【弁護士解説】スタートアップ企業が利用規約を作成するにあたっての注意点

執筆:弁護士 鈴木 景 、弁護士 石川 泰輝

 新たなサービスをリリースする際には、利用規約の作成が欠かせません。以下では、利用規約を作成する際の注意点と必要な項目について詳しく説明します。

 

 

1.      利用規約とは

 利用規約とは、サービスを提供する事業者とサービスを利用するユーザーとの間での契約条件やルールを定めたものです。

 利用規約は、不特定多数の利用者に対して同一内容のサービスを提供する場合に、個別に契約書を作成し契約を締結すると煩雑になるため、画一化したルールを設定し、サービス提供者と利用者間の契約関係を規律するために作成されます。

 

2.      なぜ利用規約を作成する必要があるか

 前提として、法律上、サービス提供者は利用規約を作成する義務はありません。しかしながら、利用規約を作成しない場合、サービス提供者は利用者に対して、サービス提供者・利用者間での権利義務関係や利用者に遵守させたい事項について、個別に決定する必要が生じます。そのため、画一的なルールである利用規約の中で、サービスの内容やサービス利用方法、解約の方法、利用停止の条件などを明確にすることで、将来のトラブルを防止することができます。

 

3.      利用規約作成時の注意点

 利用規約を作成するにあたっては、サービスに合うものを作成することも重要です。

 利用規約はSNS、EC、シェアリングサービスなどのあらゆるサービスにおいて作成されます。サービスの内容によって、適用される法令や留意すべき項目が異なりますのでので、自社の提供するサービスの内容に則した利用規約を作成することが重要です。

 すでに存在するサービスと類似するサービスを提供する場合には、他社が策定している利用規約を参照しながら作成する、ということも考えられます。しかし、類似するサービスであっても、ビジネスモデルが異なる場合もあり得ますし、それがサービスの外形から明らかとならないことがあり得ます。そのため、類似しているサービスであっても利用規約を参照すべきでない場合もある点に注意が必要です。

 

4.      利用規約に入れておきたい項目

 利用規約に入れるべき主要な項目は以下になります。

(1)     利用規約への同意

(2)     用語の定義

(3)     利用規約の変更手続

(4)     利用料金と支払方法

(5)     知的財産権等の権利帰属

(6)     禁止事項

(7)     利用規約に違反した場合の制裁

(8)     損害賠償及び免責

(9)     個人情報の取り扱い

(10) 専属的合意管轄及び準拠法

(1)     利用規約への同意

 まず、利用規約の内容を、利用者との間で契約内容とするために、利用規約への同意規定を設けましょう。

 具体的には、Webサービスの場合には、利用規約へ同意する旨のチェックボックスを設け、Webサービス以外の場合には、申込書や同意書、利用契約書などにおいて、利用規約に対する同意を取得することが一般的です。

 

(2)     用語の定義

 利用規約中で用いる用語の定義が一義的に解釈できるように、条文の冒頭又は末尾にまとめて記載しておきましょう。将来のトラブルの防止に繋がります。

 

(3)     利用規約の変更手続

 法改正等により、利用規約を変更する必要が生じることがありますので、利用規約の内容を変更する場合について、規定をしておくとよいでしょう。

 利用規約が定型約款に該当する場合には、民法の定型約款の規定(民法第548条の4)に従い、利用者から同意を得ることなく、まとめて契約内容を変更することができますので、この点を考慮した規定にするとよいでしょう。

 

(4)     利用料金と支払方法

 サービスの利用料金については、トラブル防止の観点から明確に記載しましょう。但し、サービスの利用料金や支払い方法、支払い条件などは、後から変更する場合があり、その際に規約を改定しないといけないとなると手続が煩雑となりますので、具体的な金額などについては、申込フォームに記載する等の対応も考えられるところです。

 

(5)     知的財産権等の権利帰属

 サービス上で公開されたコンテンツについて、誰に知的財産権が帰属しているかを明確にしておくと、後日の紛争回避につながります。

 ユーザーがアップロードしたコンテンツについての知的財産権について、サービス提供者に譲渡されたこととするのか、それとも、ユーザーに知的財産権が帰属しておりサービス提供者はあくまでその権利を利用できるにすぎないのか、これらの点については、サービス提供者のサービス設計の思想であったり、今後利用していきたい用途等によって変わり得るところですので、サービス内容等に応じて規定していくことが有用です。

 

(6)     禁止事項

 サービスを悪用した犯罪行為をされないようにするため、利用規約や法令に違反する行為等を禁止する旨定めておくとよいでしょう。

 サービス提供者としては、サービス上で好ましくない動き方をする利用者や、サービスの目的にそぐわない方法で利用する利用者などの利用は制限しておきたいところですので、禁止行為は幅広に記載しておくことが有用です。

 

(7)     利用規約に違反した場合の制裁

 利用規約の実効性を担保するために、利用規約に違反した場合の制裁規定は設けましょう。利用停止、強制退会、損害賠償、違約金等の措置が考えられます。

 こちらも、規約違反の程度に応じた手段を講じることが考えれますので、サービス提供者側で幅広い選択が取れるようにしておくとよいでしょう。

 

(8)     損害賠償及び免責

 当事者の契約違反やシステムの不具合などに起因して、当事者のいずれかに損害が発生した場合に備えて、損害賠償に関するルールも定めておきましょう。

 但し、消費者向けサービスの場合、消費者契約法が適用されることになりますので、利用者が著しく不利な条項については無効となる可能性があります。この点には十分に注意して、規定する必要があるものと考えます。

(9)     個人情報の取り扱い

 サービスの提供をするにあたって、利用者の個人情報を取得することがある場合には、個人情報の取り扱いについて公表をしておくケースが多いところです。

 一般的には、利用規約とは別にプライバシーポリシーを制定する形を取ることが多いため、利用規約と併せて、プライバシーポリシーも策定するとよいでしょう。

 

(10)  専属的合意管轄及び準拠法

 サービス利用に関するトラブルが発生し、訴訟にまで発展した場合に備えて、合意によって、専属的な管轄裁判所を定めておきましょう。

 一般的には、サービス提供者の本店所在地を管轄する裁判所を専属的な合意管轄裁判所と定めることが多いところです。

 また、利用規約を巡って紛争となる場合には、利用規約の解釈が問題となる場合もありますので、日本の法律を準拠法とする旨も明記しておくと良いでしょう。

 

5.      まとめ

 初期のスタートアップ企業の場合には、資金の都合上、利用規約の作成に費用を割けないということはあるかとは思いますが、利用規約の作成は、ビジネスの安定性と法的保護のために欠かせないステップです。利用者とのトラブルを未然に防ぐためにも、自社サービスに合った利用規約を策定することをお勧めします。

 GVA法律事務所では、利用規約の作成・レビュー等について多数の支援実績がございますので、利用規約の作成にあたってご不明点やご不安な点等ございましたら、お気軽にお問い合わせください

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