2020.03.09
信託型ストックオプション ~具体的な活用方法について~
パートナー弁護士 小名木俊太郎
【はじめに】
昨今「信託型ストックオプション」という言葉は少しずつ市民権を得るようになってきています。みなさんもどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。信託型ストックオプションが出始めたのは2016年頃になりますが、当時、税制適格ストックオプションや有償ストックオプションでは対応できなかった課題に対するソリューションとして作られたのが信託型ストックオプションです。 今回は、信託型ストックオプションの概要、メリット・デメリットを軽く触れた上で、現在想定される具体的な活用方法について解説したいと思います。
【信託型ストックオプションの概要】
信託型ストックオプションは、「有償ストックオプションの発行」+「信託契約」を組み合わせたスキームとなります。 下記の図が信託型ストックオプションのプレイヤーとプレイヤー間の関わりを示したものとなります。なお、①~④の数字は実際に行われる行為を時系列順に並べた番号となります。
信託契約に関するものが、①信託契約の締結・金銭の拠出、③ポイント付与、④新株予約権の交付であり、有償ストックオプションの発行に関するものが②新株予約権の割当+割当時の払込となります。 ざっくりとスキームの内容を説明すると、以下のとおりです。
(ⅰ)社長(委託者)が税理士(受託者)に預けたお金で、税理士が会社から有償で ストックオプションを買い取ります(上記②)。この際、社長(委託者)と税理士(受託者)は 事前に信託契約を締結しており、税理士(受託者)は社長(委託者)から受け取ったお金で 会社のストックオプションを買い、信託契約が終了するときに会社の指示にしたがって、 会社の従業員(受益者)に当該ストックオプションを交付することを約束しています (上記①)。
(ⅱ)毎年の人事評価に基づいて会社が従業員(受益者)にポイントを付与します(上記③)。
(ⅲ)税理士(受託者)は、信託契約が終了する時に(通常2~3年間の信託契約を締結します)、 上記付与されたポイントの合計数に応じて、従業員(受益者)に対して、 保管していたストックオプションを交付します。
【信託ストックオプションのメリット・デメリット】
それでは信託型ストックオプションのメリット・デメリットとは何でしょうか。最初に記載したとおり、税制適格ストックオプションや有償ストックオプションでは対応できない課題に対するソリューションとして開発されたものですので、有償ストックオプションと税制適格ストックオプションと比較して見てみることにします。
上記のとおり、費用面を除き、他の二つと比較して信託型SOはメリットが大きいです。なお、費用面についても、信託型SOは3年分のSOの発行を全て一括して行うことになりますが、税制適格SOと有償SOは都度費用が発生するので、ストックオプションをしっかりと利用する会社にとっては、むしろ一括で発行してしまう信託SOの方が安くなる、ということもあり得ると思います。
【信託型ストックオプションの具体的な活用方法】
ここからは具体的な信託型SOの活用方法について解説します。
① CXO人材獲得のための支度金として利用
ベンチャー企業では、CXOクラスの給与の高い人材を獲得するのは非常に難しいです。そのため、通常は高い給与の差額分として税制適格SOを発行したり、生株を渡したりします。もっとも、生株を渡すとなると、その分議決権も減少しますし、当該CXOが退職した場合には買い戻しを行わないといけないので、税務面も含めてリスクが伴います。他方、税制適格SOを付与する場合も、付与した時点で価値があるわけではなく、入社後に自ら頑張って会社を大きくしたことによるリターンという側面が強いので、インセンティブとして物足りないと感じられることもあるかと思います。 その点、信託型SOの場合は、予め発行しておくことで行使価格が低い状態を保存できるため、信託型SOを発行後、1年経ってジョインしたCXOに対して、既に値上がりした分の価格を「支度金」という形で示すことができます。具体的には、バリエーションが1株100円の時に、同金額を行使価格として信託型SOを発行した会社において、その後、資金調達を行い、バリエーションが1株500円になった後に、CXOが加入したとします。この場合、加入時に株式3万株分に相当するポイントを、当該CXOに付与する旨の合意を行うと、その時点で当該CXOは
(500円(現在の時価)―100円(行使価格))×3万株=1200万円分
のキャピタルゲインを「支度金」として受け取ることができることとなります。 具体的に金額を示して話ができるのも、信託型SOのメリットです。 このように、信託型SOは、優秀な人材を獲得するための人事面のツールとして利用することができます。
② 従業員に対する適切なインセンティブの付与
税制適格SOや有償SOは、価格の低い時に発行してストックオプションの効果を高めるために、付与対象となる従業員が成果を出す前から付与する場合が多いですが、実際には付与対象者が成果を出さず失敗に終わった、という話をよく聞きます。もっとも、失敗を避けるため成果が生じた後にストックオプションを出すとなると、付与のタイミングが難しく、かつ、行使価格も上がってしまいます。 他方、信託型SOの場合は、事前に全て発行しているため行使価格は低い金額が保存されていますし、ポイントの付与は毎年の人事評価を反映した仕組みにすることができるので、実際に成果を出した従業員に対して、キャピタルゲインを保存したまま付与することができ、無駄がなく、かつ、失敗することが基本的にはあり得ません。 そのため、信託型SOは、従業員に対して、適切なインセンティブを付与するための方法として非常に有用です。
③ 事業スピードを加速させる外部協力者への適切なインセンティブの付与
ベンチャー企業のビジネスによっては大量の外部協力者が必要なビジネスがあります。例えば、ヘルステックのビジネスにおいて、事業拡大のために多くの医師の協力が必要となる場合や、to C向けのビジネスにおいて多くのインフルエンサーの協力が必要な場合等が考えられます。こういった場合、都度契約を締結するのは煩雑ですし、支払う報酬も多額となり、ビジネスの足かせになります。 そこで、予め信託型SOを発行しておき、協力者の方には最初にポイントを付与して、「支度金」を渡した上で、成果を出してくれた方には追加でポイントを付与する、という仕組みを構築しておくことで、ビジネスのスピードを上げることもできます。 このように、多くの外部協力者が必要なビジネスにおいて、信託型SOは非常に有用です。
【最後に】
以上、信託型SOについて簡単に説明させていただきましたが、ご理解いただけたでしょうか?弊所でも信託型SOの組成を数多く取り扱っておりますので、もしご不明点等あれば、ツイッターでも弊所のお問い合わせ窓口でも良いので、ご連絡いただければと思います。