オンライン診療に関する時限的措置と今後の展望

オンライン診療に関する時限的措置と今後の展望

執筆:弁護士 宮田智昭

 

 

 オンライン診療は、平成30年3月に厚生労働省より発表された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン診療指針」といいます。)により、一定の条件のもとでこれを行うことが可能とされていました。しかし、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、今年の4月10日に厚生労働省から事務連絡(「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(以下「4月10日事務連絡」といいます。))が発表され、オンライン診療の活用範囲が時限的に拡大することとなりました。この時限的措置は、目下の新型コロナウイルス感染症の拡大を防止することを主眼とするものではありますが、今後のオンライン診療の展望を考える上でも大きな意味を持つと考えられます。
 本稿は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の鍵となりうるオンライン診療に焦点を当て、現状のオンライン診療自体の内容を簡単に整理した上で、今後の展望について述べるものです。

 

 

1.オンライン診療とは

(1)オンライン診療の意義

 オンライン診療とは、「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」のことをいいます。この概念は、オンライン診療指針に記されているもので、医療アクセスの問題を解消し、より国民が負担なく医療を受ける機会を得られるようにするべく、平成9年から議論が積み重ねられてきました(「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(平成9年12月24日付け健政発第1075号厚生省健康政策局長通知)参照)。オンライン診療は、無診察治療禁止の原則(医師法第20条)を前提としつつ、この原則の補完として、一定の環境が備わった状態であれば、直接の対面診療に代替し得る程度に患者の情報が得られる場合として、遠隔による医療の提供を可能とするものです。

 

(2)初診対面原則とその例外

 このように、直接医療機関に赴くことなく医療サービスを受けられる可能性をもたらすオンライン診療は、患者の移動負担の軽減や専門医療の偏在の問題を解消するメリットがあるものの、対面による診療と比べると、患者から取得できる情報に限りがあるというデメリットがあります。そのため、オンライン診療指針上では、原則として初診は対面によるべきことと定めることで、上記デメリットに起因する患者の安全性の問題に配慮しています。
 もっとも、オンライン診療指針は、特にオンライン診療の必要性が高い場合等に対応できるようにするために、例外として以下の場合は、対面によらない初診を認めています。 すなわち、「患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合などにおいて、患者のために速やかにオンライン診療による診療を行う必要性が認められるときは、オンライン診療を行う必要性・有効性とそのリスクを踏まえた上で、医師の判断の下、初診であってもオンライン診療を行うことは許容され得る」、という例外です。
 厚生労働省は、オンライン診療指針が作成される前から、この例外が適用される具体的ケースについて継続的に議論してきましたが、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、事態の収束のためにこの例外を適用すべき場面があるのではないかが議論された末、4月10日事務連絡という形で1つの結論を明らかにしました(その内容は下記の2で簡単に紹介します)。

 

(3)オンライン診療の活用を検討する際の比較考量という視点

 また、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の対応について議論をする中で、上記例外の適用場面を検討する際の重要な視点を示唆しているように思います。それは、今年の3月11日及び4月2日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下「検討会」といいます。)に示されているもので、まさに新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた上記例外の適用の可否を検討する文脈の中で、「対面診療を行わないことによる重症化や見逃しのリスク」と「対面診療を行うことによる感染拡大のリスク」との比較考量という観点をもとに議論を行っています。これは、オンライン診療が孕む患者の生命・身体に対する危険性とオンライン診療導入の必要性の双方に配慮しながら、オンライン診療の導入の可否や条件を検討する考え方といえます。
 この視点は、新しい制度の導入によって得られる利益と失われる利益の双方を比較し配慮することにより、一定の要件のもとで許容される仕組みを構築するという、行政上の一般的な考え方に通じます。その点で、今回の時限的措置のみに限らず、およそオンライン診療の可否等を検討する際に有用な価値判断の在り方といえるように思います。この意味で、新型コロナウイルス感染症拡大への対応をテーマとする上記検討会の議論は、今後のオンライン診療一般について検討する際にも通用する重要な視点を示唆しているのではないかと考えます。
 そして、かかる視点に基づいて現在の新型コロナウイルス感染症の拡大状況(厚生労働省の報道発表資料を参照)をみると、現状としてオンライン診療を導入すべき必要性は高い状況にあるといえます。また、感染拡大の中でも特に院内感染の問題に着目すると、医療従事者と患者が接触することなく医療を提供できる可能性をもたらすオンライン診療は、今回の事態の解決に大きく役立つことが期待でき、今回の時限的措置が認められたのも、多分にこの事情が絡んでいると思われます。それゆえに、新型コロナウイルス感染症の拡大防止が急務となる現状においては、オンライン診療の時限的な規制緩和を前提とし、その上で「いかにオンライン診療の導入リスクを低減するか」が議論の焦点となっているものと整理できます。
 以上、本項ではオンライン診療の内容について整理をしましたが、次項では、これを踏まえた今回の時限的措置の概要について簡単に触れたいと思います。

 

 

2.今回のオンライン診療に関する時限的措置

(1)4月10日事務連絡の概要

 4月10日事務連絡は、新型コロナウイルス感染症が拡大する現状における、①「医療機関における対応」、②「薬局における対応」、③「新型コロナウイルス感染症患者に対する診療等について」、④「医療関係者、国民・患者への周知徹底」、⑤「本事務連絡による対応期間内の検証」からなります。このうち本稿では、オンライン診療指針上の初診対面原則をベースとしたときに、この事務連絡によってどの点が緩和されたのか、それがいつまで続くのかといった点に焦点を当て、①、④、⑤の概要を簡単に紹介したいと思います。

 

(2)①「医療機関における対応」について

 まず「医療機関における対応」についてですが、ここでは次に述べる要件のもとで初診対面原則が時限的に緩和されることが明記されています。すなわち、「①患者から電話等により診療等の求めを受けた場合において、②診療等の求めを受けた医療機関の医師は、当該医師が電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方が当該医師の責任の下で医学的に可能であると判断した範囲において、初診から電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方をして差し支えないこと」というものです(ナンバリングは筆者)。
 ここでポイントとなるのは、①患者からの求めが要件となっていることと、②(対面ではなく)オンライン診療でも医学的に診断・処方が可能か、についての判断はあくまで当該医師の責任においてなされる運用となっていることです。特に②については、オンライン診療は患者からの情報を取得する手段が、問診やモニターを通じた視診のみに限定されるために、自己の責任において確定的な診断までしてよいものか、現場において悩ましい判断が求められる場面が想定されます。しかしこのような場面において診断や処方を行わず、対面での診療を促したり、他の医療機関を紹介するといった対応を行ったとしても、これは受診勧奨に該当するもので、医師法第19条第1項に定める応招義務に違反するものではないとされています。
 この要件立てからもうかがえるように、オンライン診療が導入される上での実質的なハードルは、限られた情報の中で正確な医学的判断を行える環境をいかに担保するかという点にあるように思われます。

 

(3)④「医療関係者、国民・患者への周知徹底」について

 次に今回の時限的措置の周知についてですが、こちらの厚生労働省のウェブサイトにおいて、オンライン診療の対応が可能な医療機関の一覧が示されています。当該一覧では、施設名や住所・電話番号・ウェブサイトのURL等の各医療機関の基本情報のほか、初診による対応の有無や対応診療科、連携する医療機関名等が記載されており、実際にオンライン診療を利用する際に有益な情報がまとまっています。また、掲載数も豊富で、例えば東京都の一覧では、オンライン診療を実施する医療機関数は1187箇所に上っています。この一覧については、各都道府県による周知も求められていますので、今後更なる周知が図られる中で、さらにニーズが高まり、オンライン診療の対応が可能な医療機関が増加することが期待されます。また、4月10日事務連絡においては、この周知との関係で、医療機関はオンライン診療を実施していることを医療に関する広告として公表可能である旨も示されています。

 

(4)⑤「本事務連絡による対応期間内の検証」について

 そして、いつまでこの時限的措置が続くのかについては、「感染が収束するまでの間」とされており、現状としては確定的な期限は設定されていません。原則として3か月ごとに新型コロナウイルス感染症の拡大状況等を踏まえて検証を行うこととなっており、状況に応じた対応が予定されています。この意味でも、今後も継続して感染症の拡大状況に注目していく必要があります。

 

 

3.今後のオンライン診療について

(1)今回の取扱いが時限的措置であること

 上記のとおり、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてオンライン診療の活用範囲を広げる議論を行っています。しかし、これと同時に、通常時の取扱いは引き続き初診対面を原則とし、その例外については今般の対応についても検証し、感染の収束後に改めて検討を行うこととしています。すなわち、今回の取扱いは、あくまで新型コロナウイルス感染症の拡大を受けての例外的な措置であって、オンライン診療指針そのものを改めるものではないため、この点には注意を要します(厳密には、4月10日事務連絡においても「本事務連絡に基づく電話や情報通信機器を用いた診療」という言葉遣いがなされており、オンライン診療指針上の「オンライン診療」と概念的に区別された取扱いとなっています。この点からも今回の措置は通常時とは異なる時限的な取扱いであるということがうかがえます)。

 

(2)今後の展望について【私見】

 今回のオンライン診療の活用場面の拡大は、主に新型コロナウイルス感染症の拡大リスクに着目して検討されたものではあります。しかし、そもそも当初においてオンライン診療は、医療機関への移動負担の大きさや僻地・離島などの地理的問題により、医療を必要としている人たちに医療が届けられないという、医療アクセスの課題を解消するということを出発点としていました。そして、感染症が拡大している現状を受けてのものであるとはいえ、 行政機関においてオンライン診療の活用場面を広げる議論は前向きに行われています。
 このことを考慮すると、今回の感染症拡大防止施策の中でオンライン診療の安全性・有用性が評価されれば、今後この緊急事態に限らず、議論の出発点である医療アクセス問題の解消や、さらには一般患者に対する医療サービスの利便性向上という点も踏まえたオンライン診療の可能性が検討されていくのではないかと考えます。オンライン診療という手法が医療の利便性を支えるインフラとして受け入れられる時代がもうすぐそこまで来ているのではないでしょうか。
 命を扱う領域であるだけに、慎重な議論を要するのは勿論ですが、今回の事態を受けて、オンライン診療が持つ意義が今まで以上に注目され、医療インフラとして位置づけるための議論が深まり、今後適切な形で活用されていくことを期待します。そして、私たちGVAも、よりよい医療が実現される社会の一助となるべく、これからもオンライン診療のような新しい医療を担う方々をサポートして参ります。

 

 

以上

 

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