タイの労働法制と実務 vol.11 就業規則に関するルールと実務

タイの労働法制と実務 vol.11 就業規則に関するルールと実務

今回は、タイにおける就業規則の取扱いについて解説します。 就業規則の作成が義務付けられる場合や定めるべき事項、就業規則の効力、就業規則の変更を行う場合に必要とされる手続について整理し、就業規則の作成や変更の際に注意すべき事項をお伝えします。

 

【目次】

就業規則とは?

就業規則で定めるべき事項

従業員20名以上の場合の労働条件協約

就業規則を変更するには?

就業規則と最低基準効

まとめ

就業規則とは?

タイにおける就業規則も、日本における就業規則と同じように、従業員の勤務条件についてまとめた規則類を意味します。

タイでは、10人以上の従業員を雇用する場合、就業規則の作成が義務付けられます。具体的には、従業員が10人以上となった日から15日以内に、タイ語で、就業規則を作成しなければなりません(労働者保護法(以下「LPA」といいます。)108条1項、2項)。

もっとも、従業員が10人未満であっても、労働条件を統一化して公平で効率的な事業運営を図るといった目的から、就業規則を作成している企業も多くみられます。

就業規則で定めるべき事項

日本では、労働基準法により、勤務時間や賃金など就業規則で定めるべき事項が決められています。

タイでも、次のとおり、就業規則で定めるべき事項が決められています(LPA108条1項)。

 

【就業規則の必要的記載事項】

1. 労働日、通常労働時間、休憩時間
2. 休日、休日取得のルール
3. 時間外労働、休日労働のルール
4.

賃金、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当の支払日と支払場所

5. 休暇、休暇取得のルール
6. 服務規律、懲戒
7. 苦情の申立
8. 解雇、解雇補償金、特別解雇補償金

従業員20名以上の場合の労働条件協約

事業場の従業員数が20名以上である会社は、就業規則とは別に、従業員の代表との間で労働条件に関する交渉等や合意を経て、労働日、労働時間、賃金、解雇等について定めた労働条件協約を取り交わさなければなりません。これは、LPAではなく、労働関係法という別の法令で求められているものです(労働関係法(以下「LRA」といいます。)10条1項、13条以下)。

就業規則を変更するには?

日本では、労働契約法9条の条文解釈として、従業員の個別の同意を得れば、就業規則を従業員にとって不利益に変更できるとされているほか(反対説もあります)、たとえ従業員との合意がなくとも、従業員の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性等を踏まえて変更が合理的である場合には、会社が就業規則を変更できることとされています(労働契約法10条)。では、この就業規則の変更に関して、タイの場合はどのように考えれば良いのでしょうか。

 

1. 原則

日本の場合と異なり、LPA上、就業規則の変更手続について明確に定めた規定はありません。また、変更の合理性を根拠として、従業員の同意なく変更を認める判例も見当たりません。そのため、変更の合理性だけに着目して、従業員側との交渉や同意を得ずに就業規則を変更することは控えておくべきです。

 

実務上は、全従業員から同意を得るという方法が選択されることが多いように思われます。判例上も、従業員から個別の同意を得る方法によって変更を認めたものがあります。もっとも、同意を得るという方法による場合には、真意に基づく同意であったのかといった問題が生じる可能性が残ります。したがって、変更内容について従業員に説明する機会や従業員の意見を聴く機会を十分に持ったうえで従業員から同意を得るなど、様々な配慮をしておくことをお勧めします。

また、前述のLRAに規定される労働条件協約の変更手続に従って変更することができると判示した判例もあるようです。なお、労働条件協約の変更に際しては、従業員側に変更に関する要求をまとめた通知書を交付し、従業員側と交渉して合意に至るといった所定の手続を踏まねばならないとされています(LRA13条〜18条)。

 

2. 例外

上記の例外として、就業規則を従業員にとって有利に変更する場合があります。

判例では、就業規則が従業員にとって有利に変更される場合には、上記の手続を経ずとも、就業規則の変更は有効であるとの考えに立脚したものがあります。

したがって、有利に変更する場合には、必ずしも上記の手続を経ずともよいと考えられますが(また、現実には、有利に変更されることに不満を抱く従業員もいないと思われますが)、従業員への十分な説明の機会を持ち円満な労使関係を維持するという観点からも、きちんと説明等を経て同意を得ておくのが良いでしょう。

就業規則と最低基準効

日本では、就業規則には労働条件の最低ラインを設定するという効力(最低基準効といいます。)があります。この最低基準効によって、就業規則を下回る労働条件は、たとえ従業員本人と合意していたとしても無効とされ、就業規則に定められた労働条件が適用されることになるのですが、この点についてタイではどうでしょうか。

 

まず、タイでは、「就業規則」に最低基準効を明確に認める法令は見当たりません。また、判例上も、就業規則と矛盾する内容の雇用契約書を締結することができると判断しているものがあります。もっとも、個別の従業員との間で就業規則の内容を下回る条件を合意する場合、その合意が真意に基づきなされたのかといった問題が生じ得ることから、実務上は、基本的に就業規則に定めた条件が最低基準になると理解しておくことが推奨されます。

 

一方、「労働条件協約」には、法令上最低基準効が認められています(LRA19条、20条)。そのため、会社に労働条件協約が存在するときには、従業員との間で、労働条件協約を下回る勤務条件によることを合意することはできないのです。例えば、従業員との間で個別に取り交わした雇用契約で、労働条件協約よりも低い賃金額や長い労働時間を定めていたとしても、その定めは無効とされ、労働条件協約の定める賃金額等が適用されます。

 

したがって、事業場の従業員数が20名以上の場合は、労働条件協約が従業員の勤務条件の最低ラインとされることを十分に理解しておく必要があります。

まとめ

以上、タイにおける就業規則の効力や変更手続について概観しました。

簡単に整理しておくと、タイでも、日本と同じように一定の人数以上の従業員を雇用する場合には、就業規則ないし労働条件協約を作成する必要がありますので、企業側において適切に準備する必要があります。また、就業規則の変更については、日本と異なり、変更が合理的であれば変更できるというわけではないことに注意すべきでしょう。そのため、就業規則を作成する際には、後々、できる限り不利益に変更する必要に迫られぬよう、慎重に作成する必要があります。また、就業規則を従業員にとって不利益に変更する場合には、従業員の納得を得られるよう十分な配慮をする必要があります。

 

 

タイのサービス詳細はこちら