マレーシアにおけるECビジネスに関する法規制

執筆:外国弁護士(マレーシア)(Not admitted in Japan)サイフル アジズ、弁護士 鈴木景(国際チーム)

 

■はじめに

昨今のインターネットの発展により、ECは、我々の生活になくてはならないといっても過言ではありません。
マレーシアでも、ECは身近なものとして多く利用されているところではありますが、一方で、個人が行うECによる消費者被害も、深刻な問題として浮上してきているようです。
本稿では、日本企業がマレーシア国内でECビジネスを展開する場合における法規制についてご紹介します。

 

■ECビジネスに関する外資規制

まず、ECビジネスに限らず、マレーシアでビジネスを行うためには、当局に登録をする必要があります。
マレーシアの会社法では、外資企業であっても、登録は可能とされていますが、会社の登録にあたり、マレーシアに滞在する場合には、VISAが必要になる場合がありますので、マレーシアでの登録に先立って、その取得が必要となる場合があることには注意が必要です。

次に、外資規制との関係ですが、マレーシアで、ECビジネスを含む「流通業」を行う会社については、外資規制は設けられておりません。そのため、外資企業100%の出資により設立した会社でECビジネスを行うことは可能です。

 

■必要なライセンス

以上のとおり、マレーシアでのECビジネスについて外資規制は設けられておりませんが、種々のライセンスを取得することが必要となります。

 

1.WRTライセンス
マレーシア国内でECビジネスを行う会社の50%以上の株式を保有する外国人については、Wholesale Retail Trade License (WRTライセンス)を取得することが必要とされています。
以下では、当局により定められたWRTライセンス取得に必要な条件について紹介します。
① 会社法に従ってマレーシア国内で設立されていること
② 資本金の額が100万RM以上であること(3年毎に見直す)
③ 以下の各条件を満たすこと
 ア マレーシアの社会経済の発展に貢献すること
 イ 外国による直接投資を生み出すこと
 ウ 提案フォーマットに国内の事業者を含まないこと
 エ 雇用の機会を創出すること
 オ テクノロジーと技術をマレーシアにもたらすこと
 カ 特徴的又は独占的な性格を持つビジネスであること

 

2.直接販売に関するライセンス
ECビジネスが、マレーシアにおける「直接販売」に該当する場合には、直接販売のためのライセンスも必要とされています。
直接販売に該当する場合には、以下の要件を満たす必要があります。
① 会社法に従ってマレーシア国内で設立されていること
② 資本金の額が50万RM以上であること
③ 直接販売について、以下の条件を満たすこと
 ア 連鎖販売取引ではないこと、また、直接販売に関する規制に適合すること
 イ ECビジネスの内容についての表記が、誤解を生じるものではないこと
 ウ インセンティブを交付する場合には、その内容を明確に記載すること
 エ 各関係者との間で、必要な契約を締結すること
行おうとするビジネスが直接販売に該当する場合には、これらの条件を満たす必要がありますので、この点については事前に専門家や規制当局に確認する必要があるでしょう。

 

3.ASPライセンス
ECビジネスにおいて、通信サービスに類する事業を行おうとする場合、WRTライセンスの取得に加え、Application Service Provider License (ASPライセンス)を取得することが必要とされています。このライセンスが必要な事業についても類型が定められていますので、ビジネスモデルを検討する際に、ASPライセンスが必要な事業かどうか、検討する必要はあります。

 

■ECビジネスに関連する重要な規制

ECビジネスを行うにあたり必要となるライセンスは、以上のとおりですが、マレーシア法では、ECビジネスに関するライセンスだけでなく、一定の行為規制が定められています。
ECビジネスをマレーシアで展開するにあたっては、以下の各種法律を準拠する必要があります。

 

1.2006年電子商取引法
この法律は、商取引を電子的な方法で行う場合における種々のルールを定めていますので、ECビジネスを行う場合、この法律にしたがって取引をすることが必要となります。

 

2.2012年消費者保護規則(電子商取引)
この法律では、オンライン上でビジネスを行う場合、ウェブサイト上で、以下の情報を開示することが必要とされています。
① 会社の名前
② 登録番号
③ 連絡手段
④ 商品の説明
⑤ 値段
⑥ 支払い方法
⑦ 利用規約
⑧ 予想される配達時間

 

また、この法律では、事業者の義務として、購入者が注文確定前に誤りがないかを確認できるようにしておくべき義務や、注文履歴を購入者が確認できるようにしておくべき義務、商品提供者の名称や住所などを2年間保存しておくべき義務などが定められています。
これらの義務の違反は、刑事罰の対象となるため、注意が必要です。

 

3.2010年個人情報保護法
マレーシアで個人情報を取得しようとする場合、マレー語と英語で、プライバシーポリシーを策定して掲示することが必要とされています。
二ヶ国語で作成することが必要である点に、注意が必要です。

 

4.その他の規制
その他にも、1999年消費者保護法や、1972年取引説明法、1957年物品売買法、1998年通信マルチメディア法、1997年コンピューター刑法といった法律が関連します。
加えて、ECビジネスのための広告をするためには、この点についてもライセンスが必要とされている点に注意が必要です。

 

■おわりに

このように、マレーシアでECビジネスを展開しようとする場合、ライセンスや種々の法規制が課せられており、マレーシア進出の際には留意する必要があります。
本稿が、その際の一助となれば、幸いです。

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