2019.08.22

日本国内におけるIEOの展望

日本国内におけるIEOの展望

弁護士 牧野 史晃

 

 

1.はじめに

 2017年に資金決済法が改正され、ICOの多くが仮想通貨交換業の規制に服することになってから約2年。ICOを行うには、多くの場合で仮想通貨交換業の登録が求められるようになりました。しかし仮想通貨交換業者に求められる社内体制の構築や顧客資産の安全管理体制充実など、一般的なベンチャー企業では到底実現不可能な要件・義務が壁となることで、国内におけるICOはかつての勢いを無くしたと思われます。
見方を変え、投機的なマネーが数多く流入していた規制前のICOを詐欺(scam)に溢れた不健全状態とするのであれば、規制がなされた現在はある意味ブロックチェーン業界の健全化のために必要な小休止なのかもしれません。

 

とはいえ、現在においてもブロックチェーン企業がトークンを発行して資金調達を行うという方法は重要性を失っていないと思われます。というのも、トークンは単なる投資的な証票ではなく、多くの場合でブロックチェーンがもたらすエコシステムに参画するための必要材であり、個々のプロジェクトにおいて形成されるトークンエコノミーの維持拡大に必要な血液だからです。また、トークンエコノミーをうまく維持拡大させるには、初期段階で爆発的にトークンを流通させると共に、そのトークンに経済的な価値を紐付ける必要があります。

 

そこで、今回は現在ICOに代わり注目を集めるIEOに焦点をあて、今後トークンを用いた資金調達がいかに変化しうるかを整理したいと思います。

 

 

2.国外IEO(Initial Exchange Offering)の動向

IEOを一言でいうならば、プロジェクトが発行したトークンを取引所に委託し、取引所を介して販売するという形になります。
国外事例で言えば、

・Binanceが手がけるBinance Launch PADにおけるBitTorrent(BTT)の トークンセールは約700万ドルの調達に成功。

・また、Bittrexが手がけるBittrex InternationalにおけるVeriBlock(VBK)のトークンセールも約700万ドルの調達に成功。

 

このようにIEOはICOに変わる資金調達手段の代替策としてなりうるとも思えますが、他方で否定的な声が無いわけではありません。

 

仮想通貨業界にある分散型の精神を真っ向から否定するもので、皮肉だ。ただ、この事実は、うまくいっている限り無視されているようだ」
(COINTELEGRAPH「『ICOより悪い』『分散型の精神を否定』仮想通貨使った新たな資金調達IEOに批判が相次ぐ」
2019年4月12日:https://jp.cointelegraph.com/news/industry-players-criticize-initial-exchange-offerings-as-alternative-to-icos-bloomberg

 

取引所の恣意的な選別に基づいてトークンセールが行われる可能性が存在しうることを考えれば、取引所による中央集権化の下で資金調達が進むことを危惧したこの指摘は的外れとは思えません。今後取引所から喰い物とされる形でIEOが蔓延してしまうと、ICOの頃と比べて新たな需要者被害をもたらすことにもなりうるところです。取引所が手数料を目当てで粗悪なプロジェクトのIEOを手がけるようなことはあってはならないというのが率直な意見です。

とは言え、自由状態でのICOを許した結果、悪質なプロジェクトが大量に発生したのも事実であり、このような歴史的経緯を踏まえると、需要者保護の視点は無視できないと思われます。取引所内におけるDD体制(デューディリジェンス)を強化、監督した上で、多少の中央集権化を認めるというトレードオフで活路を見出すのが、現在考えられる解なのでは、、というのが現在の私見です。
※取得できない仮想通貨交換業を夢見てICOに期待するよりは、IEOという形で可能性を模索する方が現実的。

 

 

3.Initial Exchange Offering

国内的にIEOを定義すると、(ⅰ)プロジェクトが発行したトークンを(ⅱ)既に仮想通貨交換業を取得した企業が引き受け、(ⅲ)そのトークンを仮想通貨交換業取得業者が需要者に対して販売する方法による資金調達とされます(金融庁が定義する第三者型ICOも上記のような定義です)。

 

図1

 

極めて簡単な形で整理すると、このような図になります。
まず前提として、「仮想通貨の売買や交換等」を「業」として行う場合、仮想通貨交換業に該当するため、仮想通貨交換業を取得しないと需要者に対する仮想通貨の販売はできません。そのため、プレイヤーとして仮想通貨交換業者が必須となります。
※IEOで用いるトークンが仮想通貨に該当することが前提。

 

次に、①の段階ではプロジェクトの主体が発行したトークンを全て仮想通貨交換業者に販売委託をします。なお、この場合販売主体は仮想通貨交換業者になりますが、仮想通貨交換業者との間の契約次第で、トークンの所有権移転はプロダクト主体と購入者群の間で行われることも考えられます。

 

もっとも、このような権利関係の移転を考えた場合、資金決済法を形式的に適用すると、たとえ販売を委託したとしてもプロジェクトの主体が「仮想通貨の売買」を行っているように見えます。

 

これについては、「業」要件の中身として定められている(ⅰ)反復継続性(これは反復継続的に行われることが今後予定されている場合、行為が1回目であっても満たすものと考えられている。)、(ⅱ)対公衆性(業として捉えることが社会通念上妥当でない場合に例外的に許容する趣旨のものと考えられている。)のうち、いずれかを満たさないものとして「業」要件を回避するものと考えられます。もっとも、各IEO案件についてこのような運用を行うかは金融庁の判断に依存することになりそうです。

 

さて、プロジェクト主体から委託を受けた仮想通貨交換業者は②の段階で委託を受けたトークンを購入者群へ販売します。販売対象となるのは、各交換業者との間でKYCをクリアしたユーザーに限られるものと思われます。

 

最後に、仮想通貨交換業者が販売したトークンについて委託手数料を差し引いた上でプロジェクト主体へ送金することで、IEOは完了というのが予定される流れです。

 

 

4.日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)の存在

簡潔にIEOの流れを確認しましたが、肝となるのは①のプロジェクト主体がトークンの販売委託を仮想通貨交換業者に依頼する場面です。
仮想通貨交換業者は、どんなトークンであれば販売委託を受け入れてくれるのだろう?という疑問がここのコアとなります。

 

ここには日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)が大きく関連しています。というのも、仮想通貨交換業者は漏れなくJVCEAに参加しているところ、このJVCEAでは各仮想通貨交換業者が新しい仮想通貨を取り扱うにあたり遵守しなければならない自主規制を定めているからです。そのため、IEOを行うにはこの自主規制に沿った内容とされる必要があると考えられます。

 

 

5.JVCEAを通じた自主審査フロー

自主審査の流れについては、JVCEAが公表している仮想通貨の取扱いに関するガイドラインに詳細が記載されています。このガイドラインをまとめ、IEOを行うまでの過程を図式化すると以下のようになります。

 

図2

 

 

Ⅰ 取引審査部門の設置

これは、IEOを引き受けることとなる仮想通貨交換業者内部における審査体制構築の有無を指します。
具体的にはまず、

①IEO審査を行うことを目的とした「取扱審査部門」を設置し、その責任者と担当役員を設ける。

②次に、IEOの対象となっている仮想通貨の取扱リスクを包括的かつ具体的に検証することのできる専門的知見を有する人材の確保をする。

③取扱審査部門での審査結果について、取締役会等の意思決定機関において、検討し最終結論が導き出せるような社内体制を構築する。

といったことが求められます。特に、②の専門的知見を有する人材については、明確な資格的指標がないため、経歴等に頼らざるを得ませんが、ブロックチェーン業界において先端的かつ中心的役割を果たしてきた人物などが考えられると思われます。もっとも、この要件に該当する人は多くないものと思います。

 

Ⅱ 内部審査の実施

仮想通貨交換業者内に取引審査部門体制が構築された後、実際にIEOを行うための内部審査が実施されます。
具体的な審査項目は明らかではありませんが、昨今のFATFによる勧告を受け、仮想通貨の持つマネー・ロンダリングやテロ資金供与等(AML/CFT規制)の問題を中心としたチェックがなされると考えられます。特に、匿名性の高い仮想通貨については相対的に AML/CFT規制に対する懸念が高まるため、内部審査の段階で拒絶される可能性があるので注意です。
※どのレベルをもって匿名性が高い仮想通貨というかは、FATFとの兼ね合いで今後決まっていくのではないかと考えています。
もっとも、匿名であることが問題なのではなく、 AML/CFT規制をクリアできない匿名性が問題なので、一定のプライバシー耐性を持つ仮想通貨等は、 AML/CFT規制のクリアが可能であるかの説明を通じて内部審査を通る可能性はあります。JVCEAも 移転記録の追跡ができない又は著しく困難な仮想通貨を匿名仮想通貨と定義して取扱い禁止の方向性を明示していることを考えると、移転記録の追跡が著しく困難でなければ取扱いは可能という考え方もできます。
また、公認会計士や監査法人による監査が困難な仮想通貨についても拒絶の対象となっており、その他需要者保護の観点から、当該仮想通貨の技術的内容にも審査が及ぶことになっています。

※これらについては、金融庁「仮想通貨ガイドライン」改正案Ⅰ-1-2-3にも触れられているため参考にしてください。
なお、2019年8月現在、当該ガイドラインは改正案として運用されていますので、今後ガイドラインの改正に関するパブリックコメントの募集結果を通じて内容が変更される可能性があります。

 

Ⅲ JVCEAの審査

仮想通貨交換業者の内部審査をクリアしたとしてもIEOが可能となるわけではありません。仮想通貨交換業者がまとめた審査報告書をJVCEAに提出し、JVCEAが取扱いを認めた仮想通貨に関する概要説明書を公表するというフローが必要となります。なお、JVCEAが異議を述べた場合、仮想通貨交換業者の内部審査をクリアした仮想通貨であっても取扱いはできないことになるので要注意です。

 

審査報告書に記載される情報は以下が基本となります。

①発行・取引状況 ②技術的事項 ③管理者・記録者 ④保有者等の状況 ⑤会員の管理能力等

その他、概要説明書記載事項も審査報告書の記載事項となっている可能性があるので、事前にJVCEAが公表している概要説明書を確認することが望ましいと思われます。

 

Ⅳ 金融庁への変更届出

JVCEAから異議を出されることなく審査をクリアすると、いよいよIEOに向けた最終段階に入ります。仮想通貨交換業者はIEOを通じて新しく取り扱う仮想通貨について、金融庁に事前に届出をしなければならない(正確には2020年施行予定の改正資金決済法による規制。)ため、最終段階で金融庁による確認が入ると思われます。

 

もっとも、新規に取り扱われる仮想通貨に関するチェックは仮想通貨交換業者内部及びJVCEAにて行われている前提であるため、金融庁のチェックもある程度それに沿ったものになると考えられます。

 

 

6.まとめ

以上の流れにそって、今後日本国内でのIEOは実施されていくものと思われます。

 

なお、今回のIEOの流れは必ずしも新しく発行される仮想通貨にのみ適用されるものではなく、既に発行されている仮想通貨を国内の仮想通貨取引所に上場させるかどうかの場面においても、同様の流れになると考えられます。
※先日モナコインがコインチェックに上場したのも、今回紹介した流れに沿って行われたものと思われます。

 

金融庁が公表した新しい仮想通貨ガイドライン改正案においても、IEOは第三者型ICOという形で紹介されており、今後このような運用がなされることが前提となっています。
ICOは現在事実上規制下にあるため国内では停止状態にありますが、需要者保護の観点や AML/CFT規制のクリアが可能であれば、IEOという形で今後形を変えて発展していくことは期待されてもよいと思われます。