タイの労働法制と実務 vol.4 試用期間の基本ルールと運用上の留意点

タイの労働法制と実務 vol.4 試用期間の基本ルールと運用上の留意点

【目次】

試用期間とは

試用期間と有期雇用

試用期間中の従業員の労働条件

試用期間の期間設定上の留意点

試用期間中の解雇又は試用期間満了時の本採用拒否の要件

試用期間満了後本採用時の給与減額

試用期間の正しい理解と運用を

試用期間とは

試用期間とは、一般的に、本採用の前提として使用者が労働者の労働能力や勤務態度等について価値判断をするための期間をいいます。

 

日本では、その法的性質について様々な見解がありますが、判例上は、解約権留保付きの労働契約であるとされています(三菱樹脂事件最大判昭48年12月12日)。すなわち、試用期間は、本採用後の労働契約と(別個の契約ではなく)同一の労働契約の一部であるが、会社は当該期間中は比較的広い裁量により解約する権利を留保している、と解釈されています。

 

タイにおいては、その法的性質については明確に示されていませんが、前記のような試用期間を設定する目的は同様であり、また以下に述べるLPA17条2項からしても、本採用後の労働契約と同一の労働契約の一部であると捉えられているものと考えられます。

試用期間と有期雇用

前記の通り、試用期間の趣旨は新しく採用する従業員の能力やスキル、勤務態度等を観察・評価し、会社の求める基準を満たしているかなど、本採用後を見据えた適性等を判断することにあります。そしてこのような趣旨は、無期雇用のみならず、有期雇用の場合にも当てはまるため、タイの日系企業においても、無期・有期問わず試用期間を設定している場合が多く見られます。

 

しかしながらタイでは、有期雇用に試用期間を設定することには注意が必要です。というのも、労働者保護法(以下「LPA」)において、試用期間を定めた有期雇用は無期雇用とみなすという規定が定められているためです(LPA17条2項)。つまり、雇用契約書で有期雇用として雇用期間を明確に定めていたとしても、試用期間を定めている場合には、実質的に無期雇用となってしまうのです。

 

したがって、例えば1年間の有期雇用のつもりで従業員を採用したとしても、試用期間を定めてしまうと無期雇用とみなされてしまうため、1年経過したからといって直ちに雇用を終了することはできません。会社から一方的に雇用を終了しようとすれば、通常の解雇に該当し、不公正解雇に該当しないこと、事前の解雇予告、解雇補償金の支払い等が必要となります。

試用期間中の従業員の労働条件

従業員の適性等を評価・判断する試用期間中は、本採用と異なる労働条件を定めているという会社も多くありますが、この点についてもいくつか注意すべき点があります。

 

まず、給与に関しては、試用期間中の給与について本採用後の給与額よりも低い金額を設定することがありますが、これ自体は問題ありません。ただし、試用期間開始前にきちんと労働条件として明示し、同意を得ておく必要があります。

 

一方で、休暇等の取得については、試用期間中と本採用後で差異を設けることができないものがあります。例えば、年次有給休暇(Annual Leave)は、法律上、1年の継続勤務を経た者についてのみ付与義務があるため、試用期間中(1年未満の)は付与しない、とすることも可能です。他方、疾病休暇(Sick Leave)や用事休暇(Business Leave)などその他の法律上付与義務のある休暇については、継続勤務期間等の要件がないため、試用期間中であっても付与しなければなりません。試用期間中は一切の休暇について取得できないとしているケースも多くみられますが、そのような定めは違法となりますので、ご留意ください。

試用期間の期間設定上の留意点

試用期間を定める場合、日本では3ヶ月程度に設定されることが一般的ですが、これは慣習上の理由からそのように設定されているに過ぎません。

 

一方、タイでは、試用期間を119日に設定することが一般的です。
LPA上、120日以上勤続した労働者を解雇する場合には解雇補償金の支払義務が発生する(LPA118条1項)ことから、試用期間を120日以上に設定していると、試用期間満了時に本採用を拒否する場合にも解雇補償金の支払義務が発生してしまうこととなります。このような解雇補償金支払義務の発生を回避するため、119日以下の期間を設定することが多いのです。

試用期間中の解雇又は試用期間満了時の本採用拒否の要件

タイにおいても日本と同様に、試用期間中の解雇はもちろん、試用期間満了時の本採用拒否についても解雇に該当するため、以下のような解雇の要件を満たす必要があります。

 

【試用期間中の解雇・本採用拒否の要件】

※試用期間が119日以下である場合には解雇補償金の支払いは不要

 

①不公正解雇の該当性の判断にあたっては、日本と同様、本採用後の解雇の場合と比較すると、会社側の裁量が比較的広く認められる傾向にあります。例えば、業務成績が不十分であることを理由とする解雇は、不当解雇には当たらないとする判例が出されています。

 

また、②解雇予告については、119日の試用期間中であれば解雇補償金だけでなく解雇予告も不要になるという誤解が多いようですが、そのような認識は誤りです。 119日以下であっても事前解雇予告義務は免除されていませんので、解雇予告を行わなければ適法に解雇することはできません。つまり、119日の期間満了時に本採用拒否をしようとするのであれば、その2回前の賃金支払日以前に解雇予告を行っておかなければなりません。それ以降に解雇予告をした場合には、実際の解雇の効力発生日が119日を過ぎてしまうため、勤続期間が120日以上となり、解雇補償金の支払義務が適用されることとなってしまいます。このような場合、解雇予告に代わる賃金相当額の支払いをした上で即時解雇すれば、解雇補償金の支払義務を避けることはできますが、結果的に、解雇補償金の額とほとんど変わらない額を支払うこととなります。

 

【本採用拒否における解雇予告の例】

 

したがって、試用期間を119日に設定した場合において、試用期間満了時に解雇補償金の支払いも解雇予告に代わる賃金相当額の支払いもなく本採用拒否を行えるようにするには、実質3ヶ月程度で本採用するかどうかを判断しなければならないという点に留意が必要です。

 

解雇予告や解雇補償金の詳細については、別途解説する予定ですので、そちらも合わせてご確認ください。

試用期間満了後本採用時の給与減額

試用期間満了に際して、本採用拒否はしないけれども、試用期間中の勤務成績やスキル等が芳しくなかったため、当初約束していた本採用後の給与を減額したい、というニーズもあるかと思います。このような給与の減額は可能なのでしょうか。

 

タイの法令及び判例実務上、原則として、給与減額には従業員の個別の同意が必要とされています。これは試用期間満了後の本採用の場合においても同様で、雇用開始時に本採用時の給与額は35,000バーツとする、などと明確に定めて合意していれば、会社側がこれを一方的に減額することはできず、従業員の個別の同意が必要となります。

 

それでは、試用期間中の能力やスキルに鑑みて、当初合意していた金額での本採用はできないが、給与を減額するのであれば本採用しても良い、と考えた場合にはどうでしょうか。つまり、会社としては、基本的には能力が基準を満たさないので本採用拒否する意向だが、給与を30,000バーツに減額することに同意してくれるのであれば本採用しても良い、と従業員に伝えて、従業員から減額についての個別同意を取得したような場合です。

 

この点について明確に判断した判例は見当たりませんが、法の趣旨に照らせば、給与減額について個別同意を得ていたとしても、このような同意は従業員の真意に基づくものではないと判断され、無効と判断される可能性があると考えます。従業員側からすれば、給与減額への同意を拒否すれば職を失うことになるのだから、本採用拒否という不利益を回避するために渋々同意するしかないと考えたに過ぎず、真意に基づく同意とはいえない可能性が残るためです。

 

一方で、当初から本採用時の給与について、ある程度の幅を設定して合意していたような場合には、その範囲内で給与額を設定している限り、有効と判断される可能性が十分あるものと考えます。具体的には、試用期間中の給与を月額30,000バーツとし、本採用時の給与額については、試用期間中の勤務成績や勤務態度等をもとに、能力、スキル、適性等を評価し、月額30,000バーツから35,000バーツの間で決定する、といったような合意をしておく方法です。

 

このような条件をきちんと雇用契約書において明記し、十分に説明した上で合意しているような場合には、従業員からの個別の真の同意が得られているものと判断される余地があるでしょう。この点についても、まだ明確に判断した判例は見当たりませんので、裁判所においてどのような条件下で有効な同意と認められるかの判断基準は不明確ですが、考えられる考慮要素としては、給与額の幅の合理性、事前の説明、同意取得の方法、試用期間満了時の給与額決定にあたっての評価の実施方法などが挙げられるかと思います。

 

これらの点については、引き続き判例の動向を注視していく必要があります。

試用期間の正しい理解と運用を

試用期間については、基本的な考え方は日本の労働法上の考え方と大きな違いはありませんが、試用期間を設定すると無期雇用と見なされる点、119日以下の試用期間中であっても事前解雇予告義務は免除されない点、休暇等の付与義務が免除されていない点などには注意が必要です。
上記の点を念頭に置きつつ、試用期間を適切に設定・運用していただければと思います。

 

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