タイの労働法制と実務 vol.7 普通解雇に関するルールと実務 その1

タイの労働法制と実務 vol.7 普通解雇に関するルールと実務 その1

今回は、タイにおける普通解雇手続について解説します。事前の予告が必要であることなど日本と共通する点も多いですが、反面、解雇補償金の支払が必要であるなど大きく異なる点もありますし、定年退職の場合や有期雇用の場合など、事案によって注意しておかなければならないこともあります。少し長くなりますので、今回と次回に分けて、普通解雇に関するタイの法令に則した制度設計と、日々の労務管理において生じる実務上の問題について、日本の法制度との違いを踏まえて解説します。

 

【目次】

解雇とは

タイでの普通解雇の要件

法令上の解雇制限

就業規則上の解雇の規定に従うこと

解雇予告

解雇補償金の支払

特別な場合の解雇補償金

年次有給休暇の買取り

不公正な解雇でないこと

整理解雇の場合

退職勧奨をする場合

定年退職の場合

有期雇用の場合

普通解雇に関する実務上の留意点

解雇とは

タイにおける解雇は、日本における解雇と同様、会社が一方的に雇用契約を解約する場合を意味すると理解してよく、普通解雇と懲戒解雇に大別できます。

懲戒解雇とは、懲戒処分として行われるものであって、一般的に、後述する解雇予告や解雇補償金の支払を伴わない解雇を意味し、普通解雇はそれ以外の解雇を意味します。

さらに、普通解雇のうち、勤務成績が不良であるなど従業員側の事情を理由とするのではなく、業績悪化などに起因して人員を整理しなければならないという会社側の事情を理由とする場合を、特に、整理解雇と呼ぶことがあります。

なお、懲戒解雇については、「タイの労働法制と実務 vol.6 懲戒に関するルールと実務」で整理していますので、そちらをご参照ください。

 

日本では、従業員を自由に普通解雇できるわけではなく、普通解雇する場合には、おおよそ、①法令により解雇が制限されている場合ではないこと、②解雇予告を行うこと、③解雇権の濫用に当たらないこと(就業規則上の解雇事由に該当し、客観的合理的理由と社会通念上の相当性があること)という要件を全て満たさなければなりません。 タイでも、日本と同様に、一定の要件を満たすことが必要です。

タイでの普通解雇の要件

タイで従業員を普通解雇しようとする場合の要件は、次のとおりです。

① 法令上、解雇が制限されている場合に当たらないこと

② 就業規則上の解雇の規定に従うこと

③ 解雇予告を行うこと

④ 解雇補償金を支払うこと

⑤ 年次有給休暇の買取りを行うこと

⑥ 不公正な解雇でないこと

このうち、最後の⑥については、次回のコラムで、判例等を踏まえながらあらためて整理しようと思いますので、今回は、①〜⑤、及び、退職勧奨を行う場合など注意が必要な点について整理します。

法令上の解雇制限

日本では、労働災害による療養者や産前産後の休業者について、所定の期間は原則として解雇できないこととされており(労基法19条1項)、また、労働組合員であることや正当な組合活動をしたこと等を理由とする解雇は不当労働行為として禁止されています(労働組合法7条1号)。その他、育児介護休業法や公益通報者保護法など、他の法令で解雇が禁止される場合もあります。

そして、タイでも、日本と同様、解雇が制限される場合があり、労働者保護法(以下「LPA」と言います。)や労働関係法(以下「LRA」と言います。)においては、次の場合、原則として、解雇できないこととされています。

① 妊娠を理由とする解雇(LPA43条)

② 従業員委員会の委員の解雇(LRA52条)

③ 集会の開催、要求書の提出、訴訟提起その他の組合活動や、労働組合員であることを理由とする解雇(LRA121条)

④ 労働協約や仲裁が有効である間の、その要求に関与した従業員等の解雇(LRA123条)

※従業員委員会:従業員50人以上の事業所において、従業員が任意に設置できる委員会。福利厚生、就業規則、労働者の苦情等について、原則として、会社は、3ヶ月に1回以上の頻度で協議しなければならない(LRA45条以下)。

就業規則上の解雇の規定に従うこと

会社が、就業規則において必ず規定しなければならない事項の一つに、解雇に関する事項があります(LPA108条)。

会社は、従業員数が10名以上である場合、タイ語で就業規則を定めなければなりません(LPA108条1項)。また、従業員数が10名に満たない会社でも、雇用条件の統一化等の観点から、就業規則を定める会社も珍しくありません。したがって、タイの多くの会社は、就業規則中でどのような場合に普通解雇となりうるのかという解雇事由や解雇に関する手続を定めています。 そして、このように解雇事由や手続を定めた場合、会社は、原則として、その規定に従い普通解雇を行う必要があると考えておくべきでしょう。

解雇予告

無期契約の従業員を普通解雇するためには、原則として、書面により事前に解雇を予告することが必要です(LPA17条2項)。

日本でも、無期契約の従業員を普通解雇する場合には30日前の解雇予告が必要とされているので(労働基準法20条)、予告が必要であること自体は日系企業にとって違和感のないものと思います。しかしながら、日本でも同種の規定があることの弊害として、タイでの解雇予告も日本と同様に30日前までに行えばよいと誤解している方々が多いように思われます。

タイでは、無期契約の従業員の解雇予告につき、「ある給与支払日に解雇の効力を生じさせるためには、その一つ前の給与支払日までに解雇を予告しなければならない」として、30日前ではなく、「一給与期間前まで」の解雇予告が必要であることを定めています(LPA17条2項)。

ここで注意しなければならないのは、解雇の予告期間として必要とされている「一給与期間」は、長さ・日数を意味するのではなく、給与期間それ自体を意味する、ということです。つまり、予告から解雇日までの間に最低でも1つの給与期間が含まれていなければならない、ということになります。

具体的に、月給制で毎月末日払である(給与期間は毎月1日から同月末日)という従業員を解雇する場合を考えてみます。この場合、一給与期間の長さは1ヶ月(30日)です。それゆえ、例えば5月16日に解雇予告をするのであれば、そこから30日後である6月15日に解雇できると考えてしまいがちなのですが、これは誤りです。すなわち、5月16日に予告をすれば、6月15日までには30日間という長さ・日数は含まれています。しかしながら、給与期間それ自体に着目した場合、5月16日から6月15日の間には、「1日〜同月末日」という給与期間それ自体は1つも含まれていないのです。そして、5月16日から解雇日までに一給与期間を含ませる場合、6月1日〜6月30日を含ませることとなりますので、解雇日は、最短で6月30日となるのです。

なお、この規定は、給与支払日だけにしか解雇できないという趣旨ではなく、解雇日までに必要な最低予告期間を定めた趣旨であると考えられますので、その予告期間をきちんと確保しさえすれば、給与支払日以外でも解雇はできるはずです。

よく誤解や混乱が生じるところではありますが、予告のための一給与期間は、日数ではなく給与期間それ自体を意味するのだ、ということを覚えておいてください。

 

また、一給与期間前までに解雇予告を行わずとも、解雇予告を行った場合に解雇できるはずの日までの給与に相当する金額を支払うことにより、即時に解雇することも可能です(LPA17条3項)。

 

なお、従業員を解雇する場合、常に解雇補償金を支払わなければならないわけではありません。まず、従業員が自主退職する場合には、当然ながら解雇予告は不要です。また、法令は、従業員が職務上の不正行為に及んだ場合など、懲戒解雇する場合には、解雇予告が不要で即時に解雇できることを認めています(LPA17条4項)。詳しくは、「タイの労働法制と実務 vol.6 懲戒に関するルールと実務」をご参照ください。

解雇補償金の支払

タイでは、従業員を普通解雇する場合、法令で定められた額の解雇補償金を支払わなければなりません(LPA118条1項)。この点が、日本での普通解雇との間で一番の違いでしょう。 支払うべき解雇補償金額は、従業員の勤続年数と最終賃金額によって計算されます。この勤続年数と支払うべき解雇補償金額の関係を整理したのが、次の表です。

例えば、勤続年数5年の従業員を普通解雇する場合には、最終賃金の180日分を解雇補償金として支払う必要があります。

勤続年数 支払う必要のある解雇補償金額
120日未満 支払う必要なし
120日~1年未満 退職時の賃金の30日分以上
1年~3年未満 退職時の賃金の90日分以上
3年~6年未満 退職時の賃金の180日分以上
6年~10年未満 退職時の賃金の240日分以上
10年~20年未満 退職時の賃金の300日分以上
20年以上 退職時の賃金の400日分以上

また、後述のとおり、契約期間の定めのある有期契約の従業員が契約期間の満了により退職する場合も、解雇補償金の支払が必要となることに注意が必要です。

 

なお、従業員を解雇する場合、常に解雇補償金を支払わなければならないわけではありません。まず、従業員が自主退職する場合には、解雇補償金の支払は不要です。また、法令は、従業員が職務上の不正行為に及んだ場合など、一定の場合には、解雇補償金の支払が不要となることを認めています(LPA119条1項)。詳しくは、「タイの労働法制と実務 vol.6 懲戒に関するルールと実務」をご参照ください。

特別な場合の解雇補償金

解雇補償金の支払に関連して、タイでは、気をつけておくべき2つの場合があります。

 

1つ目は、機械化等による解雇の場合です。

会社が、機械の導入や機械や技術の変更によって、事業、生産ライン、販売やサービスなどの組織を変更し、その結果として従業員を解雇する必要がある場合、会社は、60日以上前に、労働者とともに、労働監督官に対して、解雇の予告をする必要があります(LPA121条1項)。

そして、仮にこの予告を怠った場合(予告しなかった場合だけではなく、予告期間が60日に満たなかった場合も含みます。)、前述の解雇補償金だけではなく、60日分の解雇補償金を追加して支払わなければなりません(LPA121条2項)。 また、勤続年数が6年を超える従業員に対しては、勤続年数1年当たり15日分の特別な補償金を支払う必要があります(LPA122条)。これには、最大360日分までと上限が設けられていますが、その一方で、計算に際して勤続年数に1年に満たない端数が生じ、これが180日を超える場合には、その端数も1年と評価して計算しなければなりません。

 

2つ目は、事業所が移転する場合です。

会社を経営していくうえで、事業所の移転はつきものですが、タイでは、会社が事業所を移転する場合、移転日の30日前までに、従業員に対して移転先や移転時期等を告知しなければならないこととされています(LPA120条1項)。そして、移転後の事業所での就労が、従業員やその家族の生活に重大な影響を及ぼす場合、その従業員は、会社を退職することができます。この場合、会社は、退職する従業員に対して、法定の解雇補償金以上の額の特別な補償金を支払わなければなりません(LPA120条3項)。詳しくは、「タイの労働法制と実務 vol.5 従業員の配置転換に関するルールと実務」をご参照ください。

年次有給休暇の買取り

従業員を普通解雇する場合、従業員がその年度において取得できる年次有給休暇を買い取る必要があります(LPA67条1項)。また、就業規則等で、未消化の年休についての繰越しを認めている場合には、その繰越分も買い取らなければなりません(LPA67条2項)。

なお、懲戒解雇や自主退職の場合は、繰越を認めた年度分以外の買取りは不要です。

この年休の買取りにつきましては、「タイの労働法制と実務 vol.3 休日に関する基本ルールと設計上の留意点」をご参照ください。

不公正な解雇でないこと

日本では、普通解雇が、解雇権の濫用に当たらないことが必要とされています。

タイでも、日本と同様に、普通解雇が「不公正でないこと」が必要とされています。

この点については、次回のコラムで詳しく整理したいと思います。

整理解雇の場合

タイでは、経営悪化等に伴ういわゆる整理解雇についても(前述の機械化等に伴う場合を除き)、普通解雇と同様の判断枠組みで有効性が判断されます。

そして、主として問題となるのは、「不公正でないこと」を満たしているか否かです。

この点についても、次回のコラムで触れたいと思います。

退職勧奨をする場合

自主退職とは、従業員が自らの意思で雇用契約を解約することを言います。

従業員が自ら退職する場合ですから、これまでに述べてきたような解雇に関する様々な規制は及びません。前述のとおり、解雇予告も不要ですし、解雇補償金の支払も不要です。そして、これは、会社が従業員に対して自主退職を促した結果(退職勧奨)、従業員が自主退職した場合も同様です。

ただし、その退職勧奨が従業員に退職を強制するものであった場合には、例外的に、解雇であるとみられ、解雇に関する規制が及ぶ可能性があります。もちろん、一般的には、退職するよう説得を試みただけで退職を強制したと評価されるわけではありません。しかしながら、説得と強制の境界は明確ではなく、話が長時間に及んだり、多数で一人の従業員を囲んで話したりすれば、従業員を心理的に圧迫しかねず、退職を強制とみられ、解雇に関する規制が及ぶ可能性が高まっていきます。また、懲戒解雇できる事情がないにもかかわらず「懲戒解雇できる」などと嘘を付くことも問題でしょう。

そのため、退職勧奨を行い、説得を試みる場合であっても、長時間に及ばないこと、必要最低限の人数で対応すること、嘘をつかないこと、あくまでも従業員の意思を尊重する姿勢を崩さないこと、一方的に話をするのではなく従業員の言い分にも耳を傾けることを心がけるのが大切です。また、後々、従業員から退職を強要されたなどと言われないためにも、退職勧奨時の状況(日にち、開始・終了時間、場所、出席者)や双方が話した内容をきちんと議事録や報告書といったかたちで記録しておくことも大切です。

定年退職の場合

タイでも、日本と同様、従業員との間での合意や就業規則等での定めにより、定年退職制度を導入することができます。そして、仮に定年退職に関する合意や就業規則等の定めがない場合、または、これらがあっても60歳を超える年齢を定年と定めている場合、60歳以上の従業員は、いつでも会社に対して定年退職を申し出ることができ、申出をした日から30日が経過すると定年退職したものと扱われます(LPA118/1条)。

 

ここで注意しておかなければならないのは、タイでは、定年による雇用契約の終了も解雇の一種と考えられており、解雇補償金を支払う必要があることです。たとえ、定年退職に関する合意や就業規則等の規定による場合であっても、60歳を過ぎている従業員からの自主的な定年退職の申出による場合であっても、会社は、解雇補償金を支払わなければならないのです。

 

また、解雇補償金はあくまでも解雇補償金であり、退職金とは別物です。そのため、タイの子会社において、日本で用いている就業規則や退職金規程を一部変更しただけで流用している場合など、タイでの就業規則等に退職金を支払う規定がある場合には、解雇補償金と退職金の両方を支払わなければならない事態にもなりかねませんので、注意が必要です。 ただし、例えば、定年退職するときに支払う解雇補償金の額を法令で定められた前述の額よりも高額化することを目的とした規定である等、解雇補償金に関する特別の規定であることが明らかであり、かつ、それが従業員にとって利益となるものである場合には、その規定に基づく退職金(解雇補償金)のみを支払えばよいと考えます。

有期雇用の場合

有期雇用の場合には、2つ注意しておかなければならないことがあります。

 

1つ目は、有期雇用の契約期間は原則として解雇できないと考えられることです。 LPAは、前述した解雇予告に関する規定において「雇用契約にて期限が定められていない場合、使用者及び労働者は、事前に書面で予告することにより解除できるが、ある給与支払日に解雇の効力を生じさせるためには、その一つ前の給与支払日までに解雇を予告しなければならない。」と、無期契約である場合には解除できると述べており(LPA17条2項)、基本的に、有期契約の契約期間中には、使用者側からも従業員側からも、一方的に雇用契約を終了させることができないとの立場を取っていると考えられます。もっとも、如何なる場合であっても雇用契約を終了させることができないわけではありません。使用者と従業員が合意して雇用契約を終了させることはもちろん可能ですし、たとえ合意がなくとも、雇用契約を継続し難いような事情がある場合には、使用者が従業員を解雇することはできます。ただし、原則として契約期間中に雇用契約を一方的に終了させることが禁止されている点からすれば、無期契約社員を普通解雇する場合よりもハードルは高くなると考えておくべきでしょう。

 

2つ目は、先に少し触れたとおり、有期雇用が期間満了により終了する場合であっても、原則として、解雇補償金の支払が必要になることです。 「解雇補償金」という言葉からは、いかにも期間満了による契約終了時にはその支払義務が発生しないとの印象を受けてしまいますが、英語では「severance pay」(退職手当)と表現されており、この支払は、本来的に解雇の場合に限定されていないのです。 ただし、これには例外があり、次の要件を満たす場合には、解雇補償金を支払う必要はありません(LPA118条3項、4項)。

① 従業員の業務が、会社の通常の業務ではない特別な業務、臨時の業務、季節的な業務のいずれかであること

② 期間が2年以内であること

③ 雇用開始時に、契約書が書面で作成されていること

普通解雇に関する実務上の留意点

以上のとおり、タイでは、普通解雇をしようとする場合、解雇予告すべき時期、解雇補償金の支払、年次有給休暇の買取りなど、日本とは異なった配慮をすることが必要となります。 タイでは日本よりもジョブホッピングが盛んではありますが、他方で、労働者による労働裁判所への訴訟提起が無料とされていることもあり、従業員を解雇した場合に、すぐに訴訟化するということも珍しくありません。また、労働裁判所への訴訟提起でなくとも、従業員が労働局への申立てを行うこともあります。そして、労働裁判所等は、従業員側に有利に判断する傾向にあるとも言われています。そのため、万が一、解雇を争われても問題がないよう、必要な手続や支払をきちんと履践しておくことが大切です。

 

 

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