タイの労働法制と実務 vol.1 労働時間に関する基本ルールと設計上の留意点

タイの労働法制と実務 vol.1 労働時間に関する基本ルールと設計上の留意点

今回は、タイにおける労働時間をめぐるルールについて解説します。法定の労働時間や、休憩に関するルール、時間外労働や休日労働を指示する場合の従業員の同意の要否など、在タイ日系企業が必ず知っておくべき労働時間をめぐる基本的なルールを概説します。また、日々生じる労働時間管理をめぐる実務上の問題について、タイの労務管理の実態を踏まえたうえで、法令に即した制度設計と実務上の留意点につき、詳しく解説します。

 

【目次】

タイにおける労働時間の原則

休憩に関する基本ルール

時間外労働・休日労働に関する基本ルール

所定労働時間の設定上の留意点

労働時間の管理方法の実務

タイの法令に即した労働時間の設定と管理を

タイにおける労働時間の原則

タイでは、労働者保護法(以下「LPA」)において、以下の通り、労働時間に関する原則が定められています(LPA23条1項、27条1項)。

 

【労働時間に関する原則】

1日の労働時間 原則8時間以下
1週の労働時間 原則48時間以下

サービス業や製造業、事務職等の一定の業種については、雇用契約等で合意すれば、週48時間の範囲内で1日あたりの労働時間を8時間以上に設定することが可能であり、このような合意に基づく8時間を超える部分については、時間外労働手当は発生しないと解釈されています。

 

例えば、雇用契約において1日の所定労働時間を9時間と定めた場合であっても、土日が休みであれば週45時間となるため、各労働日の8時間を超えて9時間までの部分については、時間外労働手当は発生しません。

 

また、日本と同じように所定労働時間を8時間と定めている場合も、会社と従業員との間でその都度合意することにより、実際の労働時間が8時間未満であった日の余った時間を、他の日の労働時間に加算することができ(LPA23条1項)、その加算部分については、時間外労働手当は発生しないと解釈されています。

 

例えば、月曜日の実際の労働時間が7時間だったので、会社と従業員との間で合意して、余った1時間を火曜日の労働時間に加算し、火曜日は9時間働くこととした場合、火曜日の8時間を超えて9時間までの1時間については、時間外労働手当は発生しないということです。ただし、このような労働時間の付替えについては1日9時間が上限とされているため、注意が必要です。

 

【1日の労働時間に関するルール】

原則 8時間以下
例外1 サービス業、製造業等の一定の業種では、労使間の合意により、8時間を超える労働時間を定めることも可能(週48時間を超えない範囲内)
例外2 労使間の合意により、実際の労働時間が8時間未満であった日の余剰時間を、他の日の労働時間に加算できる(1日9時間が上限)

休憩に関する基本ルール

休憩時間については、1日に5時間以下の連続労働の後に、1時間以上の休憩時間を付与しなければならないとされており(LPA27条1項前段)、これに反する内容の合意をしたとしても、従業員に有利な内容でない限り、無効となります(同条2項)。休憩の付与の方法については、事前に従業員との間で合意することにより、1時間未満の時間を分割して付与することも可能です。ただし、このような場合でも、トータルで1日1時間以上となるようにする必要があります(同条1項後段)。

 

また、休憩時間は原則として労働時間には算入されませんが、休憩時間の合計が1日に2時間を超える場合には、2時間を超える部分は労働時間としてカウントされます (同条3項)。

なお、通常勤務に続いて時間外労働をし、当該時間外労働が2時間を超える場合には、時間外労働を開始する前に20分以上の休憩時間を与えなければならないとされている点にも注意が必要です(同条4項)。

 

もっとも、業務の性質上連続して労働する必要があり、かつ従業員の同意を得た場合、又は緊急の業務については、上記LPA27条 1項及び4項は適用されません(同条5項)。

 

【休憩に関するルール】

原則

1日に5時間以下の連続労働の後に、1時間以上の休憩時間を付与

※分割付与も可能(ただし、合計で1日1時間以上とする)

休憩時間の取扱い

原則:労働時間としてカウントされない

例外:合計で1日2時間を超える部分は労働時間としてカウントされる

時間外労働に伴う休憩

通常勤務の後に継続して2時間を超える時間外労働をする場合は、時間外労働開始前に20分以上の休憩時間を付与

時間外労働・休日労働に関する基本ルール

日本では、会社と従業員は一般的に36協定と呼ばれる残業等に関する協定を取り交わしており、この協定により、会社は一定の範囲の残業について従業員から包括的な同意を得ることが可能です。

 

一方、タイでは残業等に関する包括的な同意という制度は存在しません。したがって、会社が従業員に時間外労働や休日労働をさせるためには、原則として、その都度個別に事前同意を得る必要があります(LPA24条1項、25条3項)。つまり、従業員には、残業命令(要求)を拒否する権利があるということを理解しておく必要があります。もっとも、一定の場合には、例外的に個別同意が不要とされています(LPA24条2項、25条1項2項)。

 

また、 時間外労働、休日労働、休日時間外労働の合計時間は、原則として1週36時間を超えてはならないとされていますので、この点にも注意が必要です(LPA26条)。

 

【時間外労働・休日労働に関するルール】

時間外労働 休日労働
原則 従業員の個別の事前同意が必要

従業員の個別の事前同意が必要

例外

以下の場合には、従業員の個別同意不要

以下の場合には、従業員の個別同意不要

(i) 業務の性質又は形態により連続して行うことを要し、中止した場合に損害が生じるおそれのある業務

(i) 業務の性質又は形態により連続して行うことを要し、中止した場合に損害が生じるおそれのある業務

(ii) 緊急の業務

(ii) 緊急の業務

(iii) 省令で定められたその他の業務

(iii) ホテル事業、娯楽施設事業、運輸業、飲食店、クラブ、協会、医療施設関連事業その他の省令で定める事業

この他、危険の伴う業種その他の特殊な業種については、特別な規制が設けられています。

所定労働時間の設定上の留意点

ここまでは、タイの法律上定められている労働時間の上限(法定労働時間)についてのルールを見てきましたが、各会社が定める通常の労働時間(所定労働時間)についても、注意すべき点があります。

 

日本では、所定労働時間に関わらず、法定労働時間を超えているかどうかによって、時間外労働割増賃金が発生するかどうかが決まります。これに対して、タイでは所定労働時間を超える労働については、たとえ法定労働時間の範囲内であっても、時間外労働割増賃金が発生します。

 

例えば、所定労働時間が7時間と設定されている会社の場合、日本では、法定労働時間である8時間までは、割増賃金は発生しません。一方、タイでは、7時間を超えて8時間以下の部分についても、割増賃金が発生するため、通常の時間単位賃金の1.5倍を支払う必要があります。

 

したがって、会社は、所定労働時間を定めるにあたっては、このような割増賃金の支払についても十分に考慮した上で決定する必要があります。

労働時間の管理方法の実務

タイにおける労働時間の管理方法は、従業員が自ら所定のシートに記入する自己申告制、タイムカード、勤怠管理ソフトによる出退勤管理など、日本における管理方法と類似しています。最近では日本のクラウド型の勤怠管理サービスがタイでも提供されていますので、労働時間を正確に把握しやすくなってきています。

もっとも、タイではLINEの利用が盛んで、会社の上司とのやり取りもLINEで行っているという会社も多く、LINE上で遅刻や欠勤等の連絡が来ることもしばしばあります。そのような場合、LINEでのやり取りとは別に会社としてオフィシャルな形で勤怠管理をしっかり行っておかないと、担当者が退職してしまったり、日本人マネージャーが日本に帰任してしまったりした場合に、後で勤怠の履歴が確認できなくなってしまうといった事態も起こりうるため、万一労働紛争が発生した場合に、非常に困った事態となります。また、LINEのユーザーネームは、従業員の名前であるとは限らないため、LINE上のメッセージの履歴が残っていたとしても、一見して送信者がその従業員であることがわからない場合も多く見られます。したがって、LINE等のSNSツールで個別に連絡を取ること自体に問題があるわけではありませんが、それのみで完結してしまわずに、勤怠管理シートや勤怠管理ソフト等を利用して、会社としてオフィシャルな形で労働時間管理の履歴を残すようにすることが推奨されます。

タイの法令に即した労働時間の設定と管理を

労働時間に関する規制は、最も基本的なルールですので、正確に理解しておくことが重要となります。特に、法定労働時間や、残業等への同意の要否、所定労働時間を超える労働に対する割増賃金など、日本とは制度が異なる部分がありますので、この機会に改めて確認していただければと思います。

 

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