タイの労働法制と実務 vol.2 賃金に関する原則と基本ルールの概要

タイの労働法制と実務 vol.2 賃金に関する原則と基本ルールの概要

今回は、タイにおける賃金制度の基本について解説します。休日に対する賃金支払義務や、時間外労働、休日労働、休日時間外労働手当の計算方法など、日本とは考え方が異なるために多くの企業が誤解している点について詳しく解説します。その他、賃金支払に関する基本原則、時給の計算方法、賃金控除に関するルール、最低賃金などの基本的なルールについて概説します。

 

【目次】

タイにおける賃金とは

タイの賃金支払に関する原則

賃金控除の制限

最低賃金

時間外労働、休日労働、休日時間外労働手当に関する基本ルール

正しい賃金の支払いにより従業員の信頼確保を

タイにおける賃金とは

タイの労働者保護法(以下「LPA」)において、賃金は、以下の通り定義されています(LPA5条)。

賃金(Wages)とは、雇用契約において、時間、日、週、月その他の通常の労働期間においてなされた労働の対価として、又は所定労働日の通常の労働時間においてなされた成果に基づき、雇用主が労働者に支払うことを合意した金銭をいい、本法に基づき休日又は休暇中に労働者が受領する権利のある金銭を含む。

つまり、賃金とは、所定労働時間における通常の労働の対価を意味します。したがって、通常勤務外の労働に対する対価である時間外労働手当や休日労働手当や、付加的・報奨的な給与である賞与等は上記の「賃金」の定義には含まれませんが、労働の対価として支払われる金銭である以上、これらについても、LPA上の一定の規制の対象となります。

 

タイにおける賃金の概念に関して最も日本と異なるのは、休日についても賃金を支払う義務があるとされている点です。すなわち、所定労働日だけでなく、週休日(Weekly Holiday)、祝日(Traditional Holiday)、年次有給休暇(Annual Holiday)についても、「賃金」支払いの対象となるのです(LPA56条)。休日等においても労働日の所定労働時間分働いたのと同様に取り扱い、「賃金」の中にその分の給与も含めているというイメージです。

一方で、日給制・時給制・出来高払制の労働者については、週休日についてのみ、例外的に「賃金」の支払対象とならない旨定められています(祝日、年次有給休暇については例外とされていません)。

 

【「賃金」支払の対象となる日】

タイの賃金支払に関する原則

日本と同様、タイでも賃金支払に関していくつか原則が定められています。なお、これらの原則は、上記の「賃金」のみならず、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当その他雇用主がLPAに基づき支払義務を負う金銭について適用されます。

 

【労働時間に関する原則】

 

給与計算に関しては、月給制の従業員について、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当を計算する際に、時給を算出することとなりますが、その算出方法について、LPA上以下のような原則が定められています(LPA68条)。

 

時給=月単位の「賃金」÷(30×所定労働日1日の平均労働時間数)

 

前記の通り、「賃金」は休日に対しても支払われるものと考えますので、日本での場合のように月の賃金を1ヶ月の所定労働日のみの日数で除するのではなく、暦日を30日ととらえ、休日を含むすべての日で除して算出します。

 

また、賃金支払いを遅延した場合の遅延利息は年利15%とされている上、合理的な理由なく故意に支払いを怠った場合には、さらに追加で、7日あたり15%の遅延利息が生じるとされているため、注意を要します(LPA9条1項、2項)。

賃金控除の制限

タイでも、日本と同様に、賃金や時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当から控除することは原則として禁止されており、例外的に控除が許されるものとして、以下の通り規定されています(LPA76条)。

 

【賃金控除禁止の原則】

最低賃金

タイにおける最低賃金は、賃金委員会により都道府県別に決定され、随時改定されます。2021年1月時点の最低賃金は、例えば、Bangkok, Nakhon Pathom, Nonthaburi, Pathum Thani, Samut Prakan, Samut Sakhon等については、日給331 バーツとされています。この他、一定の業種については、別途職能別の最低賃金が定められている場合があるため、留意する必要があります。

 

最低賃金の違反については、6ヶ月以下の禁錮もしくは10万バーツ以下の罰金又はそれらの併科の対象となります (LPA90条1項、144条 )。

時間外労働、休日労働、休日時間外労働手当に関する基本ルール

タイにおいて、会社が従業員に時間外労働、休日労働、休日時間外労働をさせるためには、原則として従業員の個別の事前同意が必要となる点は、タイの労働法制と実務 vol.1 労働時間に関する基本ルールと設計上の留意点において述べたとおりです。

 

そして、実際に時間外労働、休日労働、休日時間外労働をさせた場合には、日本と同様に割増レートによる給与を支給する義務が生じます(LPA61条、62条、63条)。ただし、日本とは各割増レートの%が異なりますので、注意が必要です。また、タイにおいては、日本の深夜労働割増賃金に相当するものはありません。

 

【時間外労働、休日労働、休日時間外労働手当】

 

(1) 各手当の計算方法

まず、整理しておくべきことは、LPA上、「賃金」が「通常の労働時間においてなされた労働の対価」として位置付けられているので、所定労働時間外の労働に対しては「賃金」の支払義務がないという点です。そのため、所定労働日に時間外労働があったとしても、「賃金」それ自体の支払義務は生じません。しかしながら、時間外労働に関しては、「賃金」の1.5倍という割増レートによる時間外労働手当の支払義務が発生します。

 

一方、休日労働に関しては、休日に対する「賃金」の受領権がある場合と無い場合に分けて考える必要があります(LPA56条)。休日に対する「賃金」の受領権がある場合については、通常の「賃金」に追加して、「賃金」の1倍分の休日労働手当を上乗せして支払わなければなりません。他方で、休日に対する「賃金」の受領権が無い場合については、休日労働手当として「賃金」の2倍に相当する金額を支払うことと規定されています。したがって、いずれの場合でも、休日労働した場合の支給合計額は、「賃金」の2倍ということになります。

 

休日時間外労働については、時間外労働の一種として位置づけられていますので、「賃金」自体の支払義務は生じません。しかしながら、休日時間外労働に関しては、「賃金」の3倍という割増レートによる休日時間外労働手当の支払義務が発生します。

 

(2) 例外

このような時間外労働、休日労働、休日時間外労働手当については、下記の通り、支給義務につき例外が定められています(LPA65条、66条)。

もっとも、①のいわゆる管理監督者については、日本でも裁判所においてかなり厳格に判断されていますが、タイにおいては、日本よりもさらに厳しく限定される傾向にありますので、安易な利用は避けるべきです。活用する場合には適用可能性について事前に十分に検討する必要があります。

 

【時間外労働、休日労働、休日時間外労働手当の例外】

正しい賃金の支払いにより従業員の信頼確保を

賃金の支払いは、会社にとっても従業員にとっても最も重要な労務管理マターの一つです。賃金の支払いにミスがあれば、従業員からの信頼を失いかねないこととなりますので、正しい理解に基づき正確な支払いができているか、十分にご確認いただければと思います。

 

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