薬機法改正―法令遵守体制整備

薬機法改正―法令遵守体制整備

執筆:弁護士 鈴木景執筆:弁護士 吉岡拓磨

 

 

1.はじめに

 令和元年12月4日に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部を改正する法律」が公布されました。

 同法は、順次施行されていきますが、令和3年8月1日、同法の一部が施行されます。また、これに伴い、同日施行分について、関係政令及び関係省令が公布されるに至り、これらの政令・省令も、同日施行されることとなります。

 本稿作成日(令和3年4月)現在、施行まで残すところおよそ4カ月という状況を踏まえ、同日施行される事項について、順次解説していきたいと思います。

 本稿では、同日施行される事項のうち、「許可業者等の法令遵守体制の整備・強化」について、その大枠を解説します。

 なお、規制の詳細につきましては、「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドライン」及び「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」をご覧いただければと思います。

 

 

2.許可事業者に対する法令遵守体制の整備

 医薬品、医薬部外品、又は化粧品の製造販売業者は、取り扱う製品の品質管理や製造販売後安全管理に関する業務等の業務の適正な遂行の観点から、種々の体制整備を行うべきこととされました(薬機法第18条の2第1項)。

 具体的には、

  ①業務が法令に遵守して適正に行われるためのルール作り

  ②策定されたルールをきちんと運用するための制度設計

  ③業務が適正に行われているかどうかの監督体制の整備

  が必要とされています。

 これらの各措置として、具体的にどのような措置を講じるべきかについては、令和3年1月29日に発行された「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドライン」に詳細が記載されています。

 以下では、上記各項目についてどのような対応を取る必要があるのか、その概要をご案内します。

 

(1)業務が法令に遵守して適正に行われるためのルール作り

 業務が法令を遵守して適正に行われるためには、製造販売業者等の役職員が遵守すべき規範を、社内規程において明確に定め、社内に周知する必要があります。

 具体的には、

  ①適正に業務を遂行するための意思決定の仕組み

  ②意思決定に従い各役職員が適正に業務を遂行するための仕組み

  を定める必要があります。

 ①には、意思決定を行う権限を有する者と、その権限の範囲、意思決定に必要な判断基準、意思決定に至る社内手続等を明確にすることが含まれます。

 また、②には、指揮命令権限を有する者、当該権限の範囲及び指揮命令の方法、並びに業務の手順等を明確にすることが含まれます。

 なお、製造販売業者等において、既に構築している法令遵守体制を活用すること自体は問題ありません。もっとも、既存の社内規程で薬事に関する法令を遵守して業務を行うことが十分可能かどうかを不断に検討し、不十分な点がある場合には、新たな社内規程の作成や、既存の社内規程の改定等を行うことが重要とされています。

 

(2)策定されたルールをきちんと運用するための制度設計

 策定されたルールを運用するための制度設計として、

  ①役職員に対する教育訓練及び評価

  ②総括製造販売責任者の選任・権限の明確化・意見申述

  ③薬事に関する業務に責任を有する役員の選任

  が必要とされています。

 以下、これらについて概要を説明します。

 

①役職員に対する教育訓練及び評価

 策定されたルールを運用するためには、役職員に対し、策定したルールを周知し、運用を徹底することが必要です。

 そのためには、役職員に、計画的・継続的に行われる研修及び業務の監督の結果や法令の改正等を踏まえて行われる研修等を受講させることや、法令等や社内規程の内容や適用等について役職員が相談できる部署・窓口を設置すること等が考えられるとされています。

 また、役職員が法令を遵守して業務を行うインセンティブを高めるため、役職員による法令等及び社内規程の理解や、その遵守状況を確認し、評価することも重要とされています。例えば、賞罰・人事考課の評価項目に、法令遵守の項目を設けること等の対応が考えられます。

 

②総括製造販売責任者の選任・権限の明確化・意見申述

 許可業者は、医薬品等の製造管理・品質管理・製造販売後安全管理のために必要な業務を適正に遂行することができる能力及び経験を有する者を、総括製造販売責任者等として選任しなければならないとされています(薬機法17条2項)。

 また、このような総括製造販売責任者の業務が円滑に行われるようにするためにも、総括製造販売責任者の権限を明確に定め、社内に周知することが必要とされています。

 総括製造販売責任者は、品質管理や製造販売後安全管理を行う者であり、これらを公正かつ適正に行うために必要があるときは、製造販売業者に対して意見を申述しなければならないとされており(同3項)、このような意見申述が有効にされるような制度を作る必要があります。

 なお、この総括製造販売責任者は、GQP省令等において各種業務が規定されているため、これらの業務を適正に履行する必要があります。総括製造販売責任者には、これらの省令等で定める業務を行うために必要な権限を付与する必要があります。

 

③薬事に関する業務に責任を有する役員の選任

 製造販売業者等においては、薬事に関する法令の遵守に責任を有する役員を置く必要があります。これは、あえてそのような役員を選任しなければならない、というものではなく、役員の業務分掌として、薬事に関する法令の遵守に係る業務を設定する、という趣旨です。したがって、この業務分掌を所管する役員が、薬機法上の責任役員となります。

 ここにいう「薬事に関する法令」とは、薬機法をはじめ、麻薬及び向精神薬取締法、毒物及び劇物取締法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令第1条の3各号に規定する薬事に関する法令をいうとされています。

 製造販売業者等は、責任役員に該当する者を明確にした上で、製造販売業等の許可等申請書にその氏名を記載しなければならないとされています(薬機法12条第2項2号)が、改正法の一部が施行される令和3年8月1日時点の責任役員の氏名を明確にすることを目的として、この申請書を提出する必要はなく(「薬事に関する業務に責任を有する役員」の定義等について)、同日以後責任役員が変更された場合や、更新申請時又は他の事由による変更届の提出時に、責任役員の氏名を記載して届け出れば足りることになります。

 

(3)業務が適正に行われているかどうかの監督体制の整備

 業務が適正に行われているかどうかの監督体制の整備として、

  ①業務記録の作成、管理及び保存

  ②責任役員及び従業員の業務の監督に係る体制

  が必要とされています。

 以下、これらについて概要を説明します。

 

①業務記録の作成、管理及び保存

 役職員による意思決定及び業務遂行の内容が社内において適切に報告され、また、意思決定及び業務遂行が適正に行われたかどうかを把握し、さらには、社内において法令等の違反またはそのおそれがある場合に、事実関係の調査、違反行為の是正、原因分析、再発防止等の必要な措置をとるために、業務記録を適示かつ適切に作成、管理及び保存する必要があります。

 そのため、業務記録の作成、管理及び保存の方法等の文書管理に関する社内規程を定め、その適切な運用を行う必要があり、また、事後的に記録の改変等ができないシステムとする等、適切な情報セキュリティ対策を行うことが重要となります。

 いかなる業務について、どの程度詳細な業務記録を作成すべきか、という点や業務記録の保存期間については、対象となる業務の重要性や法令等違反のリスクに応じて、各製造販売業者等において検討し、文書管理に関する社内規程を定める必要があるとされています。

 なお、法令により保存期間が定められている文書の保存期間については、当該法令に従う必要があります。

 

②責任役員及び従業員の業務の監督に係る体制

 製造販売業者等の業務の適性を確保するために、責任役員が、役職員による意思決定や業務遂行の状況を適切に把握し、適時に必要な改善措置を講じることができるよう、役職員の業務をモニタリングする体制の構築や、役職員の業務状況について責任役員に対する必要な報告が行われることが重要です。

 とりわけ、承認や認証の内容と異なる製造がされていないかどうかの監督や、副作用や医薬品等に関する情報提供が適時適切に行われていることの監督などが実効的に行われることも必要とされています。

 具体的には、以下のような体制整備が考えられるとされていますが、必ずしもこれに限られるものではなく、各製造販売業者等において、事業規模、業務内容、法令等の違反が生じるリスク等を踏まえ、実効的な監督体制のあり方を検討する必要があります。

 

ア 内部監査

 業務を行う部門から独立した内部監査部門により、法令遵守上のリスクを勘案して策定した内部監査計画に基づく内部監査を行い、法令遵守上の問題点について責任役員への報告を行う体制を整備することが考えられます。

 すでに、内部監査の仕組みが整備されている場合には、実効性のある内部監査を可能とする監査計画が策定されているかを確認することが必要となります。

 

イ 内部通報制度

 業務監督体制の一環として、内部通報の手続や通報者の保護等を明確にした実効性のある内部通報制度を構築することが考えられます。

 具体的には、通報・相談窓口の整備・運用、通報に係る秘密保持、個人情報の保護、不利益取扱いの禁止、通報者への対応状況の通知、制度の継続的な評価・改善等、実効性のある内部通報制度となっているかを確認することが必要となります。(公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン)

 

ウ 責任者の意見陳述に係る体制

 前記のとおり、総括製造販売責任者による業務の監督及び意見申述が適切に行われる体制とすることも、業務の実効的な監督を行うために重要となります。

 留意点として、業務の監督に係る体制により、従業員だけでなく、責任役員の業務も監督しなければならないことが挙げられます。

責任役員の業務の監督は、法律上定められている事項であることから、取締役会及び他の取締役による監督のほか、監査役による監査等(製造販売業者等が株式会社の場合)を含め、実効的な責任役員の業務の監督に関する体制について、各製造販売業者等において検討する必要があります。

 

 また、これらに加えて、製造販売業者等全体としての法令等の遵守(コンプライアンス)を担当する役員(コンプライアンス担当役員)を指名することや、法令遵守担当部署としてコンプライアンス担当者を置くことなども有用であるとされています。

 

 

3.終わりに

 今回の薬機法改正に伴う法令遵守体制の整備・強化は、医薬品・医療機器業界の事業者にとって、大きなインパクトを与えるものです。製造販売事業者等は、法令に違反することにより国民の生命や健康を害することや企業の信用・価値が低下することにつながるということを改めて自覚し、そのための責務を果たすことが求められているといえます。

 今回の改正により必要となる規程類の整備や社内研修など、法令遵守体制の整備・強化という極めて重要な課題に関しても、GVA法律事務所では、全面的にサポートして参ります。

 

                                       以上

 

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