
1. フィリピン労働法における労働時間規制概要
フィリピンにおいては、Labor. Code of The Philippines(以下「フィリピン労働法」といいます。)という日本における労働法に位置付けられる法令が定められており、労働者の健康や福祉を守りつつ、使用者との間における公平な立場を保護する観点から労働時間に関する規制が設計されています。
原則として、フィリピン労働法においては、1日あたり8時間の労働時間が上限とされています。日本の労働時間規制の制度と同様に、この労働時間には休憩時間を含みません。フィリピン労働法においては、1日あたり1時間の休憩時間を労働者に与える必要があります。また、1週間あたりの労働時間は48時間が上限として設定されています。
なお、医療従事者などの緊急性の高い職業については、1日8時間以上の労働が例外的に認められる場合があります。
2.フィリピン労働法における時間外労働に対する追加的な賃金支払義務
フィリピン労働法においては、使用者が労働者に時間外労働を求める場合は、追加的な賃金の支払いが必要となります。具体的には、1日8時間の労働時間を超過した場合は、超過した労働時間に対して25%増の金額が時間外労働の対価として追加的に支払われることになります。また、22時から翌6時までの夜間労働においては、10%の夜間割増賃金の支払いも必要となります。さらに、休日や祝日に労働した場合は、30%の休日割増賃金が支払われます。ただし、元日など法律に定められたRegular Holidayについては100%を割り増し、合計200%の賃金を支払う必要があります。フィリピンにおいては、毎年政府から休日や祝日のスケジュールが提示されますので、確認することも必要になってきます。
これらの追加的な支払義務は、労働者の過剰な労働を防ぐ目的で設計されているため、労働者に対して別日に休日を与えたからといって免除される義務ではないことに留意する必要があります。
3.フィリピン労働法における時間外労働規制に違反した場合のリスク
それでは、労働者を雇う企業が万が一労働時間規制に違反した場合はどのようなリスクがあるのでしょうか。割増賃金を含む賃金について、未払賃金がある場合には労働者への支払義務があり、重大な違反と認定された場合は、業務停止や取得したライセンスの取消しリスクが存在します。未払賃金がある場合は、労働者との間で紛争に発展するリスクがあります。紛争に発展した場合は、Department of Labor and Employment(以下「DOLE」といいます。)において紛争解決を試みることになり、時間や費用がかかるおそれがあります。
4.DOLEが提示する時間外労働規制に関するガイドライン
DOLEは、時間外労働に関する詳細なガイドラインを提供しています。このガイドラインは、労働法の解釈に大きな影響を与えうるため、できる限りガイドラインに沿った運用実態を構築することが重要です。労働時間の計算方法、時間外手当の支払方法、休日及び夜間労働に関する指針などが具体例とともに提示されています。