タイの労働法制と実務 vol.12 雇用契約と委託契約の区別について

タイの労働法制と実務 vol.12 雇用契約と委託契約の区別について

今回は、雇用契約と委託契約の区別について解説します。個人に仕事を頼んだ場合に、それが雇用契約と評価されるのか委託契約と評価されるのかは、当事者が負う義務の内容に大きな違いを生みます。そのため、両者をきちんと区別できるようになっておくことが大切です。

また、今回は派遣労働や下請がある場合についても合わせて解説します。

 

【目次】

雇用契約と委託契約の差異

日本における雇用契約か委託契約かの判断方法

タイでの雇用契約か委託契約かの判断方法

まとめ

雇用契約と委託契約の差異

まず、日本では、会社と個人の間の契約が雇用契約である場合、労働基準法や労働契約法等の労働に関係する法令が適用されることになります。そのため、例えば、1日あたり原則8時間という労働時間規制が及んだり、これを超えて働いた場合には残業代の支払義務が生じたり、契約を打ち切る場合には解雇に関する規制が及んだりするなど、様々な効果が生じます。

他方、会社と個人の間の契約が委託契約や請負契約(以下まとめて「委託契約」と言います。)である場合、このような労働関連の法令は適用されず、上記のようなルールも適用されません。

 

タイでも、会社と個人の間の契約が雇用契約と委託契約のどちらであるかによって、日本と同様に労働関係法令が適用されるかどうかが決まります。つまり、契約が雇用契約である場合には、労働者保護法(Labor Protection Act。以下「LPA」といいます。)を始めとする労働関連の法令が適用されることとなり、例えば1日あたり原則8時間という労働時間規制、残業代の支払義務、解雇補償金の支払義務その他解雇に関する規制などが生じます。他方、委託契約である場合には、これら労働関連法令上のルールは適用されません。

日本における雇用契約か委託契約かの判断方法

日本では、雇用契約と委託契約の区別につき、「労働者性」の有無によって判断されます。つまり、契約によって生じる会社や個人の権利義務を踏まえて、個人が「労働者」とみられる場合には、その契約は雇用契約であると判断されます。これは、契約の題名が「雇用契約」となっているか「委託契約」となっているか、あるいはそれ以外になっているかといった形式とは関係ありません。たとえ契約の題名が「雇用契約」以外であっても、個人が労働者であるとみられる場合には、雇用契約であると判断されるのです。

 

そのため、日本では「労働者性」の有無の判断が極めて重要な意味を持つこととなります。

そして、これは次のような事情を総合的に考慮して、当事者間に「使用従属関係」、つまり会社と個人の間に対等性がなく、個人が会社に従属して労務を提供しているという関係がある場合には、労働者性が認められることとなります。

主要素

① 仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

② 業務遂行上の指揮監督の有無

③ 勤務場所・勤務時間の拘束性の有無

④ 業務内容の代替可能性の有無

⑤ 報酬の労務対償性

補充要素

⑥ 事業者性の有無 (機材や備品の負担者、報酬額等)

⑦ 専属性の程度

⑧ その他

例えば、①について、個人が会社からの仕事の依頼を断ることができない関係にあるならば、労働者性が肯定される方向に傾きます。

②について、個人が業務遂行方法などについて会社の指揮監督に従わなければならない程度が高ければ、労働者性が肯定される方向に傾きます。

③について、個人が勤務すべき場所や時間が会社から指定されている場合には、労働者性が肯定される方向に傾きます。

④について、個人が自己の判断で他者を自分の代わりに業務に従事させることができない場合には、労働者性が肯定される方向に傾きます。

⑤について、個人に支払われる報酬額が、労務の結果による影響によりほとんど左右されず、欠勤により相当額が控除されるなど、一定時間労務を提供していることへの対価とみられる場合には、労働者性が肯定される方向に傾きます。

 

これら①〜⑤が主として考慮される要素ですが、例えば①〜⑤だけで判断することが困難な場合など、⑥以下の要素が補充的に考慮される場合があります。

 

⑥について、個人が所有する機材や備品を使って労務提供している場合や、報酬額が一般の従業員よりも高額である場合には、労働者性が否定される方向に傾きます。

⑦について、個人が他社の業務に従事することが制度上又は事実上困難であり、会社の業務に専属的に従事している場合には、労働者性が肯定される方向に傾きます。

⑧については、採用過程、給与所得としての源泉徴収の有無、労働保険への加入の有無、服務規律・退職金制度・福利厚生制度などの適用の有無などがあります。

 

以上のように、日本では上記のような要素を総合的に考慮して、個人が会社に従属して労務を提供している場合には、労働者に当たると判断されています。

タイでの雇用契約か委託契約かの判断方法

では、タイにおいて雇用契約と委託契約の区別は、どのように判断されているのでしょうか。

この点、例えば、タイでは次のような判例があります。

 

【判例1】

理容店にて、原告が美容師としての業務に従事していた事案です。

裁判所は、原告が作業に従事する日や時間を調整でき、休日も理容店に連絡すれば自由に取得できたこと、自ら必要な道具等を準備していたこと、売上げの40%を報酬とする旨の取り決めがされていたこと等の事情を考慮して、雇用契約ではないと判断しました。

 

【判例2】

レストランにて、原告が歌手として午後10時から午後11時までの1時間出演していた事案です。

裁判所は、原告がタイムカードを記録する必要がなかったこと、出演できない日には他の歌手にレストランに行ってもらい自分の代わりに歌ってもらうことができたこと等の事情を考慮して、レストランの管理下に置かれていたわけではないとして、雇用契約ではないと判断しました。

 

【判例3】

原告が、工事現場での杭打ち作業に従事していた事案です。

裁判所は、原告の報酬が完了した杭打ちの本数に応じて決定していたこと、原告が他者の指示に従う必要なかったこと等の事情を考慮して、雇用契約ではないと判断しました。

 

以上の判例で考慮されている要素を整理すると、次のとおりとなります。

① 勤務時間の拘束性の有無

② 業務遂行上の指揮監督の有無

③ 業務内容の代替可能性の有無

④ 報酬の労務対償性

⑤ 事業者性の有無

つまり、タイでは日本と類似した視点や考慮要素のもと、雇用契約か委託契約かを判断していると見ることができます。

したがって、雇用契約か委託契約かという問題については、タイでも日本と同様の基準に基づいて検討、判断してよいと考えます。また、その検討や判断の際には前述の日本における判断方法や考慮要素が役立つでしょう。

まとめ

以上、今回は、タイにおける雇用契約と委託契約の区別に関する注意点について概観しました。

日本では、しばしば実質的には雇用契約というべきものが委託契約という名目で締結され、後々紛争化するケースが見られますが、同様の紛争はタイでも起こる可能性があります。例えば、いざ契約を終了させようと思っても解雇規制によって契約を終了させられず、仮に契約を終了できても解雇補償金の支払等が必要になるといった事態が想定されます。

したがって、自社の業務に従事してもらうために個人との間で契約を締結する場合には、勤務の方法、場所、時間などの実質を踏まえて、雇用契約とするか委託契約とするかを適切に判断することが大切です。

 

 

タイのサービス詳細はこちら