著作物・著作権をめぐるルール改正の解説(前編)

著作物・著作権をめぐるルール改正の解説(前編)

弁護士 恩田 俊明

 

 

■ 著作権をめぐる目まぐるしい動き


「ネット上にある画像データを集めて解析したい」「解析結果を使って何かビジネスに活用したい」「自社で集めたコンテンツに関する情報をデータベース化して公開したい」ネットビジネスに携わる方であれば、こういった願望を必ず一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。
インターネット上には文章、画像、動画、音楽など様々なデータやそれらのコンテンツの情報(以下ではまとめて「コンテンツ」ということがあります。)が流通しており、ネットユーザーであれば比較的容易にそれらのコンテンツにアクセスすることができます。ただ、こういったコンテンツを利用する際に必ずと言っていいほど問題になるのが著作権です。ネット上に流通するコンテンツや自分自身が集めたコンテンツに他人の著作権が及んでいれば、権利者に許諾を得ずにそれらを勝手に利用することは、著作権侵害の責任を問われかねないからです。
このように、ネットとコンテンツとの関係を巡っては、その有効活用の可能性が日々検討されているいっぽう、著作権法の仕組みがこれらの新たなビジネスチャンスに対応しきれていないとの指摘もなされており、そのこと自体がビジネスチャンスの幅を狭めてしまうとすら言われてきました。
そのようななか、2018年5月から6月にかけ、著作権にまつわる法改正が立て続けに行われました。法改正の内容は多岐にわたっていますが、そのなかにはこれまでの原則が大きく変わる可能性のある内容も少なからず含まれています。そこで今回は、ベンチャービジネスに携わる方々が特に気にしておくべき著作権法改正のポイントについて、従来のルールとの比較で解説するとともに、世界、とりわけEUで巻き起こっている著作権ルールの改訂の議論についても解説します。キーセンテンスは「著作権者の利益を不当に害するか」「軽微利用といえるか」です。

 

 

■ 著作権法の原則・例外と改正法の柱

改正法の内容に踏み込む前にまず著作権法(以下単に「法」という場合があります)の大原則を確認すると、他人の著作物を利用する際には著作権者から許諾を得る必要があります(法第63条第1項、第2項)。ただ、様々な事情を背景に、著作権法では許諾を得ずに著作物の利用ができる場合をケースごとに列挙しています(法第30条以下)。これまでビジネスの場では、引用(法第32条)やいわゆる写真の「写りこみ」(法第30条の2)、検索のための複製(法第47条の6)そして情報解析のための複製(法第47条の7)などが取り上げられることが多かったように思われます。
今回5月18日に成立した改正著作権法(平成31年1月1日施行予定、以下「改正法」といいます)の内容のうち、大きな関心を呼びそうなのが①「柔軟な権利制限規定」の新設と、②教育のICT化に対応した権利制限規定の整備、です。これらはいずれも、社会のデジタル・ネットワーク化に対応するため、最初に掲げた「許諾を得ずに著作物の利用ができる場合」を拡大していこうとする観点から規定されたルールということができます。

 

 

■ 「柔軟な権利制限規定」とは

これまでの著作権法では、デジタル・ネットワーク技術を利用した著作物利用については、その行為類型ごとに個別の権利制限規定を設けてきました。ただこれでは、新たな技術が生まれ活用されるたびに新たな法改正の検討が必要になってしまい、日々進化(深化)する技術革新のスピーディーに対応することができているとはいいがたい状況でした。そこで内閣に設けられた知的財産戦略本部で、「新たなイノベーションへの柔軟な対応と日本発の魅力的なコンテンツの継続的創出に資する観点」(※1)から、より柔軟性のある権利制限規定を設けることが謳われました。
その後具体的な法改正の方向性についての議論が文化庁を中心に進んでいたのですが、これまで何度も議論にのぼっては採用されてこなかった「日本版フェア・ユース規定」の導入は、今回も必要性がないとのことで見送られました。
ここで「フェア・ユース(Fair use)」について補足します。フェア・ユースとはアメリカ著作権法の考え方で、法律に列挙された一定の考慮要素(※2)を踏まえ、その著作物の利用が「公正な利用」と評価できる場合には著作権侵害とならない、とする制度です(※3)。法律の条文自体は抽象的なので、様々な事態に対しても柔軟な法適用が可能になるとの期待感から、これまでもこのフェア・ユースの考え方を日本の著作権法にも導入すべきではとの声が上がってきました。
ただ文化庁での議論の結果、今回の改正で「公正利用」を保護する包括的な規定を設けることは、却って適法性の判断を難しくし、結果として権利侵害を助長することにもなりかねない(具体的に、どのような行為を避ければ権利侵害の責任を問われないかという予測可能性が低下してしまう)などの意見を背景に、採用が見送られました(※4)。ただそのいっぽうで知的財産推進計画が求める「柔軟な対応」を実現する必要もあることから、法改正にあたっては、著作権者に与える影響の度合いの軽重に応じて著作物の利用をグループ分けし、影響が軽微な利用態様については、幅広く著作権の行使を制限してもよいのではないか、という方向性が打ち出されました。
改正法はこのような経緯で誕生したもので、「柔軟な権利制限規定」はそのような要請に応える規定として設けられました。詳細は以下で詳しく解説していきますが、今回の改正により、ビッグデータの解析や機械学習といった新たなテクノロジーを利用したビジネスを展開するに際し、他人の著作権抵触を懸念しなければならない事態を回避することが望まれています。

 

 

■ 「柔軟な権利制限規定」の内容

改正法では、3パターンの「柔軟な権利制限規定」を新設するとともに、従来の著作権法にあったいくつかの権利制限規定を削除することとしました。なかでも、これまでデータ解析を行うベンチャー企業の方々にとって関心の高かった「情報解析のための複製」に関する規定(第47条の7)などが削除されているので、従来の著作権法に慣れ親しんだ方には注意が必要になります。今回改正法で削除されることとなった規定は以下のとおりです。

 

(現行法の規定のうち、改正法で削除される規定)

①著作物の利用に係る技術開発・実用化の試験のための利用(第30条の4)
例えばテレビ番組の録画技術や3D映像の上映技術を新たに開発するような目的がある場合には、その限りにおいては権利者の許諾なくテレビ番組の録画や各種映像の上映等を可能にするための規定です。

②複製機器の修理・交換のための一時的複製(第47条の4)
DVDレコーダーなどを修理する際に、内蔵されているハードディスクに記録されているコンテンツを一時的に他の記録媒体にコピー(複製)する行為を、著作権者の許諾なく可能にするための規定です。

③サーバー管理者による送信の障害防止や効率化等のための複製(第47条の5)
通信事業者等がネット上の通信を行うに際して、キャッシュサーバーやバックアップサーバーといった記録媒体にコンテンツを一時的に複製しておく行為を複製権侵害としないことを明示した規定です。

④インターネット情報検索のための複製等(第47条の6)
検索エンジンサービスの提供者によるクローリング(コンテンツの複製を含みます)や検索結果の出力(送信可能化・公衆送信)について、一定のルールのもと著作権侵害とならないことを明示した規定です。

⑤電子計算機による情報解析のための複製等(第47条の7)
大量の情報をもとに統計的な解析を行うことを目的とする場合に、素材となる情報の収集について著作権者の許諾なく記録や翻案ができるという内容の規定です。

⑥電子計算機におけるキャッシュのための複製(第47条の8)
コンピュータによる情報処理の過程で、その情報処理を円滑かつ効率的に行うためにキャッシュを作成(著作物の複製)する行為について、著作権者の許諾を不要とする規定です。

⑦ネットワークに通じた情報提供準備に必要な情報処理のための複製等(第47条の9)
ネット上でコンテンツを円滑かつ効率的に発信するために、例えば複数サーバを使った分散処理などを行う場合、それらの処理のための複製等に著作権者の許諾を不要とする規定です。

 

 

■ パターン1「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」

従来の権利行使制限規定のうち①や⑤の規定を削除したうえで設けられたのが、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」に関する規定です(新第30条の4)。これは、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、著作物に表現された思想又は感情を享受されることを目的としていない場合には、その必要性が認められる限りにおいて、権利者の許諾を必要とすることなく著作権の利用を認める条項です。

 

 

■ パターン2「電子計算機における著作物の利用に付随する利用等」

従来の権利行使制限規定のうち②③⑥⑦の規定を削除したうえで設けられたのが、「電子計算機における著作物の利用に付随する利用等」に関する規定です(新第47条の4)。これは、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、著作物のコンピュータにおける利用を円滑又は効率的に行うことを目的とする場合に、その利用の付随利用として必要性が認められる限りにおいて、権利者の許諾を必要とすることなく著作権の利用を認める条項です。

 

 

■ パターン3「新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等」

従来の規定のうち④の規定を削除したうえで設けられたのが、「新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等」に関する規定です(新第47条の5)。これは、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、コンピュータを用いた情報処理を行う者が、必要性が認められる限りにおいて情報処理の結果を提供するに際して、著作物の軽微な利用を行うことができることを定めた条項です。

 

 

著作物・著作権をめぐるルール改正の解説

文化庁「著作権法の一部を改正する法律案 概要説明資料」より

 

 

■ 後編に向けて

前編では、改正法が誕生するに至った経緯と、そのコアとなる条項の概要について解説しました。後編では、改正法のより具体的な内容についてご説明するとともに、著作権をめぐる世界的なルールの変遷についてのご紹介をしようと思います。

 

<後編へ続く>

 

 

 

(※1)知的財産戦略本部「知的財産推進計画2016」2016.05

(※2)使用目的や著作物の性質、使用される分量や該当する著作物の潜在的な市場規模などが考慮されます

(※3)https://www.copyright.gov/title17/title17.pdf
(訳文につきhttp://www.cric.or.jp/db/world/america/america_c1a.html#107

(※4)文化庁文化審議会著作権分科会「文化審議会著作権分科会報告書」38頁、2017.04

 

 

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