収納代行サービス等に関する規制の変化とFinTech(フィンテック)ビジネスについて

収納代行サービス等に関する規制の変化とFinTech(フィンテック)ビジネスについて

弁護士 境孝也

 

 

第1 はじめに

 フィンテック企業や大手の企業によって多様なFinTech(フィンテック)サービスが提供されていますが、その中でも比較的古くから用いられている決済サービスとして、収納代行サービス、代金引換サービス、回収代行サービスと呼ばれるサービス(以下「収納代行サービス等」といいます。)があります。これらは、金銭の支払義務を負う債務者が遠隔地にいる債権者に代金を支払うに際して、コンビニエンス・ストア、運送業者又は携帯電話会社等の事業者を介して、決済を行うという点に特徴があります。

 

(1)収納代行サービス
電気・ガス等の財・サービスの利用料金の支払いにおいて、財・サービスの提供者(債権者)から依頼を受けたコンビニエンス・ストア等の事業者に対して利用者(債務者)が支払いを行い、事業者が受け取った代金を債権者に渡すものをいいます。
(2)代金引換サービス
商品を購入した者の自宅等へ商品を搬送する際に、商品を搬送する運送業者が、商品の販売者から依頼を受け、商品の引渡しに際して購入者から代金を受け取り、販売者に対し受け取った代金を渡すものをいいます。
(3)回収代行サービス
ある事業者が提供した財・サービスの代金回収を、他の事業者が代行するもの(例えば、携帯電話会社が、携帯電話に搭載されたコンテンツの提供者から依頼を受け、電話料金等の支払いを受ける際に、併せてコンテンツの使用料金の支払いを受けるもの)をいいます。

 

 現状、多くの事業者がこのような収納代行サービス等を通じてビジネスを行っており、一般の生活にも定着しています。しかし、現在、規制当局である金融庁の報告によると、この収納代行サービス等を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。
 本稿では、これまでの収納代行サービス等の規制の概要と、今後の予想される規制の内容について説明していきます。収納代行サービス等をビジネスに取り入れている事業者の方は、是非ご一読ください。
 なお、本稿を執筆するにあたっては、「資金決済に関する制度整備について -イノベーションの促進と利用者保護-」(平成21年1月14日 金融審議会金融分科会第二部会)(以下「平成21年報告書」といいます。)と「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」(令和1年(2019年)12月20日 金融審議会)(以下「令和1年報告書」といいます。)を主に参考にしています。

 

 

第2 これまでの収納代行サービス等の規制について(平成21年報告書)

 1 「為替取引」への該当性

 収納代行サービス等については、遠隔地にいる債権者と債務者との間の決済手段として利用されています。そのため、これまで銀行や資金移動業者でなければ行うことができない「為替取引」(銀行法第2条第2項第2号、資金決済法第2条第2項)に該当するのではないかとの指摘がありました。
 この「為替取引」とは、最高裁判所の判例によると、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」(最高裁平成13年3月12日決定)とされています。収納代行サービス等については、金銭債権の債務者が、第三者たる事業者を介して、遠隔地に所在する債権者に対して決済を行っており、当該事業者が資金を移動していると評価できることから、これが「為替取引」に該当するのではないかと指摘されていたました(平成21年報告書P11~P15)。

 

 2 実務上の取扱い

このような議論の中でも、収納代行サービス等はその利便性の高さから、一般の国民生活に定着していき、銀行や資金移動業者以外の多くの事業者が、収納代行サービス等を行うようになっていきました。このとき使われた法律上の手法としては、債務者と債権者とを介在する事業者に対して、債権者が「代理受領権限」を与えてしまうというやり方です。すなわち、債権者と収納代行サービス等を行う事業者(以下「収納代行サービス等事業者」といいます。)との間の契約において、債権者が債務者から金銭を受領する権限を、収納代行サービス等事業者に与えてしまうのです。こうすることで、収納代行サービス等事業者は債権者の代わりに債務者から金銭を受領することをサービスの主な内容としており、必ずしも資金を移動することが目的ではないため、為替取引には該当しないと説明されます。
 この手法の優れた点としては、債務者に二重払いの危険がないことが挙げられます。すなわち、収納代行サービス等事業者に代理受領権限が与えられていますので、債務者が当該事業者に支払いを行えば、その時点で債務者の債務が弁済により消滅することとなります。仮に収納代行サービス等事業者がそのお金を持ち逃げして債権者に受領した金銭を支払わなかったり、倒産したりした場合であっても、債務者は再び金銭を支払う必要はありません。通常、債務者が一般消費者で、債権者が事業者であることが多く、一般消費者の利益が守られており、反対に信用リスクに晒されているのが事業者であったことから、この手法は広く受け入れられてきました。

 

 3 規制当局の態度

 規制当局である金融庁は、平成21年報告書において、収納代行サービス等が一般の社会に定着し、これまで大きな問題が起きてこなかったことや、収納代行サービス等に関する規制のあり方について共通して認識を得ることが困難であったことから、「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当と考えられる。ただし、制度整備を行わないことは、利用者保護が十分であることを意味するものではなく、収納代行サービス等が銀行法に抵触する疑義がないことを意味するものでもない」として、問題の解決を先延ばしにするような態度を示していました。
 もっとも、このような金融庁の態度からすると、少なくとも債務者を一般消費者とし、債権者を事業者として、収納代行サービス等事業者に対して、金銭の代理受領権限が設定されている限りにおいては、特段問題視される可能性が低いことを示しています。

 

 

第3 これからの収納代行サービス等の規制について(令和1年報告書)

 1 規制当局の態度

 令和1年報告書では、割り勘アプリ(例えば、オンライン上で、債権者(宴会幹事)に代わって事業者が債務者(宴会参加者)から債権(参加費)の回収を行うサービス等をいいます。)のように、収納代行の形式をとって、実質的に個人間の送金を行う新たなサービスが登場していることが指摘されています。これまでは、債権者が事業者であることが主に想定されていたものの、新しいサービスでは債権者が一般消費者であり、収納代行サービス等事業者が介在することによる信用リスクを一般消費者が負担することとなります。
 金融庁は、このような収納代行等サービスを取り巻く環境の変化を踏まえ、「それぞれのサービスの機能や実態に着目した上で、為替取引に関する規制を適用する必要性の有無を判断していくことが適当と考えられる」としています。
 以下では、金融庁より示された今後の規制についてのインプリケーションを説明していきます。

 

 2 今後の規制について

(1)債権者が事業者等である収納代行等サービスについて
次の①②を全て満たす収納代行等サービスについては、為替取引に関する規制を適用する必要性は必ずしも高くないとされています。そのため、このような収納代行サービス等については、当分の間は、これまで通り規制は及ばず、銀行や資金移動業者以外であっても行うことができるものと予想されます。
 ①債権者が事業者や国・地方公共団体であること
 ②債務者が収納代行業者に支払いをした時点で債務者の弁済が終了し、
  債務者に二重払いの危険がないことが契約上明らかであること
※「事業者」の定義については、消費者契約法上の定義と同様に、「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」とされる見込みです。

(2)個人間の収納代行等サービス(債権者が一般消費者である収納代行等サービス)について
    ア 割り勘アプリ
     個人間の収納代行サービス等のうち、割り勘アプリのように次の①から③のような
     特性を有するものについては、為替取引に関する規制の適用対象であり、銀行や
     資金移動業者でなければ行うことができないサービスと明確化されることが予想されます。
     ①収納代行サービス等事業者が個人間の債権債務関係の発生事由に関与していないこと
     ②単に資金のやり取りを仲介しているだけであること
     ③その経済的な効果が、債権者が第三者である収納代行サービス等事業者に対して
      逆為替(取立為替。債権者が債務者に対する債権を金融機関経由で取り立てる為替取引)
      の依頼を行っている場合と同視しうること
    イ エスクローサービス
     個人間の収納代行サービス等のうち、次の①から③のような特性を有する
     エスクローサービス(物品等を売買する際に取引の安全を保障する仲介サービスで、
     売買の当事者以外の第三者が決済を仲介して、代金を一時的に預かり、物品の引渡し等と
     引き換えに代金の支払いを完結できるもの等をいいます。例えば、フリマアプリや
     シェアリングサービス等で行われています。)については、利用者保護上重要な役割を
     果たしているエコシステムに支障が生じることのないように規制については先送りにされて
     います。実際、エスクローサービスにおいて、第三者が決済を仲介するのは、
     十分な信用関係にない取引当事者間の信用補完という意味合いが強く、
     利用者保護という側面が強いです。そのため、利用者保護という観点で重要な役割を
     果たすサービスについては規制が見送られたことになったと思われます。
     ①金銭債権を生じさせる原因取引が、物品の販売若しくは貸付け又は役務の提供であること
     ②債務者に対する物品の給付又は役務の提供に先立ち、債権者に対して、
      当該債権者から資金を収受した旨の通知がなされること
     ③債務者に対する物品の給付又は役務の提供後、債権者に資金が移転されること

 

 3 企業法務/ベンチャー法務への影響

(1)債権者が事業者等である収納代行サービス等について
 債権者が事業者や国・地方公共団体であり、収納代行サービス等事業者に金銭の代理受領権を付与し、債務者である一般消費者が二重払いの危険や信用リスクを負担しない形にする、いわゆるBtoCやBtoBのサービスについては、従前どおり、何らの免許や登録も必要なく、サービスを提供することが可能であると考えられ、実質的な影響はないものと思われます。
 なお、代理受領権限の設定に際しては、収納代行サービス等事業者に対し、単に金銭債権を代理として受領する権限を付与するに留める必要があります。金銭債権の管理や回収の委託を受け、又はそれを譲り受けて管理や回収を行うことについては、債権管理回収業の許可があれば別として、弁護士法に抵触する可能性があることから注意が必要です。
(2)債権者が個人である収納代行サービス等について
 債権者が個人となるCtoCサービスにおける収納代行サービス等については、特に注意が必要です。
フリマアプリのように、全くの見ず知らずの個人間の売買取引において、信用力のあるプラットフォーマーである事業者が間に入って、物品の交付が確認された段階で、決済が行われるような仕組みにして、個人間の取引の信用補完を行っているようなサービスについては、従前どおり、収納代行サービス等の枠組みにて事業を行うことができると思われます。
 他方で、原因債権の発生に全く関与していない事業者が、単に個人間の債権の取立てを行うために収納代行サービス等を行っている場合には、明確に「為替取引」に該当すると指摘される可能性が高いです。このようなサービスの運営事業者は注意が必要です。
(3)金額の多寡について
 収納代行サービス等については、銀行における送金と比較して、金額が低いことが当然の前提とされています。そのため、具体的な金額は現時点で明らかではありませんが、取扱金額が数万円程度を超えるようなものについては、別途規制の対象になる可能性もあります。収納代行サービス等事業者においては、他社事例等も見ながら、取扱金額の多寡についても十分に注意を払う必要があるものと思われます。

 

 

第4 小括

これまでの実務では、収納代行サービス等を行うにあたり、収納代行サービス等事業者の代理受領権限の有無について特に関心が寄せられることが多かったように思います。しかしながら、令和1年報告書において明らかになったとおり、規制当局としては、代理受領権限の有無のみならず、その存在を前提として、①債権者が事業者か一般消費者か否か、②債権者が一般消費者に該当するとしても、その経済的な効果等を検討し、利用者保護という観点からの適切性等を考慮して、サービス毎にきめ細かく検討しようとする姿勢を示しています。
 令和1年報告書では、繰り返し「利用者保護」といった言葉が用いられ、「利用者保護」が確保されているかという観点から、当該収納代行サービス等について規制を及ぼすべきかを検討しています。そのため、サービス設計に当たっては、形式的な法律構成のみならず、実質的な「利用者保護」の観点からも検討が必要となります。
 また、収納代行サービス等に対する規制の変化に合わせて、資金移動業の登録についても送金額の多寡に応じた規制にすることが検討されています。送金額が「少額」の事業者については、現行の資金移動業の登録に比してより簡易な手続が導入される可能性があります。収納代行サービス等の規制を受けることとなった場合には、別途、資金移動業者としての登録も検討されます。

 

弊所においては、適切な決済サービスについてのご提案・コンサルティングや、既に運用されているスキームについての助言、ひいては、登録・届出等の手続等のリーガルサービスを提供していますので、FinTech(フィンテック)サービス、収納代行サービス等についてのご質問やご相談がございましたら、お問い合わせください。

 

以上

 

 

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