Sports Tech(スポーツテック)~データアナリティクスにおける法的問題~(前編)

Sports Tech(スポーツテック)~データアナリティクスにおける法的問題~(前編)

弁護士 本間 由美子

弁護士 神田 詠守

 

■ はじめに


1.Sports Tech(スポーツテック)とは

皆さんは「Sports Tech」という言葉をご存知でしょうか?
「Sports Tech」とは、スポーツ×ITにより生み出された新たなテクノロジーのことをいいます。スポーツ分野に先端技術を活用し、アスリートやコーチ、チームといったプレイヤー支援の側面では科学的データや知見を入手できる新たな育成強化環境を用意し、ビジネス分野では、スポーツの新たな付加価値を創造し、これまでなかった、あるいはこれまでとは視点を変えたスポーツビジネスの開拓を支えています。近年、AIやビッグデータ解析、カメラ、センサー等の技術の発展に伴い、スポーツの領域においてもこれらの技術が積極的に活かされています。
日本においては、2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピック、2021年に関西ワールドマスターズゲームズなど国際的なスポーツイベント開催を控えており、また、超高齢化社会に備えた健康増進産業拡大の必要も叫ばれています。
Sports Techは、非常に注目を集めている分野です。

 

スポーツ先進国のアメリカでは、このようなテクノロジーを積極的に導入し、それらの導入も相まって、今や同国におけるスポーツ市場の規模は約50兆円程度(※1)に達しているといわれています。
日本においては他のスポーツ先進国よりも取り組みがだいぶ遅れているといわれているものの、政府が打ち出した「日本再興戦略2016」においては、スポーツビジネスを、環境・エネルギー、IoT/人工知能と並んで、政府による日本再興戦略の柱の1つとしています。「日本再興戦略2016」や経済産業省とスポーツ庁が2016年6月に公表した「スポーツ未来開拓会議中間報告」(※2)では、スポーツ市場規模を2012年時点の約5.5兆円から、2020 年で10.9兆円、2025 年で15.2 兆円の市場規模への拡大を目指すこととされるなど、スポーツビジネスは我が国が国力をあげて強化に取り組んでいる市場であり、日本においても成長余地が大きい市場といえるでしょう。

 

2.Sports Tech 事例紹介

このようなスポーツ市場の高まりに伴い、近年、Sports Techは様々な分野で登場しています。国内外のスタートアップ企業、ベンチャー企業の活躍や大企業とベンチャーとの協業も目立つ分野です。ここでは、いくつかの事例をご紹介します。

 

近年、アメリカを中心に「スマートスタジアム」と呼ばれる取組みが注目を浴びています。
これは、スタジアムにWi-FiやBluetoothなどの通信環境を備え、これらを活用した様々なサービスを観客に提供するものです。観客は、観戦中に試合の映像やチーム・選手の情報の配信などを閲覧できます。また、座席案内や自席へのフードデリバリー手配、トイレの混雑情報なども受け取ることができ、来場者が快適に過ごせるようになっています。スマートスタジアムには、この他にも日本電信電話株式会社(NTT)が開発した「Kirari!(キラリ)」という、「情報の収集・加工」「リアルタイム同期伝送」「演出・再現」(※3)技術が注目されています。スタジアム内選手らの映像・音声のみならず、選手らの置かれた空間や環境の情報を伝送し、伝送先においてプロジェクションマッピング技術で、音とともに3D再現する技術です。この技術により会場を包む臨場感をプロジェクションマッピングで再現し、スタジアムにいない観客からも多方向から多人数での観戦を可能とするもので、スタジアムに実際に足を運ぶことができる観客にとどまらず、世界中へのコンテンツ発信が期待されています。
日本においても、NACK5スタジアム大宮など徐々にスマートスタジアムの取組みが増えてきており、これからの発展が大いに見込まれます。

 

また、VRやARなどを使って高臨場感の観戦体験・実戦練習ができるサービスが登場しています。平昌オリンピック・パラリンピックでVRショーケースや5G通信が導入され、注目されたように、VRやARを活用した新しいスポーツ観戦のスタイルが生み出され始めており、その動きは日本でも始まっています。
例えば、「自由視点映像」の取り組みがその一つです。自由視点映像とは、試合会場を取り囲むように配置した複数のカメラを同期して撮影し、そこから高精度の3D空間データを構築したものです。視聴者はその3D空間内でVRカメラを動かすことで、試合会場内を自由に飛び回ったり、選手と同じ目線に立ったり様々な視点から好みの角度で試合の3次元映像を見られるようになり、あたかもその場にいるかのような疑似体験ができるというものです。この技術は、観戦だけでなく、選手強化への活用も期待されています。
また、株式会社NTTドコモはJリーグとトップパートナー契約を結び、同社のAR/VRを使ったサービス開発を進め、全国約2400店のドコモショップとJリーグが連携したサービス提供に向け協力するとしました。これによって、例えば、ARグラスを用いることで、選手の心拍数や走行距離などのデータをリアルタイムに表示しながら観戦できたり、スタジアムにいなくとも、VRで臨場感あふれる映像を視聴できたりするようになります。
この他にも、株式会社meleapが提供する「HADO」やいわゆるeスポーツのように、AR等を利用した新たなスポーツ自体も生まれています。

 

さらに、レーダー・カメラ・ウェアラブルセンサー等により選手の身体能力のデータや試合中のデータ等、様々なデータを収集・分析し、選手個人やチームのパフォーマンスの最大化を図る「データアナリティクス」と呼ばれる取組みがあります。

 

本稿では、数あるSports Techの中でも、この「データアナリティクス」について取り扱いたいと思います。

 

 

■ スポーツにおけるデータアナリティクス


1.試合データの活用

上記で簡単にご紹介させていただいた「データアナリティクス」ですが、アメリカの四大スポーツ(NBA、MBL、NFL、NHL)を皮切りに目覚ましく進歩しています。
例えば、バスケットボールの世界最高峰リーグと言われるNBAでは、選手やボールの動きをすべてキャプチャできるよう、各試合会場の天井に6台のカメラを設置し、各選手の一試合あたりに走った距離、シュートの種類・ポジションごとの成功確率、出場時間中の失点数など様々な数字がデータ化され統計化されています。またMLB(メジャーリーグ)では、「Statcast」と呼ばれる軍事用レーダーを応用したトラッキングシステムが全ての本拠地球場に整備されています。
同システムはバックネット後方に1台設置され、毎秒4万8000個のデータが取得可能で、盗塁の際の走者のスピードや歩数、投球の速度や回転数、変化量、さらに打球の速度や打ち出し角度、ホームランの推定飛距離などを算出しています。

 

これらのデータを用いることにより、今まで感覚値で捉えられていた各選手の強みや弱みが可視化され、選手の適正な評価や効果的な練習方法に繋がり、また、チームマネジメントにも活用できます。今や上記四大スポーツのほとんどのチームには、1名以上のデータアナリストがいると言われています。

 

プロスポーツにおけるデータアナリティクスの重要性を再確認させた事例として、MLBのオークランド・アスレチックスでの導入例があります。「マネー・ボール」という映画でご存知の方は多いと思いますが、当時低迷していたチームを、今でいうデータアナリティクスを用いて強豪チームにしたという功績は、今でも語り継がれています。

 

2.その他データの活用

上記で述べた試合データの活用のほか、各選手の身長・体重など日々の健康診断の結果や、怪我の状態・病歴・服用薬、精神状態などの情報までもデータ化し、試合に向けて最適なパフォーマンスが出来るように、食事や練習時間・練習方法を変更していくというような試みも行われています。
例えば、2015年のラグビーワールドカップ(RWC)において、直近24年間RWCで勝ち星のなかった日本代表が、過去2回の優勝を誇る当時世界ランキング3位の南アフリカに歴史的な勝利をしたことが大きく報じられましたが、その勝利の背景には、株式会社ユーフォリアが提供する選手達の健康状態を一括管理するアプリ「ONE TAP SPORTS」をいち早く導入したことがあったといわれています。

 

3.日本におけるデータアナリティクス

このように、日本においてもデータアナリティクスの有用性が注目され始め、2014年から「Sports Analytics Japan」というカンファレンスが開催されています。このカンファレンスは、スポーツ産業関係者やIT企業・スポーツベンチャーが融合する場を設定することで、新しい価値や新たなビジネスが創出され、新たなスポーツ市場が生まれる土壌となっています。

 

また、一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(JSAA)という団体も2014年に立ち上がっています。同協会は、「競技の枠組みを超えた“スポーツアナリスト”の連携強化及び促進する団体として、“スポーツアナリスト”の有する職能を理解し、育むことで、アスリート支援環境を発展させ、スポーツの社会的価値向上に寄与」(※4)することを目的とし、日本におけるスポーツアナリストの育成等に貢献しています。

 

もちろん、プロスポーツだけではなく、アマチュアスポーツにおいても、これらのデータアナリティクスを活用する機会は十分にあります。
例えば、株式会社SPLYZAの提供する「SPLYZA Teams」はアマチュア向けのデータアナリティクスを可能とするアプリで、すでに高校の部活動などでも導入例が報告されています。

 

 

■ おわりに


以上のように、スポーツにおけるデータアナリティクスの活用は、日本国内においても確実に浸透しつつあります。今後の発展が大いに期待されていますが、実は、データアナリティクスには法的な問題も内在しています。
次回後編では、これらのデータアナリティクスについて、法的な視点からおはなしします。

 

<後編へ続く>

 

 

(※1)

2018年3月「米国スポーツ市場・産業動向調査」日本貿易振興機構(ジェトロ)サービス産業部

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/36336636325a9892/201803usrp.pdf

(※2)

平成 28 年 6 月 「スポーツ未来開拓会議中間報告」スポーツ庁 経済産業省

http://www.meti.go.jp/press/2016/06/20160614004/20160614004-1.pdf#search=%27%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E9%96%8B%E6%8B%93%E4%BC%9A%E8%AD%B0%E4%B8%AD%E9%96%93%E5%A0%B1%E5%91%8A%27

(※3)

http://www.ntt.co.jp/activity/jp/innovation/kirari/
http://www.ntt.co.jp/news2015/1502/150218b.html

(※4)

一般社団法人日本スポーツアナリスト協会 ホームページ

http://jsaa.org/about