
執筆:GVAコラム編集局
こんにちは、GVAコラム編集局です。
企業とフリーランスの取引に関する新しい法律「フリーランス新法」が2024年11月1日に施行されます。フリーランス新法は、組織に属さずフリーランスで働く人の労働環境を保護するための法律です。
日本のフリーランス人口は増加傾向にあり、特にここ数年は大幅に増えています。
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが普及したことにより企業側も雇用システムを見直し、フリーランスを活用する動きが活発化しています。
一方で、企業とフリーランスの間ではさまざまなトラブルも発生しています。この記事ではフリーランス新法の概要と、発注事業者が抑えるべきポイント、そして実務上の対応について解説します。
フリーランス新法とは?
「フリーランス新法(フリーランス保護新法)」は、フリーランスに業務を委託する事業者に対し、取引条件の明確化や報酬の支払期限、ハラスメント防止などを義務付ける法律です。これにより、フリーランスと企業間の取引を適正化し、フリーランスの労働環境の安定化を図ります。
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」ともいわれます。
【参考】
中小企業庁資料「フリーランスの取引に関する新しい法律が11月にスタート」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law03.pdf
公正取引委員会フリーランス新法特設サイト
https://www.jftc.go.jp/freelancelaw2024/index.html
※注釈
法律上、フリーランスは「特定受託事業者」、発注事業者は「特定業務委託事業者」や「業務委託事業者」と表記されますが、この記事では分かりやすいように、それぞれ「フリーランス」「発注事業者」とします。
フリーランス新法の背景
近年、新型コロナウイルスの影響でフリーランス人口が急増しました。感染拡大を防ぐため多くの企業がリモートワークを導入し、そのメリットを認識する中で、フリーランスとしての選択肢が注目されました。
また、働き方改革の推進やSNSの普及もフリーランス市場の成長を後押ししています。一方で、増加するフリーランスと共に取引上のトラブルも顕在化しており、特に取引条件の不明確さや法人に対するフリーランスの立場の弱さが問題視されています。
このような状況を踏まえ、フリーランス新法は立案されました。その目的は、取引の適正化を通じてフリーランスの労働環境を改善し、安定した労働条件を確保することにあります。
フリーランス新法の概要
フリーランス新法では発注事業者に対し、フリーランスへの適正な取引と就業環境の整備を行うことが義務付けられています。
①口頭以外での取引条件の明示
発注事業者がフリーランスに業務委託をする際、口頭ではなく、書面やメールで取引条件を明確にする必要があります。LINEやSNSのメッセージでも認められますが、重要な条件は文書化しましょう。
具体的には、以下の内容を明示する必要があります。
・委託する業務内容
・報酬額と支払期日
・発注事業者とフリーランスの名称
・業務の委託日
・給付または役務提供の日時と場所
・検査完了日(検査をする場合)
・報酬の支払方法に関して必要な事項(報酬が現金以外の場合)
上記にある「給付または役務提供の日時と場所」とは、委託業務の内容に応じて、成果物がある場合は納品する日時と場所、成果物がない場合はその業務を遂行する日時と場所を意味します。
発注事業者は、委託する業務内容に応じて上記の内容を明確にしなければなりません。
②60日以内の報酬の支払い
発注事業者は、成果物を受け取った日から最大で60日以内に報酬を支払わなければなりません。
注意すべき点は、起算日が「成果物を受け取った日」であることです。
例えば、「月末締め/翌月末払い」の場合は60日以内での支払が可能ですが、「月末締め/翌々月末払い」では60日を超えてしまうためフリーランス新法で定められた義務に抵触してしまいます。
そのため、当月までに受け取った成果物は翌月末を支払期限とするのがいいでしょう。
ただし、委託する業務が再委託の場合は、例外として元委託契約の報酬支払期日から30日以内に支払いを完了すれば問題ありません。その場合は成果物の受け取りから60日を超えるケースが認められます。
③フリーランスへの不当な行為の禁止
発注事業者はフリーランスの利益を損なう不当な行為を行ってはなりません。
フリーランスへの業務委託期間が1カ月を超える場合、以下の禁止事項が定められています。
・発注事業者の都合で成果物の受領を拒否または返品すること
・発注事業者の都合で成果物の内容変更またはやり直しを命じること
・合意なく報酬を減額すること
・相場よりも著しく低い報酬額を不当に設定すること
・正当な理由なくフリーランスへ商品の購入やサービスの利用を強制すること
・フリーランスへ金銭やサービス、その他経済上の利益提供を要請すること
発注事業者の一方的な都合でフリーランスが不利益を受けないための事項です。
また、やむを得ず業務内容を変更したり追加作業が発生した場合や、成果物の受領後に修正などが発生した場合、費用を負担せず作業をさせることもこの禁止事項に含まれます。
④適切な募集情報の提供
発注事業者がフリーランスを募集する場合、虚偽や誤解を招く表示は禁止されています。また情報は正確で最新のものでなければなりません。
実際よりも高い報酬額を表示したり業務内容を意図的に省略した場合はこの事項に抵触します。また、報酬額の例として、一部のケースを抽出して高い報酬額を記載した場合も誤解を招く表現として抵触する可能性があるので注意が必要です。
ただし、当事者の合意がある場合に限り、募集情報から実際の取引条件を変更することは認められています。
⑤出産・育児や介護などへの配慮
フリーランスに6カ月を超える継続的な業務を委託する場合、当事者からの申し出に応じて妊娠や出産、育児、介護などと業務の両立に配慮することが求められます。また6カ月未満の委託期間であっても同様の配慮に努めなければなりません。
具体的には、打ち合わせ時間の調整、就業時間の短縮、オンライン業務への切り替え、納期の変更などの対応が挙げられます。どうしても応じられない場合には、理由について説明し合意を得る必要があります。
ただし、対象となるのは継続的な業務委託であり、一度限りの契約の場合は対象外です。
⑥ハラスメント対策
発注事業者は、フリーランスへのハラスメント対策を整備する必要があります。
例えば、
・ハラスメント防止のための研修を行う
・ハラスメントに関する相談窓口の設置
・事後の迅速かつ適切な対応体制の構築
などが挙げられます。
⑦中途解除などの事前予告と理由開示
フリーランスに6カ月を超える継続的な業務委託を行っており、契約の中途解除や更新を行わない場合、少なくとも30日前までに口頭以外でその旨を予告する必要があります。
またその日から解除日または契約満了日までに、当事者から理由の開示を求められた場合には、同様の方法で遅滞なく応じなければなりません。
──以上が、フリーランス新法で定められている発注事業者の義務になります。
フリーランスには発注事業者との従属関係はなく業務委託として仕事をします。そのため労働基準法上の「労働者」には当たらず、労働基準法の保護対象からは除外されます。
なお、契約上「業務委託」となっていても、業務の実態に従属関係が認められた場合は労働者として労働基準法が適用されます。
フリーランス新法は、フリーランスの就業環境整備の役割も持っています。
フリーランス新法の罰則
発注事業者がフリーランス新法に違反した場合、行政による調査を受けることになり、指導や勧告が行われます。勧告に従わない場合には命令・企業名の公表、さらに命令に従わない場合は50万円以下の罰金に処されることもあります。
発注事業者の従業員が違反をすれば、違反者当人だけでなく事業主である法人も罰則の対象となります。
フリーランス新法は中小企業も対象
フリーランス新法に似たものとして、BtoB取引の適正化を図るための法律に下請法(下請代金支払遅延等防止法)があります。
取引条件の明示や報酬の支払期限、禁止行為など両法律にはかなり似通った部分がありますが、異なる法律ですのでその違いを理解しておきましょう。
フリーランス新法が下請法と大きく異なる点は、規制対象である発注事業者と保護対象であるフリーランスに、資本金による区分がないことです。
下請法では、資本金1,000万円以下の下請事業者を保護対象とし、資本金1,000万円超の事業者が規制対象となります。一方フリーランス新法では資本金にかかわらず、フリーランスに業務を委託する発注事業者はすべて規制対象です。
これまで下請法の規制対象外となっていた中小企業も適用される点に注意が必要です。
また、フリーランス新法では、フリーランスの就業環境にまで及んでいることが下請法にはない規制ということになります。
発注事業者が注意すべきポイント
ここからはフリーランス新法の施行に向けて発注事業者が考慮すべきポイントについて書いていきます。自社の業務や取引内容に応じて、準備の参考にしてください。
取引先がフリーランス新法の対象か確認する
現在、業務委託しているフリーランスがフリーランス新法の対象となるかを確認しましょう。取引しているすべてのフリーランスに対し、ヒアリングを行い、現在従業員を雇用していないか、業務内容から労働基準法上の労働者に該当しないかを確認します。対象となる場合は適切な対応を行う必要があります。
社内への周知とプロセスの整備
フリーランス新法の施行に伴い、社内の体制や業務プロセスを見直しましょう。社員にはフリーランス新法の内容や禁止事項について講習などを行うとともに、発注書の形式や支払期日のルールを明確にします。また、違反した場合の罰則についても周知し、順守を徹底する意識付けも行いましょう。
育児・介護などへの配慮とハラスメント対策は、現在の社内規則も含めて見直しを行い、相談窓口の設置や外部委託による対応体制の整備を検討します。
契約書の見直し
現在の契約書や発注書がフリーランス新法に準拠しているか確認し、必要に応じて修正を行います。口頭の連絡のみで業務を行っているケースがないかも再確認しましょう。
契約内容の変更が必要な場合は、合意の上で新たな契約書を取り交わします。
支払期日の管理
フリーランス新法では、成果物を受け取ってから60日以内に報酬を支払わなければなりません。支払期日の管理を徹底する必要があります。
特に、現在「月末締め/翌々月末払い」の場合、60日を超えてしまいフリーランス新法の義務に抵触します。支払期日を超えないよう支払サイトの調整を行いチェックできるようにします。また再委託の場合には例外がありますのでこちらも合わせてチェックします。
発注事業者のリスク
従来、下請法や労働基準法の対象外であったフリーランスを保護するために制定されたフリーランス新法は、取引条件の明確化や報酬の支払期日の設定、フリーランスの就業環境の整備を定めています。これにより、フリーランスも労働者としての権利を享受できるようになりました。
一方で、発注事業者には新たな責務が課せられます。特に、これまで下請法の規制を受けなかった中小企業もフリーランス新法の対象となり、契約条件やリスクについてより慎重に対応する必要があります。
これらの点について、弁護士法人GVA法律事務所に聞いてみました。
Q&A
Q. フリーランス新法に関連して、契約条件や契約書の内容を専門家に相談した方がいいでしょうか?
A.
契約条件はできるだけ具体的に、明確に定めることでトラブルを回避できる可能性が高くなります。
あいまいな内容であったり、そもそも必要な内容が欠けていたりすると合意内容の解釈の相違により紛争へ発展する可能性もあります。契約書を締結したからといって必ずしも紛争を回避できるわけではないのですが、少なくともフリーランス新法も踏まえて契約書に不備がないように専門家のチェックやアドバイスを受けることで、リスクを最小限に抑えることができます。
Q. 契約書の内容はフリーランス新法で定められたことだけで大丈夫でしょうか?
A.
それだけでは十分ではありません。
契約とは法的効力を持った約束事であり、契約書はお互いの合意の証になります。
トラブルが発生した際には、契約書が合意の内容を証明する重要な証拠となります。
他方で、安易に雛型を使いまわしていると、個別の事案においては自社に有利とはいえない条項が混じってしまったりしていることもあり得ます。そのため、フリーランス新法で定められたことを盛り込むだけではなく、契約書全体として自社に不都合な内容が入っていないか、事案に適した内容となっているかも踏まえて作成することが重要となります。
Q. 業務委託契約において特に重要なことは何でしょうか?
A.
業務委託契約の場合、委託する業務の内容を明確にすることがとくに重要となります。
業務内容が明確化されていないと、かりに成果物に不満があったとしても、それが委託の内容に沿ったものであるのか、不十分なものであるのかの判断ができないためです。
また、当初の委託内容が明確にされていなければ、追加料金が発生すると言われた場合に、それが本当に追加の作業なのか当初の委託内容に含まれているものかの判断もできません。その意味で委託する業務内容の明確化は非常に重要です。
また、債務不履行や履行遅滞などの問題が発生した場合のみならず、業務の遂行に不満があった場合に(フリーランス新法の規制には従いつつも)契約を途中で解除できるようにしておくことも重要になります。
なお、秘密情報や個人情報を扱う場合には、秘密保持契約を別途締結する場合もありますし、そうでない場合でも業務委託契約書の中に秘密保持条項を盛り込んでおくことが重要になります。
Q. 契約書のひな形を作成してもらうことはできますか?
A.
もちろんご相談ください。
個々の業務や委託内容、その業界に特有のルールなども踏まえてご要望に応じた契約書を作成いたします。
フリーランス新法で改善すべき点についてもアドバイス可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
(Q&A回答:森田 芳玄 弁護士 )
まとめ
今回はフリーランス新法についてまとめ、重要な点については弁護士に質問してみました。
フリーランス新法の施行が始まる前に、自社の業務委託状況はどうなっているのか整頓したり、適切な社内ルールは整っているのかなど、今一度確認してみると安心できますね。
監修
弁護士 森田 芳玄
(都内の法律事務所にて主に企業法務に携わったのち、2016年GVA法律事務所入所。現在は、企業間紛争、労務、ファイナンス、IPO支援、情報セキュリティ法務を中心としたさまざまな企業法務案件に携わる。情報処理安全確保支援士。ITストラテジスト。システム監査技術者。)