タイの労働法制と実務 vol.3 休日に関する基本ルールと設計上の留意点

タイの労働法制と実務 vol.3 休日に関する基本ルールと設計上の留意点

今回は、タイにおける休日・休暇について解説します。週休日(Weekly Holiday)、祝日(Traditional Holiday)、年次有給休暇(Annual Holiday)といった休日や疾病休暇(Sick Leave)などの休暇の種類、有給・無給の区別、休日に対する賃金の支払義務、未消化年次有給休暇の取扱い、退職時の未消化年次有給休暇の買取義務、Sick Leaveへの対応など、タイの法令に即した休日・休暇の制度設計と、日々の労務管理において生じる休日・休暇をめぐる実務上の問題について、日本の法制度との違いを踏まえて解説します。

 

【目次】

タイにおける休日の種類

週休日と慣習としての休日

週休日と慣習としての休日に対する賃金

年次有給休暇(ANNUAL HOLIDAY)

未消化の年次有給休暇の取扱い

他の休暇(LEAVE)

休日・休暇に関する実務上の留意点

タイの法令に即した制度設計と管理を

タイにおける休日の種類

タイでは、労働者保護法(以下「LPA」といいます。)によって、労働者の休日が定められています。そして休日には、週休日(Weekly Holiday)慣習としての休日(Traditional Holiday)年次有給休暇(Annual Holiday)の3種類、そして休暇(Leave)には6種類が規定されています。

週休日と慣習としての休日

まず、週休日は1週間に最低1日は付与しなければならず、週休日と週休日の間は6日以内でなければなりません(LPA28条1項)。ホテル業や運送業など一定の業種については、従業員との間で事前に合意することにより、週休日を累積させたり繰り延べたりできますが、その場合でも週休日と週休日の間は4週間以内でなければなりません。 多くの会社は土曜日と日曜日の2日、又は、日曜日のみを週休日に設定しています。

 

次に、慣習としての休日というのは少し馴染みがない考え方ですが、要は日本の祝日に該当する休日を意味します。
タイには日本の「祝日法」に相当する法律がなく、5月1日の労働者記念日(メーデー)が法定されているのみとなっています。ただし、法律はないものの、政府の告示によって一般的に祝日とされる日はあります。そして、会社はこの政府の告示や慣習等を踏まえ、週休日のほかに、メーデーを含む年間13日以上の休日(祝日)を、「慣習としての休日」として自ら定め、従業員に事前に公示しなければなりません(LPA29条1項2項)。

 

なお、慣習としての休日が週休日と一致する従業員がいる場合、会社はその従業員に対し、翌労働日を振替休日として付与しなければなりません(LPA29条3項)。

週休日と慣習としての休日に対する賃金

多くの方が戸惑ってしまう点が、日給制、時間給制、出来高払制である場合以外、つまり月給制や週給制である場合には、会社は休日についても賃金を支払う義務があると法律上明記されていることです(LPA56条)。
日本では、休日に対しては賃金の支払義務はなく、いわゆる有給休暇についての賃金支払義務があるのみです。ところがタイでは、休日は「有給が原則」であって、むしろ給与を支払わない休日が例外に位置付けられます。
とはいえ、月給や週給のほかに、勤務していない休日分の賃金を別途支払わなければならないというわけではなく、月給額や週給額には休日分の賃金も含まれているというイメージです。ただし、従業員を現実に休日に勤務させた場合には、別途、「休日労働手当」を支払わなければなりません。
この点に関する詳細は、「タイの労働法制と実務 vol.1 労働時間に関する基本ルールと設計上の留意点」 をご参照ください。

年次有給休暇(Annual Holiday)

タイでは、Annual Holiday、日本で言うところの年次有給休暇は、休日の一種として規定されています(LPA5条)。
法令上、1年以上勤務した従業員には、年間6日以上の有給休暇を付与する必要があります(LPA30条1項)。勤続2年目以降については、6日を超える年次有給休暇を与えることも可能と規定されているに過ぎず、日本のように勤続年数に応じて付与日数を増加させなければならないといった法律上の義務はありませんので、年間6日を付与すれば足ります(LPA30条2項)。もっとも、転職が盛んなタイでは従業員に長く働いてもらうため、多くの会社で、勤続年数に応じて付与日数を増加させるシステムを採用しています。
勤続年数1年未満の従業員には、年次有給休暇を与える義務はありません。しかしながら、実務上従業員の定着を図るため、一定の年次有給休暇を与えている会社が多くみられます。

 

会社は年次有給休暇の取得申請手続について、就業規則や雇用契約書などで、「何日前までに申請しなければならない」といった規定を設けることができます。このような手続を定めておくことで、休暇取得希望日の直前に申請され、翌日の業務に支障が生じるといった不都合を避けることができますし、業務上の支障を理由として年次有給休暇の取得を不許可としたために従業員の満足度が下がるといった事態も防ぐことができます。

 

なお、従業員からの年次有給休暇の取得申請について、業務に支障が出ることを理由に不許可としたにもかかわらず、従業員が勝手に休んでしまった場合、正当な理由のない職務放棄(LPA119条1項5号、民商法583条)に該当すると判断した最高裁判例があります。そのため、懲戒処分の対象となりえますし、また連続して3日以上休んだ場合には、同条に基づき懲戒解雇することも考えられます。

未消化の年次有給休暇の取扱い

消化されなかった年次有給休暇(未消化年次有給休暇)の取扱いについては未消化の年次有給休暇を次年度に繰り越すことができる旨を労使間で合意することができるとされています(LPA30条3項)。
一方、このような繰越しを認めない場合の未消化年次有給休暇の取扱いについては、法令上の定めがありません。
この点、最高裁判例で未消化年次有給休暇の繰越しを認めない場合には、未消化日数分について休日労働させたものと評価すべきであり、年度終了ごとに未消化日数分の休日労働手当が発生すると判断されています。そのため、繰越しを認めない場合には、原則的に休日労働手当に相当する額での買取りが必要となることに注意が必要です。

 

次に、従業員の退職に際して、年次有給休暇の買取りの要否が問題となります。
この問題については、退職する年度の未消化分と、繰越を認めることにより蓄積されている前年度までの未消化分を区別して整理する必要があります。
退職年度の未消化分については、従業員が自主退職する場合や、従業員を懲戒解雇する場合には、原則として買い取る義務はありません(LPA67条1項)。一方、従業員を普通解雇する場合には、年次有給休暇の付与日数や当該年度における解雇日までの日数を踏まえた割合に基づき、一定の範囲の未消化分を買い取らなければなりません(LPA67条1項)。
次に、年次有給休暇の繰越しを認める場合には、従業員の自主退職の場合であっても、懲戒解雇の場合であっても、普通解雇の場合であっても、繰越により蓄積された前年度分までの年次有給休暇を買い取らなければならないとされています(LPA67条2項、30条3項)。

他の休暇(Leave)

法令上、従業員に認められている休暇(Leave)の種類は多岐にわたり、そのうちの一部は、有給としなければならないものもありますので、注意が必要です。

 

Leaveの1つ目は、病気休暇(Sick Leave)です(LPA32条)。
従業員は、病気を原因として休暇を取得する権利を有しています。そして、このうち年間30日間は有給としなければなりません(LPA57条1項)。
実務上は、従業員がこのSick Leaveを悪用して休みを取ってしまうという問題がしばしば生じます。年次有給休暇と合わせれば最低でも年に36日の有給休暇が取れるので、平均で月に3日間は有給で休める計算になります。そのため、従業員によっては「毎週のように休んでいい」と考える者もいるようです。
しかしながら、従業員は連続して3日間以上休む場合にのみ医師の診断書を出せば良いと規定されているため(LPA32条1項)、医師の診断書がないことを理由としてSick Leaveの申請を拒絶することはできません。そのため、皆勤手当を支給するなど、休まないことに対するインセンティブを付与する制度を多くの企業が利用しています。また、Sick Leaveはあくまで病気である場合に限って取得できるものですので、Sick Leaveが濫用的に取得されてしまっているような場合には、病気ではないにもかかわらず取得していることが判明した際には就業規則違反等に該当し、厳しく処分する旨をきちんと周知することが有効な手段となることがあります。

 

2つ目は、不妊手術休暇(Leave for Sterilization)です(LPA33条)。
従業員は、不妊手術を受けるため、医師が必要と判断してその旨を診断書に明示した期間、休暇を取得できます。そして、この不妊手術期間については、全てを有給としなければなりません(LPA57条2項)。

 

3つ目は、用事休暇(Business Leave)です(LPA34条)。
従業員は、必要な用事のため、年間3日間の休暇を取得することができます。そして、この3日間は有給としなければなりません(LPA57/1条)。

 

4つ目は、兵役休暇(Leave for Military Service)です(LPA35条1項)。
従業員は、兵役に関する法令に基づく検査や訓練等のため、休暇を取得することができます。この兵役休暇については、年間60日間は有給としなければなりません(LPA58条)。

 

5つ目は、研修休暇(Leave for Training or Skill Development)です(LPA36条)。
従業員は、労働省令に従い、技能・専門性の向上や受験のため、研修休暇を取得することができます。この研修休暇については原則として有給とする必要はありませんが、18歳未満の従業員は、研修や教育等のため年間30日間の有給を取得できることに注意が必要です(LPA52条)。

 

6つ目は、出産休暇(Maternity Leave)です(LPA41条)。
妊娠中の女性従業員は、1回の出産につき98日まで休暇を取得することができます。出産それ自体ではなく検査の場合に取得することも可能ですが、98日という日数は週休日等の休日も含んで計算されます。そして、このうち45日間は有給としなければなりません(LPA59条)。

 

なお、これら6つ以外に、労働関係法上、労働組合の委員を務める従業員について、一定の労働組合活動のために休暇を取得することが認められており、そのような休暇は有給としなければならないこととされています(労働関係法102条)。また、法令上の義務ではありませんが、タイでは、従業員が出家するために休暇を取得するケースが多いことから、就業規則で出家休暇について定めている会社も見られます。

休日・休暇に関する実務上の留意点

以上のとおり、法令上の休日・休暇のルールは、タイと日本の間で大きく異なります。
そのため、まずはこの違いをきちんと理解して、タイの法令に沿って社内制度を設計することが何よりも大切です。特に、年次有給休暇や病気休暇は、日常的に申請され得る休日・休暇ですので、日本の本社で導入されているリフレッシュ休暇や慶弔休暇などをどこまでタイに持ち込むかといった点を含め、どのような制度にするか慎重に検討すべきです。
次に、タイでは、欠勤や休暇取得の連絡がLINE等のSNSを通じて行われることもしばしばあります。これ自体が必ずしも悪いというわけではないのかもしれませんが、LINE等でのやり取りのみでは、誰が何日どのような休暇を取得しているか十分に把握できない状況に陥りがちです。そして、法令や就業規則上の定めを超えて有給での休暇を与えてしまったり、逆に有給とすべきものを無給としてしまったりするなど、混乱を招きかねませんし、従業員との関係が悪化する一因ともなりかねません。そのため、休暇申請の際の連絡方法をきちんとルール化しておくことや、社内できちんと休暇の取得状況について管理しておくことが必要となります。

タイの法令に即した制度設計と管理を

当然のことですが、会社は、従業員がきちんと休日や休暇を取得でき、有給とすべき場合にはきちんと給与を支払うという状態を維持しておかねばなりません。そして、当然であるがゆえに、休日・休暇に関する制度やその運用に不十分、不適切な点がある場合には、従業員に強い反感を抱かせ、不和が生じやすいともいえます。
適切な休日の付与は、従業員の勤労意欲を高め生産性や効率性を向上させるはじめの一歩ですので、今一度、タイの法令のほか、従業員のニーズや会社のニーズを踏まえつつ、休日に関する制度を見直してみてはいかがでしょうか。

 

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