暗号資産カストディ業務に関する法規制

暗号資産カストディ業務に関する法規制

執筆:弁護士 山地洋平

 

 

2020年5月1日より、改正資金決済法が施行され、暗号資産交換業の登録が必要となる業務に“暗号資産カストディ業務”が加えられました。本稿では、この暗号資産カストディ業務に関する法規制について概説いたします。

 

1.カストディ業務とは?

カストディ(Custody)とは、「保管」を意味し、主に金融・証券業界において有価証券等の保管・管理を行う業務のことをカストディ業務といいます。暗号資産(旧:仮想通貨)との関係では、ウォレットサービスなど、暗号資産の売買等は行わずに、利用者の暗号資産を保管・管理し、利用者の指図に基づき利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させる業務など(いわゆる「暗号資産カストディ業務」。以下本稿では単に「カストディ業務」といいます。)を指します。

 

このカストディ業務については、2020年5月の改正資金決済法以前は、暗号資産交換業の対象とはされていませんでした。しかし、暗号資産の管理のみを行う場合であっても、サイバー攻撃などによる顧客の暗号資産の流出リスクやマネーロンダリング・テロ資金供与のリスクなどについては、暗号資産の売買等と同様のリスクがあると考えられ、加えて、2018年10月には、暗号資産のカストディ業務を行う事業者についてもマネーロンダリング・テロ資金供与規制の対象とするよう各国に求めるFATF(Financial Action Task Force)勧告が採択されたといった背景があり、カストディ業務が暗号資産交換業として規制対象とされることになりました。

 

創業間もないスタートアップ事業者などの小規模事業者にとって、暗号資産交換業の登録を行うのはかなりハードルが高いことから、やむなくカストディ事業から撤退せざるを得ない事業者も多く、ウォレット事業者など、カストディ業務を行う事業者にとっては、非常に影響の大きい改正内容でした。

 

では、暗号資産の保管・管理を行う業務は全て暗号資産交換業の登録が必要なカストディ業務に該当してしまうのか、暗号資産交換業の登録を回避する方法がないのかといった点について、以下検討していきます。

 

 

2.暗号資産交換業におけるカストディ業務

まずは、改めて暗号資産交換業の定義を確認してみましょう。

【資金決済に関する法律(資金決済法)】

(定義)

第二条

 この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。

 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換

 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理

 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。

 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

この資金決済法第2条第7項第4号に定められている「他人のために暗号資産の管理をすること」がカストディ業務を指す規定です。条文の記載のとおり、第1号の暗号資産の売買や交換を行っていなくとも、第4号に該当する行為を業として行う場合には、暗号資産交換業に該当し、登録が必要となります。

 

では、「他人のために暗号資産の管理をすること」とはどういった行為をいうのでしょうか。 金融庁の暗号資産事務ガイドライン(※)Ⅰ-1-Ⅱ-2③では、この「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するかは個別事案ごとに実態に即して実質的に判断すべきであるが、利用者の関与なく、単独または関係事業者と共同して、利用者の暗号資産を移転し得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当するとされています。

 

※金融庁事務ガイドライン:https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/16.pdf

 

そのため、暗号資産交換業の登録が必要となるカストディ業務に該当するかは、事業者が暗号資産の移転に必要な秘密鍵を保有、管理しており、利用者の協力がなくとも自ら暗号資産を移転できる状態にあるかどうかがポイントとなります。この点については、「3.どうすればカストディ業務にあたらないといえる?」でさらに検討します。

 

また、カストディ業務にあたるには、「他人のために」暗号資産の管理を行う業務が対象となりますので、事業者が自己のために管理を行う場合は対象外となります。例えば、事業者が自己の権利利益の保全のために担保として暗号資産の預託を受ける場合などは基本的に「他人のために」管理を行う場合に該当しないものとされています(ただし、暗号資産デリバティブ取引の証拠金として利用者の他の暗号資産の預託を受けるような場合は「他人のために」暗号資産の管理を行う場合に該当します)(金融庁パブリックコメント(※)No20-21)。

 

※金融庁パブリックコメント:https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200403/01.pdf

 

なお、第4号の括弧書きに記載のとおり、暗号資産の管理について、「当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合」は、暗号資産交換業には該当しません。ただ、当該規定は、信託業法に基づき信託会社へ信託する場合などを想定したものと思われ、基本的に当該規定により規制を回避することは難しいものと考えます。

 

 

3.どうすればカストディ業務にあたらないといえる?

上記のとおり、暗号資産交換業の登録が必要となるカストディ業務に該当するかは、事業者が暗号資産の移転に必要な秘密鍵を保有、管理しており、利用者の協力がなくとも自ら暗号資産を移転できる状態にあるかどうかがポイントとなります。

 

暗号資産の移転は、電子データの移転ですので、暗号資産を移転する際は本人のもので間違いないか電子署名によって確認をすることになります。暗号資産を保管するウォレットには通常当該ウォレットの持ち主しか知らない秘密鍵が設定されており、この秘密鍵及び秘密鍵から生成される公開鍵を用いて暗号資産の移転を行う仕組みになっています(この公開鍵からさらに生成されるのがいわゆる“アドレス”になります)。

 

そのため、そもそも暗号資産の保管を行う事業者が秘密鍵を保有、管理していない場合、当該事業者が主体的に暗号資産を移転することができないため、カストディ業務には該当しません。

 

また、事業者が秘密鍵を保有する場合であっても、対象となる暗号資産の移転にあたって複数の秘密鍵を設定するマルチシグ(マルチシグネチャー)方式(※)が採用されている場合において、事業者が(自己又は委託先と共同しても)暗号資産の移転に必要な秘密鍵の一部を保有するにとどまり、利用者の関与がなければ、暗号資産の移転ができない場合も基本的にカストディ業務に該当しないものと考えられます(例えば、「2 of 3」の秘密鍵を対象の事業者が1つしか保有していない場合など。金融庁パブリックコメントNo20-21)。
ただし、マルチシグ方式において、複数の事業者がそれぞれ秘密鍵を一つずつ保有するような場合には、各事業者間の関係性(事業者Aが事業者Bに秘密鍵の管理を再委託している場合など)によっては、やはりカストディ業務にあたる可能性もありますので、注意が必要です。

 

※マルチシグ方式:暗号資産の移転にあたって、複数の秘密鍵を設定する方式のことをいいます。秘密鍵が一つしかないシングルシグ方式と比較して、セキュリティの強化や秘密鍵の紛失時のリスクに備えられるといったメリットがあります。マルチシグ方式では、例えば、3つある秘密鍵のうち、暗号資産の移転に2つの秘密鍵が必要という場合には「2of3」などと表記されます。

 

そのほか、事業者が利用者の暗号資産を移転し得るだけの秘密鍵を保有する場合であっても、その秘密鍵が暗号化されており、事業者自身では復号化できない場合など、利用者の協力がなければ事業者が主体的に暗号資産の移転を行うことができない場合も暗号資産の管理にあたらないものと考えられます(金融庁パブリックコメントNo10-12)。

 

なお、上記各ケースに該当するかどうかも含め、カストディ業務該否の判断にあたっては、個別具体的な事情(サービスの機能、仕様等)を考慮のうえ、適用される法規制について慎重な検討が必要ですので、弁護士等の専門家へのご相談をお勧めいたします。

 

 

以上、暗号資産カストディ業務に関する法規制について、概説して参りましたが、弊所では、カストディ業務該当性も含めた暗号資産交換業の登録要否に関する意見書作成や金融庁との折衝等のサポートを行うことが可能ですので、暗号資産関連ビジネスをご検討の事業者様のご相談をお待ちしております。

 

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