Sports Tech(スポーツテック)~データアナリティクスにおける法的問題~(後編)

Sports Tech(スポーツテック)~データアナリティクスにおける法的問題~(後編)

弁護士 本間 由美子

弁護士 神田 詠守

 

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■ データアナリティクスにおける法的問題

前編では、スポーツにおけるデータアナリティクスについて、その有用性や現状について紹介させていただきました。では、データアナリティクスにおいては、どのような法的問題があるのでしょうか?例えば、収集・分析したデータが流出したり、勝手に誰かに使われたりした場合、どのような保護が受けられるのでしょうか?データの収集や分析は、自由におこなってよいのでしょうか?後編では、法的な観点から見ていきたいと思います。

 

1.「データ」は法的に保護されるのか?

(1)法的性質

そもそも、「データ」とは法的にはどのような性質なのでしょうか?この点、一般的には、データは実体を観念することができない無体物にすぎず、民法上、所有権や占有権等の対象にはならないと考えられています(民法第206条、同法第85条参照)。そのため、このような民法上の所有権や占有権等の概念では法的保護は受けられないのが原則です。つまり、民法上、データそのものは、他人に奪われたり、不正に転用されたりしたとしても、自分の「物」のように、返せなどとは言えないということです。
もっとも、以下のように他の法律上一定の保護を受けられる場合があります。

 

(2)知的財産権等としての保護

 ア 著作権

著作権の保護対象となる「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定義されています。そのため、試合会場のトラッキングシステムや選手に取り付けられたウェアラブルセンサーなどから得られるデータについては、あくまでも機械的に収集されたものにすぎず、それらのデータ自体に創作性を認めるのは困難と考えられています。先程の定義の一部にでも当てはまらないと著作権は認められませんので、創作性が認められないというのは、つまり著作権が認められないということを意味します。もっとも、著作権法上、「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」は著作物として保護されます(著作権法第12条の2第1項)。この点、判例(※1)では、限定的な場合に創作性を認めており、データの選択を行わずに、体系的な構成の工夫もなく単にデータが羅列されただけのようなデータベースの検索システムでは、創作性は認められないとされています。NBAのホームページ(※2)に公開されているような各選手や、チーム等のデータベースに関しては、独自の視点に基づくデータの選択や体系的な構成が行われているため、創作性が認められる可能性が高く、データベースの著作物として著作権が認められる可能性が高いといえるでしょう。

 

データベースの著作物として認められると、著作権者に複製権や著作者人格権等著作権法上の権利が認められる他、侵害行為に対して、侵害の停止又は予防等の請求(著作権法第112条第1項)や損害賠償請求(民法第709条)等が可能となる場合があります。

 

 イ 特許権

特許権の対象となる「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)をいい、トラッキングシステム等の収集方法やデータの分析方法自体が「発明」と認められる可能性はあります。しかし、例えば、データが「プログラム等」(特許法第2条第4項)に該当するような場合を除き、データ自体に特許性が認められるのは、限定的であるといえます。

 

特許権が認められると(※3)、その発明を業として独占的に実施する権利が認められる他、侵害行為に対して、侵害の停止又は予防等の請求(特許法第100条第1項)や損害賠償請求(民法第709条)等が可能となる場合があります。

 

(3)不正競争防止法による保護

①秘密管理性、②有用性、③非公知性という3要件を満たす場合、データ自体も不正競争防止法上の「営業秘密」(同法第2条第6項)として、同法の保護対象となりえますが、試合中のデータについては公開されているものが多く、③の要件を満たさない場合が多いと考えられます。もっとも、それらのデータをチーム内部での活用のために分析・加工したものや、分析のノウハウ自体は、上記3要件を満たし、同法の保護対象となる可能性があります。

 

不正競争防止法上の「営業秘密」に該当すれば、営業秘密に係る不正取得・使用・開示等の不正行為(同法第2条第1項第4号ないし9号)に対して、侵害差止請求(同法第3条)、 損害賠償請求(同法第4条)や信用回復措置請求(同法14条)が可能となる場合があります。
なお、本年5月23日には不正競争防止法の一部改正がなされ、IDやパスワード等の管理を施した上で提供されるデータの不正取得等に対する民事措置が創設され、暗号等のプロテクト技術の効果を妨げる行為に対する規制が強化されることとなりました。改正法は、(一部の規定を除いて)5月23日から1年6か月を超えない範囲内の政令で定める日に施行されることになっています。

 

(4)不法行為(民法第709条)、不正アクセス禁止法による保護

判例(※4)によると、一定の投資と労力を投じて収集・分析・加工されたデータをデッドコピーするような行為は、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業上の利益を侵害する行為とはいえ、民法第709条の不法行為が成立しうるとされています。
もっとも、データベースの著作物ではないデータベースをデッドコピーしたとしても、原則的には民法第709条による不法行為が成立しないという趣旨の判断をした判例もありますので(※5)、不法行為の成否については、デッドコピーの対象が著作物に該当するのかどうかが重要であるといえます。

 

また、第三者が不正ログインやいわゆるサイバー攻撃をすることによって、データを取得した場合、当該不正アクセス行為は刑事罰の対象となります(不正アクセス禁止法第2条第4項各号、同法第3条、同法11条)。

 

(5)契約による保護

このように、各法律に基づくデータの法的保護は、可能性としてはありえますが、限定的であるといわざるを得ません。そのため、実務上は、当事者間の契約によって法的保護をはかるのが一般的であるといえます。具体的には、契約において、秘密保持義務やデータの利用権限等の権利関係等について定めておく例が多いです。もっとも、「契約」ですので、契約当事者以外の第三者には権利主張ができないという問題点は残ってしまいます。

 

 

2.個人情報保護法の問題

スポーツにおけるデータアナリティクスにおいては、選手の身長などの身体データや、出身学校等のプロフィール、また試合中における選手の心拍数などの精神状態を表すデータまでも収集することがあります。これらのデータは、個人情報保護法との関係でどのように扱われるのか、見ていきましょう。

 

(1)個人情報とは

まず、「個人情報」とは、生存する個人に関する情報のうち、①特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それによって特定の個人を識別することができるものを含む)又は②個人識別符号が含まれるものをいいます(個人情報保護法第2条第1項)。そして、個人情報をデータベース化したり、検索可能にしたものを「個人情報データベース等」(同法第22条2項)といい、個人情報データベース等を構成する情報を「個人データ」(同法第2条第6項)といいます。

 

(2)データアナリティクスにおける選手情報の取扱い

データアナリティクスにおける選手たちの氏名、身体データや生年月日、出身校などの情報は、ほとんどの場合において個人情報や個人データに該当し、その取扱いは個人情報保護法の規制に服することになります。①取得・利用に関するルール、②安全管理措置、③第三者提供に関するルール、④開示請求への対応を行う必要があるのです。
具体的には、例えば、個人情報を取得する場合には、利用目的をできる限り特定して、あらかじめ公表するか選手本人に通知することが必要となります(同法第18条第1項)。また、取得した個人データについては、漏えい等が生じないよう、安全に管理をするほか、その取扱いの委託をする場合にも業者・委託先の安全管理を徹底する必要があり(同法第20条)、個人データを第三者に提供する際には、原則として、あらかじめ当該個人情報の本人の同意を得ることが必要とされています(同法第23条第1項)。
もっとも、第三者提供については、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止する場合には、本人の同意を得ることなく第三者に個人データを提供することができる「オプトアウト」という制度が認められています(同法第23条第2項)(※6)。更に、「匿名加工情報」として元は個人情報であった情報について本人の同意なく第三者提供する方法も認められました。この点については、後ほどもう少し詳しくお話しします。

 

スポーツ業界においては、予めチームや競技団体が選手たち本人から個人情報の取扱いに関する同意を取得し、チームや競技団体がデータアナリストとの契約を取りまとめる例も多いようですが、データアナリストと選手個々人が個人情報の取扱いに関する取り決めをする例も多く見られます。また、オリンピック・パラリンピックなどの日本代表選手、強化選手たちの情報については、JOC(公益財団法人日本オリンピック委員会)など国の機関が選手たちの提出する誓約書をもとにとりまとめ、厳格なセキュリティレベルの施設において管理することとされているものも存在します。

 

(3)要配慮個人情報について

また、スポーツ・データアナリティクスで取り扱うデータの中には、選手たちの病歴に関わる情報や、健康診断等の結果、人種に関する情報、身体障害、知的障害があることに関する情報などの要配慮個人情報(同法第2条第3項、個人情報の保護に関する法律施行令第2条各号)が含まれることもあります。
要配慮個人情報を取得するには、原則として本人の同意が必要となります(同法第17条第2項)。また、要配慮個人情報を第三者に提供するに当たっては、限られた例外事由(※7)に該当する場合のほかは、必ずあらかじめ本人の同意を得る必要があります。オプトアウト方式での第三者提供は認められていませんので注意が必要です(同法第23条第2項)。

 

(4)統計情報、匿名加工情報の活用

このように、データアナリティクスで用いる情報が個人情報、個人データ、更には要配慮個人情報に該当した場合には様々な規制がありますが、取り扱うデータの性質が、複数人の情報から共通要素に係る項目を抽出して集計して得られるデータで、個人との関係が排斥されている「統計情報」の場合には、個人情報保護法の規制対象外となります(※8)。
例えば、全ての選手に関する身体データの平均値や出身校別のスタッツなどがこれに該当します。

 

また、個人データについて特定の個人を識別できないように加工し、元の個人情報の復元ができないようにした「匿名加工情報」については、本人の同意がなくとも第三者提供ができることとされています。匿名加工情報となれば、本人の同意を問題とすることなくデータアナリティストその他の他者にデータを流通させることができるため、スポーツ市場においても様々な活用が期待されています。
ただし、「匿名加工情報」と認められるためには、元の個人情報に対し、個人情報保護委員会規則で定める以上の基準に従った再識別・復元不能な加工を施さなければなりません。また、匿名加工情報を作成した場合、作成者は当該匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目を公表しなければならないなど、まずは匿名加工情報を作成すること自体にハードルがあるといわれています。
そして、匿名加工情報作成者、匿名加工情報取扱事業者は、匿名加工情報の作成に用いられた個人情報の本人を識別するような行為が禁止されています。
スポーツにおけるデータアナリティクスについても、データに一定の加工を施してデータを分析していくことになりますが、その多くは、一人ひとりの選手や選手の所属するチーム、あるいは相手方選手等のパフォーマンスを測定し、当該選手個人やチームに資するために用いるものですので、特定の個人を識別できないほどに加工をしたり、選手たちにフィードバックができないようなかたちで分析をしたりするケースは例外的といえるかもしれません。
もっとも、スポーツにおけるデータアナリティクスは、分析対象者たちへの直接的なフィードバックだけではなく、観客動員数の予測や集客施策の提案、分析対象者本人以外の選手の育成・練習方法の検討、更にはスポーツ業界全体の発展といった幅広い目的でも活用されています。これら個人情報の本人との結びつきが必ずしも必要のない分野においては、やはり匿名加工情報の有用性は高く、今後活用が広がっていくことが見込まれています。

 

(5)個人情報保護法違反の場合の効果

個人情報取扱事業者は、法の定める義務に違反し、この件に関する個人情報保護委員会の改善命令にも違反した場合、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の刑事罰が課せられます(同法第84条)。加えて、平成29年5月から全面施行された改正個人情報保護法では、従業員等が不正な利益を図る目的で個人情報データベース等を提供・盗用することに対する罰則規定が新設されました(同法第83条)。違反の場合には、一年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課されることとされています(当該従業員等と法人の両罰規定です)。 また、個人情報が漏えいしてしまった場合や不正に取得又は利用した場合、当該個人情報の本人から、漏えいによる被害や、不正使用の事実等による損害賠償民事訴訟のリスクが発生します。更には、これらの事実によるレピュテーションの低下等も起こり得ます。

 

 

■ おわりに

これまで見てきましたように、データ自体の法的保護については、既存の各法律では不十分と言わざるをえませんので、契約においてしっかりと定めておくことが重要となります。 また、データアナリティクスにおいて収集・分析するデータが個人情報・個人データや要配慮個人情報に該当する場合には、個人情報保護法に従った運用が必要になるので、注意が必要です。
また、ここでは記載しませんでしたが、データアナリティクスにおいても近年人工知能の活用事例が増えてきており、そこでは人工知能特有の法的問題が存在します。また、国外のデータアナリティストに選手データの分析を依頼したり、国外選手の選手情報を分析したりする場合には、個人情報の越境移転、そしてGDPRや各国法規への対応が必要になってきます。

 

データアナリティクスをめぐっては、留意すべき法的課題も多く存在しますが、これらの点に配慮しつつ、データアナリティクスにより、スポーツのさらなる発展が期待されます。

 

以上

 

 

 

(※1)東京地裁平成12年3月17日判決・判例時報1714号128頁(タウンページデータベース事件)
(※2)http://www.nba.com/?17#/ NBA公式サイト
(※3)特許権が認められるには、本文で記載したような法律上の要件を満たすほか、特許庁への出願、審査請求を行い、特許査定を受けて設定登録、特許料納付をするといった一定の手続きが必要になります。
(※4)東京地裁平成13年5月25日中間判決・判例時報1774号132頁(翼システム事件)
(※5)最高裁第一小法廷平成23年12月8日判決・判例時報2142号79頁(北朝鮮映画事件)では、「ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判示されています。
(※6)オプトアウトにより個人データを第三者に提供する場合には、所定の事項を個人情報保護委員会に届け出なければなりません。
(※7)個人情報保護法第 23 条第 1 項各号、同条第 5 項各号
(※8)個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(匿名加工情報編)」4~5頁