登記懈怠のペナルティとは?

登記懈怠のペナルティとは?

執筆:司法書士 朴章文(パク チャンムン)

 

 

■はじめに

会社の法務・総務に携わった経験のある方であれば、「登記懈怠」という用語を聞いたことのある方もいらっしゃると思います。

用語の意味としては、登記を申請する必要があるのにこれを怠っている状態をいいます。

 

株式会社をはじめとする法人については、法人登記制度(法人登記簿)の信頼保護の観点から、法令上、一定の登記をすべき事由が生じた場合には、一定期間内にその登記を申請すべき義務が課されています。

一般的には、変更等の事由が生じたときから2週間以内に登記申請を行うこととされています。

(登記申請期限について、一部例外もありますが、ここでは説明を割愛します。)

 

登記申請の実効性を担保するため、このような登記申請義務に違反した場合には、「過料」というペナルティを課すことにより、会社に法人登記の申請を促し、法人登記制度の信頼を保護することとされています。

 

今回は、「過料」とはそもそも何なのか、いくら払うことになるのか、誰が支払うのか等、その概要について見ていきたいと思います。

 

 

■過料とは?

そもそも、「過料」という言葉を聞き慣れない方もいらっしゃることと思います。

 

過料とは、一定の義務違反に対して課される金銭的制裁で、行政罰の一種であるとされていますが、刑法や刑事訴訟法でいうところの刑罰には該当しません。

(刑罰である「科料」とは別のものであるため、いわゆる前科がつくというようなことはありません。)

過料を支払わなかったとしても労役場に留置される(刑法第18条)といったこともありませんが、違反者の財産に対して強制執行を受けるおそれがあります。

 

実際問題として、管轄法務局は、登記申請期限を超過した登記申請がされてはじめて登記懈怠の事実を知ることになります。

(登記申請期限を超過した場合であっても、登記申請手続きを進めること自体は可能です。)

 

次に、登記官(登記に関する事務を処理する権限を持っている法務局に勤務する法務事務官のことをいいます。)は、裁判所へ登記懈怠の事実を知らせることになっています。

 

最終的には、裁判所で登記懈怠の事実を確認の上で、会社(代表者)へ登記懈怠に基づく過料を通知することになります。

 

※過料通知がなされるまでの流れをまとめると、以下のようになります。

 

①登記申請期限を超過した登記を申請

②管轄法務局において登記懈怠があったものと判断

③管轄法務局(登記官)から裁判所へ登記懈怠があった事実を通知

④裁判所から代表取締役へ過料を通知(「過料決定」と題する文書が送付される)

 

 

■過料の支払義務は誰にあるのか?過料の金額は?

登記懈怠があった場合に過料の対象となるのは、会社ではなく、会社の代表者であるとされています。

代表者が複数存在する場合には、各代表者が登記懈怠の責任を負うのが一般的です。

なお、代表権を有しない取締役については過料の対象にならないとされています。

 

裁判所から代表者宛てに「過料決定」という表題の文書が送られて来ますが、文書の冒頭部分には「会社法違反事件」という文言が記載されているため、はじめてご覧になられる方は驚くかもしれません。

 

ところで、皆さんが気になるのは、過料の金額が一体いくらになるのかという点だと思います。

 

会社法の条文上は、「100万円以下」と定められていますが、あくまで上限の金額を定めたものであり、実際に100万円もの過料に処されることは稀であると思われます。

過料の具体的な金額については、裁判所が決定することとされています。

(一般的に、登記申請期限を超過した日数が長ければ長いほど、悪質とみなされるため、その分過料の金額も高くなると考えられています。)

 

 

■過料通知が来た場合の対応

過料通知があった場合、会社(代表者)としてはどのような対応が考えられるのか整理しておきたいと思います。

 

まず、過料決定に不服があれば、過料決定の処分を行った裁判所に対して再考を促すため、異議の申立てを行うことが認められています。

 

この異議申立ての手続きでは、当事者の意見・陳述を聴取した上で、当初の過料決定(「原決定」といいます。)が正当なものかどうかが判断されることになります。

 

原決定の処分が妥当と判断された場合や、現決定よりも軽い処分になったものの依然として不服がある場合であれば、即時抗告(原決定を行った裁判所の上級の裁判所へ不服申立てを行う手続き)を行うことが可能となります。

 

実際には、正当な理由がない限り、異議の申立てが受け入れられることは考えにくいので、過料決定に応じる形での対応になることが多いと思料します。

 

なお、過料決定に対する不服申立ての手続きに理由があると認められた場合であっても、登記懈怠の状態である以上は、すぐに登記を済ませておくのが得策であると考えます。

 

過料決定に対して不服がない場合には、速やかに過料を納付した上で、ほかにも懈怠している登記がないか確認しましょう。

また、今後同じようなペナルティを受けることがないように、社内での管理体制を含め再発防止策を講じておくことが重要です。

 

※「選任懈怠」について

 

登記懈怠と似た問題として、「選任懈怠」という問題があります。

 

こちらは、役員の任期が切れているのにもかかわらず、後任者の選任等の対応を取らないことを指し、同じく過料の対象になりますので、株主総会を開催して後任の役員を選任した上で登記を申請する必要があります。

(同じメンバーを役員として再選することはもちろん可能ですが、その場合にも役員の選任・登記手続きが必要になります。)

 

弁護士や司法書士といった専門家と普段からコミュニケーションが取れているような会社は別として、多くの会社では、知らぬ間に役員の任期が切れてしまい、その事実を見落としている場合が多く見受けられます。

日頃から会社の役員の任期の管理を徹底しておきましょう。

 

また、会社の代表者等のように、「個人の住所」を登記することになっている役員については、引越し等の理由によって住所に変更が生じた場合にも住所変更登記を申請する必要があるので、こちらも忘れないようにしましょう。

 

 

■過料以外にペナルティが発生することはないの?

登記懈怠や選任懈怠の場合、過料だけ支払っていれば問題がないかと言えば、そうとも限りません。

 

ベンチャー企業や中小企業が投資家から出資を受けるにあたり、投資契約書や株主間契約書を締結することになりますが、これらの契約条項の中で、契約時点の登記簿の内容に相違がないことを表明・保証する条項が設けられることが多いのが実情です。

このようなケースにおいて、もし登記懈怠が存在する場合、結果的には、契約時点の登記簿の内容に齟齬が存在することになり、契約条項の違反の問題が生じるため、投資家等の契約当事者から追及を受ける可能性があります。

 

また、一定期間登記がされていない会社・法人については、休眠会社のみなし解散の制度による、管轄法務局の職権による解散登記がされることがあります。

この解散登記がされた場合には、所定の期間内に対応を取らない限り、会社の事業の継続に支障を来たすことがあるため、注意が必要です。

登記懈怠・選任懈怠が長期に及ぶ場合には、上記のような問題に発展する可能性があるため、なるべく早めに確認の上対応を進めることをお勧めします。

 

※前述した役員の「選任懈怠」の場合には、法令上は、役員の在任期間に空白期間が生じることとなり、建設業等の一定の許認可事業の要件(一定の役員が継続して在任することを許認可の要件とする場合等)に抵触することもあるので、注意が必要となります。

 

 

■終わりに

登記懈怠や選任懈怠の事実そのものは法令違反にほかならないため、上場審査や監査の点においても少なからず影響があるものと考えられます。

また、上場審査や監査とは無縁の会社であっても、企業のコンプライアンスの観点からは回避すべき問題であると思料します。

 

登記が必要な場面としては、商号変更・本店移転・事業目的の変更・役員変更・代表者等の住所変更・増資・減資・新株予約権の発行等、実に様々なものがありますが、法務・総務が整備されていないベンチャー企業や中小企業では、対応が追いついていない場合が少なくありません。

 

まずは、会社としては、役員の任期を管理することに加えて、登記が必要な場合をきちんと把握しておくようにしましょう。

自社だけで対応が難しい、本業に専念したい等、リソースが限られている会社の場合には、専門家のサポートを受けながら整備を進めるのが良いでしょう。

 

 

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