安全かつ建設的な方法で開発・利用するためのルール構築については、その構想が各国で異なります。

 そして、テクノロジーの発達によって人・モノ・金・情報の国境がなくなりつつある現代社会においては、企業が日本国内に限らず、海外の法規制に目を向ける必要性が生じてきています。

 上記をふまえて、本稿では、世界初のハードローとしてのEU AI規制法となりうるEUの統一規則、“Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL LAYING DOWN HARMONISED RULES ON ARTIFICIAL INTELLIGENCE (ARTIFICIAL INTELLIGENCE ACT) AND AMENDING CERTAIN UNION LEGISLATIVE ACTS”(以下「EU AI規制法」と表記する。)の概要について、以下の項目にしたがい、4章に分けて解説していきます。

第3章 EU AI規制法の規制範囲と対象 (第2回についてはこちらから)
第4章 リスクベースアプローチによる規制内容 (第3回についてはこちらから)

本稿が皆様の今後の事業の発展の一助になれば幸いです。
(※本記事は2023年6月8日現在の情報をもとに作成しています。)

 第1回の今回は第1章と第2章について解説します。

第1章 EU AI規制法制定の経緯とスケジュール

a.EU AI規制法制定の経緯

 いわゆるAIと呼ばれる生成人工知能は我々の生活を便利にしてくれる一方で、使い方を間違えれば犯罪の助長や民主主義の破壊、人間の心身の崩壊などの危険性も含んでいます。そしてこの危険性はAI技術の発展と普及がなされるにつれて無視できなくなっています。

 EU AI規制法は上記の経緯をふまえ、EU加盟国全体に適用されるAI開発・使用に関する統一ルールを作ることで、AIの利益とリスクを管理し、人間中心のすなわち「AI=人間が豊かで幸福な生活を実現するためのツール」となるようにしていきましょう、という目的で制定されることとなりました。

b.EU AI法制定のスケジュール

 EU AI規制法案が発表されてからの経過と今後の見通しは以下のようになっています。

・2021年4月21日:欧州委員会がEU AI規制法案を発表
・2023年5月11日:域内市場委員会と自由人権委員会がEU AI規制法案を採択
・2023年6月12日から15日:EU議会全体での承認を予定
・2023年6月以降:EU理事会での承認、EU AI規制法の「発効」
         移行期に入り、具体的な基準などの作成を行う
・2024年後半:完全施行

 上記によると、最速で2024年後半にはEU AI規制法が施行され、整備された基準に基づく適合性評価の運用等が始まります。

第2章 EU AI規制法の日本への影響

a.EU AI規制法案の拘束力

 EU AI規制法は「Regulation」すなわち「規則」に該当するため、すべての加盟国を拘束し、直接適用性(採択されると加盟国内の批准手続きを経ずにそのまま国内法体系の一部となる)を有します。(※1)

 EU法は他に、「Directive」=指令(新たに国内法を制定、追加、修正するなどしてこれを達成するもの)や「Recommendation/Opinion」=勧告・意見(法的拘束力のない見解表明)等の複数の種類があります。「Regulation」はそれらの中で一番強制力のある法に位置づけられます。

 Regulationの有名な例ではGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)が挙げられます。

b.日本のAI規制の動向

 他方で日本は、現在はハードローによる規制は議論されておらず、以下のようなソフトローによる自主規制で対応する方針をとっています。

官公庁
・「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン Ver.1.1」(経済産業省)(2022年)
・「AI利活用ガイドライン~AI利活用のためのプラクティカルリファレンス~」(総務省)(2019年)
・「人間中心のAI社会原則」(内閣府)(2019年)

民間
・「生成AIの利用ガイドライン」(一般社団法人日本ディープラーニング協会)(2023年)
・各企業のAI倫理指針

c.日本におけるEU AI規制法の影響

 日本の企業が、AIを用いたサービスを純粋に日本国内でのみ展開する予定であればEU AI規制法については関係がありません。

もっとも、EU AI規制法は上述の通り加盟国に直接適用され、更にその適用範囲が広範に渡る可能性が高く(※2)、また違反時の制裁金の額も高額にのぼります。更に、適用範囲を含む、細かな規定については今後明確化されていきますので、現状EU AI規制法と関係がない国内企業であっても将来的に同法の遵守の必要性が生じる可能性は大いにあります。

 したがって、日本の企業が現時点においてEU AI規制法案の内容及び動向について注視することは有意義です。

 具体的に、どのような場合に適用されるのかについては、次回の「第3章 EU AI規制法の規制範囲と対象」の中で詳しく解説します。


(※1)欧州連合(EU)European Union 通信

(※2)「第3章 EU AI規制法の規制範囲と対象」で詳述。

監修
弁護士 阿久津 透
(個人情報保護法、電気通信事業法といったデータ・通信に関する分野を中心に担当。 データ分析やマーケティング施策実施における法規制の対応、情報漏えい対応などデータの利活用に関する実務対応を行っている。 その他、スタートアップファイナンス、企業間紛争も対応。)

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