タイの労働法制と実務 vol.8 有期雇用の基本と活用上の留意点

タイの労働法制と実務 vol.8 有期雇用の基本と活用上の留意点

今回は、タイの有期雇用に関するルールについて解説します。試用期間の適用の可否や無期雇用契約と判断されるリスク、契約終了時の手続きなど、タイにおける有期雇用特有の問題について、日本の法制度との違いを踏まえて解説します。

 

【目次】

有期雇用とは

試用期間を用いることの可否

無期雇用契約と評価されるリスク

有期雇用と就業規則

期間満了により契約が終了する場合の事前通知の要否

解雇補償金の要否

有期雇用に関する実務上の留意点

有期雇用とは

タイの労働法上、有期契約に関する定義規定はありません。しかしながら、日本と同様、期間の定めのある雇用契約を指すものと理解されています。

日本では、有期雇用労働者を保護する様々な法令・施策がありますが、タイでも、有期雇用契約に関する特別な規定が存在します。

試用期間を用いることの可否

第一に、注意する必要があるのは、契約上雇用期間を定めて有期雇用としていたとしても、試用期間を定めていると、無期雇用とみなされてしまうという点です(LPA17条2項後段)。いくら契約書の中できちんと契約期間を明示していたとしても、試用期間の定めがあると、無期雇用労働者として扱わなければならず、予定していた契約期間が終了したからといって辞めさせることができなくなるのです。そのため、有期雇用として労働者を雇う場合、試用期間を設けることはできません。

 

そこで、有期雇用と試用期間を両立させたいと考える場合には、まず、短期間の有期雇用契約を締結し、その期間中の勤務成績や勤務態度を踏まえて、さらに有期契約を更新するかどうかを判断するという方法が考えられます。もっとも、後に述べるように、更新を前提とした有期雇用契約とすることはできないため、採用時に雇用条件として更新を前提としない短期の有期雇用を提示する場合、正社員雇用を求める求職者側のニーズに合致せず、優秀な従業員の採用が難しくなる可能性があるというデメリットがある点は日本と同様です。

無期雇用契約と評価されるリスク

日本では、有期雇用契約の更新が繰り返されている場合や、たとえ実際に更新が繰り返されていなくても、更新を前提としているなど労働者側に有期雇用が継続するだろうという合理的な期待があった場合には、たとえ有期雇用契約という形式を取っていても、無期契約とみなされるおそれがあります。

この点はタイでも同様であり、たとえ有期雇用契約という形式を取っていても、契約更新が予定されていると評価される場合には、実質的に無期雇用と同様であるとみなされるおそれがあります。

そのため、契約の更新が予定されているかのような言動は慎むとともに、実際に契約の更新を行う際には、更新するかどうかの検討をきちんと行って記録化する、面談や契約書の取り交わしといった更新の手続を適切に行うといった点に注意を払い、実質的にも、記録上でも、更新が予定されていたわけではないことを示せるようにしておくことが大切です。また、上記のように更新に際して適正な手続きをとっていたとしても、実態として更新を繰り返しすぎていると、今後も更新が予定されていると評価されかねませんので、更新回数にも配慮が必要です。

 

なお、契約期間が満了した後も労働者が勤務を続けていた場合には、同じ条件のもと新たな雇用契約が締結されたと推定されます(民商法581条)。そのため、契約期間の満了時期を見落とすことのないよう注意が必要です。

有期雇用と就業規則

タイでは、労働者数が10人以上である場合には、就業規則をタイ語で作成しなければならないこととされています(LPA108条1項)。また、10人未満であっても、雇用条件の統一化などのため、就業規則を作成している会社が少なくありません。

しかしながら、実務上、無期雇用労働者用の就業規則と、有期雇用労働者用の就業規則を分けて作成している会社は、それほど多くないように感じます。

 

就業規則を分けていない場合、その就業規則が、原則的に無期・有期を問わず、全労働者に適用されることとなります。

そのため、例えば、就業規則の中に試用期間についての定めが設けられていた場合、その試用期間の定めが有期雇用労働者にも適用されることになりかねません。そうなると、前述のとおり、せっかく個別の労働契約の中で期間を明示していても無期契約であるとみなされるリスクが生じます。

これ以外にも、おそらく会社の就業規則内には、福利厚生の一部や定年退職など、無期契約労働者だけを対象として設けた規定が多く存在するのではないかと思います。就業規則の解釈によって、無期契約労働者のみに適用される規定であると評価される可能性もありますが、理想としては、無期雇用労働者用の就業規則と、有期雇用労働者用の就業規則を分けて作成しておくことが望ましいでしょう。また、少なくとも有期契約に関する雇用契約書の中で、「試用期間に関する就業規則上の定めは適用されない」等という合意をしておくべきであろうと考えます。

期間満了により契約が終了する場合の事前通知の要否

まず、無期雇用労働者を解雇する場合、会社は原則として、その労働者に対して事前に解雇を通知する必要があります(LPA17条2項)。または、この事前通知に代わる所定の金額を支払うことにより、事前通知なしで解雇することもできます(LPA17条3項)。

 

他方、有期雇用契約が定められていた契約期間の満了に伴って終了する場合、事前に通知する必要はありません(LPA17条1項)。期間満了に伴い、当然に契約が終了するのです。もちろん、事前通知に代わる支払をする必要もありません。

 

なお、契約期間途中で有期雇用契約を解除、つまり解雇しようとする場合、日本と同様に、無期雇用の場合よりも厳格に判断される可能性が高いので注意が必要です。例外的に有期雇用労働者の普通解雇を試みる場合には、無期雇用労働者の場合と同様、事前通知やこれに代わる支払が必要となります。ただし、LPA119条1項に基づくいわゆる懲戒解雇の場合には、やはり無期契約労働者の場合と同様、事前通知やこれに代わる支払は不要です(LPA17条4項)。

解雇補償金の要否

次に、有期雇用契約が、定められていた契約期間の満了に伴って終了する場合には、法令に従った解雇補償金の支払が必要です。この点、「解雇」補償金という言葉から、期間満了の場合には支払う必要がないと誤解されていることが少なくないのですが、英語では「Severance Pay」(退職手当)と表現されており、必ずしも解雇の場合のみに限定されていないのです。

 

もっとも、一定の条件を満たす有期雇用契約の場合には、例外的に期間満了による契約終了時に、この解雇補償金を支払う必要がありません。具体的には、以下の①~③の全てを満たす場合です(LPA118条3項、4項)。

 

【解雇補償金の支払を要しない有期雇用】

以下のいずれかに該当すること

(a) 使用者の通常の事業または取引ではない特別のプロジェクトに関する雇用であって、労働の開始と終了の時期が明瞭であるもの

(b) 臨時的性格を有する雇用で、終了時期または仕事の完成時期が確定しているもの

(c) 季節的業務であって、その季節のみの雇用
2年以下の確定した雇用期間が定められていること

使用者と労働者が雇用開始時に書面により契約していること

しかしながら、これらの条件を満たしているか否かについて、裁判所はかなり厳格に判断する傾向にあります。

例えば、契約書の中で途中解約に関する定めがある場合には、期間が確定しているとはいえないとして、解雇補償金の支払義務が認められる可能性があります。

また、予定していたプロジェクトや業務が実際には2年以内に終了せず、さらに雇用が続いた場合にも、解雇補償金の支払義務が認められる可能性があります。

加えて、この例外規定は期間満了により契約が終了することが大前提ですので、期間満了前に解雇等により終了した場合には、当然ながら解雇補償金を支払う必要があります。

したがって、これらの条件を全て満たしており、解雇補償金を支払う必要がないという有期雇用契約は、現実にはそれほど多くないと考えられます。

 

なお、LPA119条1項に基づくいわゆる懲戒解雇の場合には、無期契約労働者の場合と同様、解雇補償金を支払う必要はありません。

 

以上のとおり、「解雇」補償金という言葉に惑わされることなく、有期雇用契約の場合も、原則的には解雇補償金の支払が必要であり、一部の例外的な場合にだけ支払が不要となる、と理解しておくべきです。

有期雇用に関する実務上の留意点

以上のとおり、タイでは有期雇用をする場合、解雇の可否、解雇補償金の支払等、複数の注意すべき事項があります。実務上、本来は有期雇用労働者に解雇補償金を支払うべき場合であっても支払わないままとするケースも散見されるようですが、後々、ある有期雇用労働者と紛争になった場合、その労働者のみならず、他の有期雇用労働者からも同様の要求がされ、結果として大きな紛争となってしまうこともあり得ます。

したがって、短期的・部分的な視野ではなく、長期的・包括的な視野のもと、法令を適正に遵守した有期雇用契約に関する社内ルールの設定と運用を行うことが重要です。

 

 

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