著作物・著作権をめぐるルール改正の解説(後編)

著作物・著作権をめぐるルール改正の解説(後編)

弁護士 恩田 俊明

 

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■ 前編のまとめ


前編では、先般改正された著作権法(以下単に「法」という場合があります)の概要に軽く触れました。後編では改正法の具体的な内容について、「結局何がどう変わるの!?」という問いにお応えすることができるよう、もう少し詳しく掘り下げるところから話を始めていこうと思います。

 

 

■ 「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」(新法第30条の4)

まずはこの「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」であれば、他人の許諾を得ずに著作物を利用することができる、という規定が新設された点に着目します。フェア・ユースほどではないですが、個別具体的ではなく、やや抽象的な表現の権利制限規定なので、この規定がどんなケースを想定して設けられたのか、その背景を確認しておく必要がありそうです。
ここで突然ですが、「著作権法は何を守ろうとしているのか?」、著作権法が利用者にとって厳しすぎる、などの議論が巻き起こることも少なくないなか、こんな疑問をお持ちになった方も少なくないのではないでしょうか。
この点の整理から始めておくと、法第1条には『著作者等の権利』の保護と著作物等利用による文化の発展寄与とのバランスを図ることが法の目的であると明記されています(※1)。この「著作者等の権利」とは、対外的に著作物の利用を認めることにより対価を得ることを含んでいると考えられており、今回の改正法の審議のなかでも法の目的に「無断利用を防止する権利を与えて対価回収の機会を確保することにより創作活動へのインセンティブを付与する」観点が含まれている、と繰り返し説明されています(※2)。
やや遠回りしましたが、この法の目的を踏まえると、権利者にとって対価回収の機会が必ずしも必要でないケースであれば、その権利を制限することも可能なのではないか、という考え方が導き出されます。そして、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない」利用態様の場合、利用者は著作物から思想又は感情を享受できない、つまり知的・精神的欲求を満たすという効用を得られないのであって、その利用に対価を提供する必然性はそれだけ低いということができます。そこで改正法では上記の場合には「必要と認められる限度」での自由な利用を認めることとしたのです。
それでは、具体的にどのような利用が改正法第30条の4の適用対象になるのでしょうか。条文上は①技術開発・試験のため、②情報解析のため、という目的が列挙されていますが、その他③著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなくコンピュータの情報処理の過程で利用する場合、も適用対象になるとされており、人が著作物の表現に直接触れない、より具体的に言えば機械的な処理を目的とするような利用の場合には、幅広く③に該当し自由な利用が認められそうです。現行法の規定(法第47条の7の場合)では、権利行使が制限される情報解析は「統計的」に行われるものに限定されているなど、細かい点で融通が利いていなかったとの指摘もあったところであり、改正法の規定では、例えばAIなどを使った情報解析が、その態様を問わず柔軟に行えることとなりそうです。

 

 

■ 「電子計算機における著作物の利用に付随する利用等」(新法第47条の4)

現行法でも、キャッシュやバックアップのための複製等については幅広く権利者の許諾なき利用が認められていました。しかしなかには運用が硬直的になりうる内容の規定もあったため、改正法では、広くコンピュータを使った著作物の利用を円滑又は効率的に行うために付随する利用目的であれば、「必要と認められる限度」での自由な利用を認めることとしました。キャッシュやバックアップといった行為は、そもそも本来の著作物の利用そのものというよりは、著作物をコンピュータ上で複製したり、公衆送信したりする際の付随行為であって、その行為が単独で著作者等の権利を不当に侵害するとは評価しづらいという整理が背景にあります。

 

 

■ 「新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等」(新法第47条の5)

現行法のもとでも、検索エンジンサービスを展開する際に、検索結果として他人の著作物を無許諾で利用することは一定の範囲で認められています(法第47条の6)。利用できる著作物は「送信可能化された著作物」つまりネット上にアップされた著作物に限定されていたので、例えば非デジタルな著作物を自らデジタル化し、検索結果として利用する際には、権利者の許諾が必要でした。
ただ、検索結果を出力するに際して、その必要性が認められる限度であれば利用する著作物がデジタル化されているかどうかはあまり関係がないはずです。そこで改正法では、送信可能化された場合に限らず「公衆への提供又は提示」があった著作物であれば、「必要と認められる限度において」利用することができるとされました。
なお、さらにこの規定では、実はこれまで取扱いが不明確だった、情報解析されたあとの著作物のアウトプットについても、権利者の許諾なく行い得ることが明確になりました(改正法第47条の5第1項第2号)(※3)。
ちなみに、改正法第47条の5で認められる「利用」とはその定義上、著作物のうち利用される部分の占める割合や分量、表示精度などを踏まえた軽微なものに限定する、とされており、「軽微利用」とも表現されています。どの程度の分量・表示精度をもってすれば軽微利用といえるか、という境界線をひくのは現実的にも困難なのではないかと思いますが、実務上は「サービス利用者がこうした情報処理の結果が自己の関心に沿うものであるか否かを確認できるようにしたり、その信憑性、信頼性を証明したりする上で必要な」(※4)限度での利用にとどめることを強く意識することが求められることになりそうです。

 

 

■ 教育機関によるネットワークの活用を促進する改正とその影響について

現行法では、教育機関(学校法人等を指し、学習塾などの営利機関は含まれません。)が他人の著作物を対面授業、あるいは対面授業と同時に行うオンライン授業の際に利用(複製・公衆送信等)する場合、著作権者の許諾を不要としていました(第35条)。改正法では、この枠組みを維持しつつ、さらに対面授業と同時でないタイミングでの公衆送信についても、補償金(「授業目的公衆送信補償金」といいます。)を支払うことにより著作権者の許諾を不要とする新たな枠組みを導入しました(改正法第35条第2項)。この法改正により、いわゆるEラーニングでの著作物の利用が円滑に進むことが期待されています。
いっぽうで、エドテク(Ed Tech)ベンチャーをはじめとする営利企業が教材として他人の著作物を利用する場合は、法改正の前後を通じて第35条の適用範囲外なので、残念ながら、個別に著作権者から許諾を取らなければなりません。
なお、改正法で導入される授業目的公衆送信補償金ですが、個々の著作権者に対してではなく、文化庁が指定する窓口(指定管理団体)にまとめて支払えばよいとされました(改正法第104条の11第1項)。現時点(2018年7月時点)では補償金の相場やどこが指定管理団体となるかは未定ですが、ここで重要なのは指定管理団体による柔軟な権利処理が可能なスキームが構築された、という点です。もしこの指定管理団体を活用したスキームが円滑に運用されれば、今後はエドテクベンチャー等営利企業による著作物利用についても同様のスキームを活用する制度の拡大が見込まれるかもしれず、関係者は今後の動向に注目しておくべきかもしれません。

 

 

■ 改正法運用に向けた流れ

ここまで改正法の具体的な内容を見てきましたが、前編でフェア・ユースのメリット・デメリットについてご説明したように、抽象的な表現を含む「柔軟な権利制限規定」が導入されることで、個別事例へのあてはめについての混乱が少なからず懸念されるところです。そこで改正法の審議過程では、却って著作物利用への萎縮効果が生じないよう、ガイドラインの策定などの措置を講じるよう求める附帯決議がなされました(※5)。文部科学省としては、現段階では早期のガイドラインの策定には慎重のよう(※6)ですが、来年1月1日の改正法施行(※7)を前に、「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応する」という改正法の趣旨にそぐわない運用がなされないよう注視していくことが必要になりそうです。

 

 

■ TPP11に関連する法改正の動き

ここまで見てきた流れとは別の観点から著作権法の改正が行われている点にも触れておきたいと思います。それがTPP12(環太平洋パートナーシップ協定)及びその後継枠組みともいうべきTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、以下本稿ではまとめて「TPP等」といいます。)締結・発効に伴う改正です。詳細は省略しますが、広範な自由貿易圏の創設を志向するTPP等においては知的財産権を巡るルールの統一も企図しており、我が国の著作権法もその観点からの改正(以下では「TPP等関連法改正」といいます。)が既に行われています。
TPP等関連法改正のうち主だったものとしては、①著作物の保護期間延長、②一部の著作権等侵害罪の非親告罪化、が有名です。これらの改正内容の詳細については既にある多くの解説に譲るとして、ここではTPP等関連法改正の施行日(TPP11に関する協定の発効日(※8))に着目します。来年(2019年)早々にも協定が発効する見込みが高いともいわれる(※9)なか、冒頭解説してきた改正法とTPP等関連法改正がほぼ同時期に施行される可能性が出てきました。TPP等関連法改正と柔軟な著作物利用との観点をもつ改正法とは、必ずしも目的を同じくするものではないとの指摘(※10)もなされているところであり、両法改正の内容がほぼ同時に施行されると、現場で混乱が生じる可能性も懸念されます。施行まであと約半年、変わりゆくルールの内容を改めて整理し、よく咀嚼しておく必要がありそうです。

 

 

■ 欧州で巻き起こる著作権ルール改定の動き

最後に、欧州で起きている著作権をめぐるルール厳格化の動きについて紹介します。個人情報の取り扱いを巡るGDPR(欧州一般データ保護規則)の施行を巡り大きな話題を提供したばかりのEUですが、現在著作権の取扱に関するルール(著作権指令)の改定について検討を進めており、そのことが広く議論を呼んでいます。
改定の内容は、今回解説した日本の改正法の内容と大きく変わりません。ただ例えば、報道出版社(publishers of press publications)に対して、記事へのハイパーリンクなどオンライン利用に関して一定の権利を付与する内容の規定(※11)が、報道出版社に「リンク税(link tax)」の徴収権限を付与するもの(自由なハイパーリンクが制限されるのではという懸念)として強い非難を浴びています。批判の中には誤解に基づくものも少なくないようですが(※12)、つい先日この改定案は欧州議会で否決され、現在再度審議が行われています。今後その審議の内容次第では、我々もEUとの関係でウェブコンテンツ利用のルールを再度見直さなければならない可能性があります。

 

国内外問わず、しばらく著作権をめぐるルールの動きには目が離せそうにありません。

 

 

 

(※1)著作権法第1条「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」

(※2)http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009619620180406005.htm?OpenDocumentの林文部科学大臣答弁参照

(※3)現行法第47条の7、改正法第47条の4はいずれも、情報解析を行うための複製等について規定しているものの、解析後の著作物(あるいはその二次的著作物)をアウトプット(複製、公衆送信等)することができるかどうかについては規定していません。

(※4)http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009619620180406005.htm?OpenDocumentの中岡政府参考人の答弁参照、ただし下線は恩田による。

(※5)http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009619620180413007.htm?OpenDocument

(※6)http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009619620180406005.htm?OpenDocumentの中岡政府参考人の答弁参照

(※7)改正第35条など一部規定の施行時期は異なります。

(※8)「環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」附則第1条

(※9)茂木TPP担当大臣による平成30年7月13日記者会見(http://www.cao.go.jp/minister/1711_t_motegi/kaiken/2018/0713kaiken.html

(※10)一例として骨董通り法律事務所for the Arts福井健策弁護士のコラム(https://www.kottolaw.com/column/001689.html

(※11)Article11(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=consil:ST_9134_2018_INIT

(※12)http://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1807/08/news013.html

 

 

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