2019.06.20

SNSに関するトラブル対応(1)

SNSに関するトラブル対応(1)

弁護士 早崎 智久

 

 

1.はじめに

 SNSが関わるトラブルといえば、以前はいわゆるLINEいじめやSNSを通じた出会い系被害などが問題となっていました。ところが最近では、従業員(アルバイトを含みます)や役員のSNSへの投稿が発端となり、企業が社会的に非難される事件(いわゆる「炎上事件」)が頻発しています。また、弊所で相談を受ける機会から推測すると、炎上事件までは発展せず表沙汰にはなっていないものの、情報漏洩、名誉毀損、業法への抵触が生じるケースに至っては相当数が生じているものと思われます。このように、最近では、ビジネスにおけるSNSトラブルが拡大しています。そこで、こうしたトラブルについて、順番に解説いたします。

 

 

2.いわゆる「炎上事件」

(1)類型

 ①従業員等の不適切行為が目撃者により投稿される

 ②役員、従業員等が投稿・発言したものが批判される(いわゆる「Twitter炎上」「バイトテロ」)

 

(2)共通する特徴
まず、上記の①の類型は、不適切な行為が犯罪に該当するような場合には、SNSが関わらなくても、つまりSNSが普及する前の時代でも、目撃者から警察への通報で事件になり、その後マスメディアに報道され、社会的な批判につながることがありました。しかし一方で、犯罪にならないような場合は、その場限りの問題として会社も社会も知らないうちに収まったり、直接の被害者との関係で謝罪や賠償がなされることで、社会が知ることもなく解決することが一般的でした。
ところが、現在においてはそれが犯罪に当たらなかったり、違法の程度がごく軽微なものであっても、世間一般のモラルに反すると評価される場合は、SNSを通じて広く拡散され、さらにマスメディアがこれを取り上げることで、瞬く間に社会的な批判へと発展することになります。また犯罪行為であった場合も、オリンピック選手の行った行為が目撃者によって撮影され、世界的な非難に発展したケースがあったように、その影響力は昔とは比較にならない規模になります。
次に、上記②の類型も①と同様であり、役員や従業員等の投稿や発言が、差別発言に該当したり、投稿された画像、動画が不適切な行為や法律に違反する場合に社会的非難に発展するケースが多発しています。
これらの特徴として挙げられるのは、不適切行為や従業員の投稿自体は違法でなかったり、違法性の程度がそれほど高くない場合が含まれ、また発言内容も特定の見解の表明に過ぎない場合が大半にもかかわらず、SNSが関わることにより、事業者に与える影響は極めて大きいということがあります。つまり、行為や発言の程度と事業者が受ける影響が比例しないのです。なお、従業員等の故意によらずに情報が流出するケースは次回、検討します。

 

(3)法的な分析
これを法的に見ると、以下のとおりとなります。
まず、従業員等は就業規則等により、会社に対して誠実に労働する義務を負っています。一般的な就業規則には風紀、秩序の維持に努め、誠実に職務に専念する義務が含まれており、最近ではSNSに関する投稿に関する規定も増えていますので、従業員等の行為が事業者に対するこうした義務に違反する場合や、会社に対する不法行為になる場合であれば、事業者は、当該従業員等に対して懲戒処分や損害賠償請求ができます。 また、従業員等の行為が第三者に対する不法行為に当たる場合、従業員等がその第三者に対して責任を負うのは当然ですが、使用者も従業員に連帯して賠償する責任を負います(使用者責任、民法715条)。そして、この賠償を事業者が全額行った場合も、従業員は共同不法行為者として、その負担割合に応じた金額を事業者に対して支払う義務を負います。
このように、事業者は特定の被害者に対して、賠償をすることで特定の被害者との関係で事態を収めることができますし、その金額の一部は従業員から支払ってもらうことで、事業者が負う損害額も抑えることが可能でした。
この一連の法律上の関係は、現在も変わりません。
ところが、現在ではSNSにより炎上が起きた場合、企業が負う損害は、被害者に支払う賠償額だけでなく、信用の失墜による売上の大幅な低下や、マスメディアや取引先への対応に伴う大幅なコストが発生します。事業者からすれば、従業員の誠実労働義務違反や不法行為により損害を受けたことになりますが、この損害額は、一人の役員や従業員が負担できるような金額ではなく、使用者がこれらの者に損害賠償を行ったところで実際の支払がなされるケースはごく稀です。つまり、法律による適正な賠償額の分担はなされないものといえます。
さらに問題となるのは、従業員等の行為が不法行為にならず、かつ、事業者に対する誠実労働義務にも違反しないケースです。この場合、事業者は第三者に賠償義務を負うことはありませんが、一方で売り上げの低下や取引先等への対応コストについて、当該従業員に対して責任追及自体ができないことがありえます。

 

(4)これらの行為の原因
SNSでの投稿が上記のような影響力を持つ原因は様々です。まずはそもそもの環境として、SNSが各個人のプライベートなネットワークに留まらず、インターネットを通じて世界全体にもつながっていることが挙げられます。また、スマートフォンの普及により、誰もが場所や時間を問わず、動画や画像などを気軽にSNSに投稿できるようになったこともあります。そして、プライベートでの利用に限られていたSNSが、近年ビジネスにおいても広く利用されるようになったことが挙げられます。
ところが、従業員の中にはプライベートの延長としてSNSを捉えており、インターネットが世界全体につながっていることへの認識が甘かったり、投稿したものがデジタルデータで容易に保存されることやネット上での情報の拡散力についての認識が低いことも珍しくありません。ネットリテラシーが不足していることは、一般的な傾向ともいえます。
また、SNSが匿名であることに油断しているケースも多いと考えられます。しかし、投稿された画像や動画には多くの情報が含まれており、それらの情報から人物や場所、事業所の特定は容易になされているのが現状です。
さらに、投稿する際に自分の考え方を客観視できず、他者からの視線に無頓着なことも原因と考えられます。投稿内容が他人からどのように評価されうるのかが分からないため、悪意なく問題となる投稿を行うケースも多く見受けられます。
もちろん、インターネットは個人の見解を表現できる場でもあり、自分の見解を公表する行為自体は非難されるものではありません。また、個人の見解について他者から評価され、時には批判されるのも自分の責任として当然のことともいえます。しかし、SNSがビジネスにおいても活用されることに伴い、投稿者の行為が単にその者の個人的な行為としてではなく、事業者と関係付けられることにより、事業者の責任(管理責任、連帯責任)として捉えられてしまうケースが多いといえます。

 

(5)対処法
問題となった事例を見ると、炎上事件を起こした従業員や役員は、事業者から解雇され、大学生の場合は停学や退学処分になったりしています。匿名での投稿であっても「アカウント特定」と称して短期間に特定され、個人情報を晒され、その後の人生に大きな影響を受けたものと思われます。また、事業者がこれらの者に対し、民事責任を追及するケースも見受けられます。ただし、事業者の側から見た場合、前述のとおり、これらの者が事業者に賠償できるケースはごく稀です。つまり、事業者の損害は、実際には賠償されないケースが大半だと考えられます。また、こちらも前述のように、そもそも従業員等に対して責任追及ができない場合がありえます。このように、問題が発生した後の事後的な対応には限界があります。また、いったん失われた信用は、経済的な賠償だけでは回復できないものともいえます。
このような状況からしますと、事業者にとっては、第一に未然の防止策をどれだけ取っておくかが極めて重要だと考えられます。
この未然の防止策ですが、まずは、従業員の場合は雇用契約書や就業規則、役員の場合は委任契約書において、SNSへの投稿に関する規定を設けることが現実的です。具体的には、事業者への影響が生じるようなSNSの利用行為を明確に禁止する規定を設けることになります。なお、就業時間中の私用でのスマートフォン使用を禁止したり、守秘義務の規定を設けている事業者は多いと思いますが、就業時間外に投稿することについては規定が及ばず、また、投稿内容が個人の見解であるような場合は守秘義務の規定だけでは対応できないケースもありますので、SNSトラブルへの対応として規定を設ける必要があります。
さらに、禁止行為を明確に規定するだけでなく、これを、従業員等に対して周知させることも重要となります。具体的には、丁寧な説明をすることにより、従業員等の意識に働きかけ、未然に防止することが大切です。この際には、禁止行為がなされた場合には損害賠償請求や懲戒処分の対象になることも、きちんと説明しておくべきと考えられます。
もっとも、防止策があるにもかかわらず実際に発生してしまった場合は、それに対する対処が必要であり、さらなる炎上の防止や、責任を果たしていることを明確にし、損害の拡大防止が必要となります。ただし、この場合は、事実関係の確認に加え、発生している事象を法的に分析評価した上での対応が肝心となり、初動を誤ることで、事態が更に悪化するケースも多く見受けられるところです。各ケースによって、対応方法や注意点が変わってきますので、弁護士等に速やかにご相談され、早期に正しい対応方針を立てることが肝要と思われます。
次回の「SNSに関するトラブル対応(2)」では、情報漏洩とネットにおける名誉毀損などについてご紹介します。

 

 

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