「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告」から考える ベンチャー法務への影響 (前編)

「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告」から考える ベンチャー法務への影響 (前編)

弁護士 小名木俊太郎

弁護士 境孝也

弁護士 原田雅史

 

 

第1 はじめに

 2019年7月26日に金融審議会「金融制度スタディ・グループ」の報告(※1)(以下「本報告書」といいます。)が公表されました。金融制度スタディ・グループでは、①情報の適切な利活用、②決済の横断法制、③プラットフォーマーへの対応、④銀行・銀行グループに対する規制の見直し、を当面の検討事項としています。
このうち、①・④については、2019年1月16日に「金融機関による情報の利活用に係る制度整備についての報告」を公表し、この報告を踏まえて、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、2019年6月7日に公布されました。

 本報告は、上記②・③との関係について、金融制度スタディ・グループにおけるこれまでの審議をまとめたものです。今後の法改正の見通しを付ける上で極めて重要と思われますので、本稿では、その概要とベンチャー法務を含めた企業法務に対する影響等を紹介していきます。前編では、資金移動業と前払式支払手段を、後編では収納代行とポイントサービスについて、それぞれ紹介していきます。

 

 

第2 資金移動業

 1 現在の制度概要

 送金等の為替取引を行うこと(※2)については、基本的には銀行固有の業務とされており、銀行法に基づき、銀行業を行うことにつき内閣総理大臣の免許を受ける必要がありました(銀行法第2条第2項第2号、同法第4条第1項)。
 もっとも、その後2010年に施行された資金決済法においては、インターネット取引の普及等により、主に個人が利用する少額の送金についてさらに安価で便利なサービスが求められていた。また、海外では既に銀行以外の事業者が送金を取り扱うことが認められていたこと等を踏まえ、「100万円に相当する額以下の資金の移動に係る為替取引」を業として営むことについては、資金移動業者として内閣総理大臣の登録を受けることによって行うことが可能となりました(資金決済法第2条第2項、同法第37条、資金決済法施行令第2条)。
なお、確かに、銀行業についての免許を受けるよりもその要件は緩和されているものの、資金移動業者は、最低1000万円以上の履行保証金の供託(※3)(資金決済法第43条第1項・第2項、資金決済法施行令第14条、資金移動業者に関する内閣府令第11条)をする必要がある等、資金力が乏しいベンチャー企業にとっては障壁が高いものとなっています。

 

 2 今後の見通し

(1)送金額に応じた規制

ア 上限額の変更

送金サービスについては、現行の100万円という上限額を超える送金に対するニーズが存在します。そのため、この上限額について金額が変更される可能性があります。
もっとも、このように上限額が変更された場合には、資金移動業者の保有金額が高額化することが予想されます。そのため、利用者からの高額の資金が資金移動業者に滞留することによる利用者のリスクを緩和するために、英国の例に倣って、次の制限が適当として、本報告書では指摘されています。

1) 具体的な送金指図を伴わない資金は受け入れ不可とする(※4)

2)運用・技術上とされる以上の期間を超えて資金を保持しないこととする

また、高額送金については資金の受け手のリスクが大きいことに加え、マネー・ロンダリングやテロ資金供与のリスクもあるので、より厳格な体制整備等が必要となると考えられています。

イ 1件当たりの送金額が数千円以下のものに関する規制緩和

資金移動業者が取り扱っている送金額は、件数ベースでは1件当たり数千円以下に集中しているという実態があります。他方で、このような少額の送金額であれば、相対的に利用者に対するリスクは低いと言えます。
そこで、本報告書においては、現行の規制内容を緩和することが示唆されており、その緩和の要件は、次が適当であると指摘されています。

1)取り扱う1件あたりの送金額が「少額」であること

2)利用者1人あたりから受け入れる資金の額も「少額」であること(※5)

規制緩和されるのは、送金額と利用者資金の受入れ額がともに「少額」となることで、事業者が破綻した場合でも、利用者一人ひとりが被る影響が限定的になると考えられたからです。他方で、想定以上の利用者資金が資金移動業者に滞留していることを踏まえて、(2)の要件が加えられています。
なお、「少額」の送金の場合であっても、犯罪収益移転防止法上の取引時確認義務等の適用は除外されるべきではないと考えられています。

ウ 既存の資金移動業者への影響

現行規制を前提に今後も事業を行おうとする事業者については、現行の枠組みを基本的に変えないことが適当であるとされつつも、上述したとおり、想定以上の利用者資金が資金移動業者に滞留していることから、利用者資金の受入れについては、何らかの制限を設けることが検討されています。その意味では、今後、滞留資金の取扱いについては一定の規制強化がなされる可能性があります。
なお、上記イで述べたとおり、「少額」の送金額については、現行の資金移動業者と比較して規制緩和がなされる可能性があるため、「少額」の定義については、特に留意する必要があります。

エ 小括

以上のとおり、送金額に応じた形で規制内容に変化を加えることが検討されています。現時点では、その類型として、次の3つが挙げられています。

1)第1類型:「高額」送金を取り扱う事業者

2)第2類型:現行規制を前提に事業を行う事業者

3)第3類型:「少額」送金を取り扱う事業者

 

(2)利用者資金の取扱い

ア 保全におけるタイムラグの問題

現行法上、利用者資金の保全方法としては、供託、保全契約又は信託契約が認められているところ、供託又は保全契約により保全する場合には、
A)1週間における要履行保証額の最高金額以上の額を、B)その週の末日から1週間以内に保全することとされているため、保全すべき額を算定する時点(a)とその額を実際に保全している時点(b)との間にタイムラグが存在しています(下記図参照)。
これによって、資金移動業者が負っている債務額(資金移動業者に滞留している利用者資金)に比して、保全している額が少なすぎる又は多すぎるという事態が生じることが指摘されています。
この事態を解消するために、本報告書では、利用者保護と事業者の規制対応コストのバランスを考慮しつつ、より合理的で適切なあり方を検討していくことが、重要だと指摘されています。今後、タイムラグの問題を解消するための具体的なルール整備が行われる可能性があります。

イ 利用者が他者から送金を受けた場合の取扱い

上記2(1)イ、ウで述べたとおり、想定以上の利用者資金が資金移動業者に滞留していることから、今後、利用者資金の受け入れについて、何らかの制限を設けることが検討されています。
他方で、利用者が資金移動業者を利用する場合には、事前に利用者自身のアカウントを開設することがありますが、当該アカウントには自ら資金を入金することもあれば、他者からの送金を受けた結果として資金が入金されるケースもあります。
それにもかかわらず、利用者資金の受入れについて制限を設けた場合には、他者からの送金を受けられず、利用者の不便となってしまいます。そのため、一定のルールに従って、利用者のアカウントに入金された資金を、速やか、かつ、確実に利用者の預金口座に払い出すための措置を講ずること等が検討されています。

 

 3 ベンチャー法務への影響

 ベンチャー企業では、銀行の免許を受けることに比較して規制が緩和されているとはいえ、最低1000万円以上の履行保証金の供託がネックとなって、資金移動のニーズの高さにもかかわらず、資金移動業の登録は敬遠される傾向にあります。代わりに、ベンチャー企業では、収納代行のスキームを採用するのが一般的となっています(詳細は「後編」で説明します)。
本報告書では、数千円又は数万円以下の「少額」の送金のみを取り扱う事業者については、規制緩和が示唆されています。規制緩和の理由から考えると、利用者資金の保全、すなわち、供託すべき履行保証金が、現行の1000万円よりも減額されることが予想されます。具体的な規制緩和内容は、今後の議論を待たなければなりませんが、資金移動業に関する規制内容が変更された場合であっても、収納代行のスキームにて代替できるものについては、そのままの形で事業を継続することとなります。他方で、資金移動業の登録を受ける場合には、アカウント内にて利用者資金の受入れが可能になるため、一定の範囲内でお金を貯めておけるサービスができるようになり、よりサービスの幅を広げることが可能となります。

 

 

第3 前払式支払手段

 1 問題意識

 (1)現行の制度概要

 プリペイドカードや電子マネーのような前払式支払手段(※6)についても、資金移動業の規制と同様に、利用者資金の保全が求められています。基準日(毎年3月末日及び毎年9月末日をいいます)・未使用残高(基準日までに発行した全ての前払式支払手段の当該日における未使用残高をいいます)が1000万円を超えるときは、当該基準日未使用残高の二分の一以上に相当する額の発行保証金を、当該基準日の翌日から2か月以内に、主たる営業所又は事務所の最寄りの供託所に供託しなければならないとなっており、資金移動業と比較すると、その保全額や時期が若干緩和されています(資金決済法第3条第2項、同第14条第1項、資金決済法施行令第6条)。

 

 (2)問題意識

 他方で、前払式支払手段のうち、発行者以外の商品・サービス提供者においても使用可能である「第三者型」(資金決済法第3条第5項)であって、かつ、財産的価値がICチップやネットワーク上のサーバに記録される「IC型」「サーバ型」であるものについては、例えば、プリペイドカードの「チャージ残高の譲渡」をすることで、実質的に個人間の送金を行うことができるサービスが登場しています。また、「チャージ残高の譲渡」ができないプリペイドカードであっても、広範な加盟店で使用が可能なものについて、利用者がその番号等を第三者にメール・SNS等で送付することを通じ、当該第三者の支払手段として提供することも可能となっています。
つまり、実質的には「第三者型」、かつ「IC型」「サーバ型」の前払式支払手段については、送金サービスに類似した性質を有しているにもかかわらず、資金移動業の規制と比較して、緩やかな規制が課せられているにすぎないと指摘されています。

 

 2 今後の見通し

このように、「第三者型」、かつ「IC型」「サーバ型」の前払式支払手段については、資金移動業と同水準の、利用者資金の保全の措置が講じられる可能性があります。また、資金移動業についての今後の見通しと同様に、その(実質的な)送金額に応じて、規制内容に差異が設けられることとされています(※7)。

 

 3 ベンチャー法務への影響

資金移動業と同様に、発行保証金の供託を理由に、資金力の乏しいベンチャー企業では、前払式支払手段の利用は限定的です。代わりに、規制の適用除外となっている、発行日から6か月以内に限り使用できる前払式支払手段(資金決済法第4条第2号、資金決済法施行令第4条第2項)という仕様とすることにより、資金決済法の規制を回避している場面が多いと思われます。そのため、仮に「第三者型」、かつ「IC型」「サーバ型」の前払式支払手段について資金移動業と同水準の規制が行われた場合であっても、ベンチャー企業に対する影響はあまり大きくないように思います。

 

以上

 

 

(※1)
「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る 制度整備についての報告 ≪基本的な考え方≫」

(※2)
最高裁決定によると、「『為替取引を行うこと』とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること 、又はこれを引き受けて遂行すること」(最高裁平成13年3月12日決定)とされています。

(※3)
1週間ごとに、要履行保証額(各営業日における送金途中にあり滞留資金額(未達債務の額)と還付手続に要する費用の合計額)の最高額以上の額に相当する額の履行保証金を、その1週間の末日から1週間以内に事業者の本店所在地の最寄りの供託所に供託する必要があります。

(※4)
このように利用者資金の受入れに制限を設ける場合には、他者から送金を受けた場合の対応についても検討されるべきところ、この場合には、他者から送金を受けて利用者のアカウントに入金された資金を、速やか、かつ、確実に利用者の預金口座に払い出すための措置を講じることが検討されています。

(※5)
送金先の利用者のアカウント内の資金が受入れ上限額を超えた場合には、アカウント内の資金を速やか、かつ、確実に利用者の預金口座に払い出す等、利用者のアカウント内の資金を受入れ上限額以下とするための措置を講じることが検討されています。

(※6)
前払式支払手段の定義については、資金決済法3条1項参照。

(※7)

 

 

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