2021.01.07

2021年にスタートアップ・ベンチャー企業が注目すべき法改正

2021年にスタートアップ・ベンチャー企業が注目すべき法改正

執筆:弁護士 阿久津透

 

 

 2021年1月4日の日経新聞(朝刊)でも取り上げられていましたが、今年も企業に与える影響の大きい法律の施行がいくつもあります。

 その中でも、スタートアップ・ベンチャー企業に与える影響の大きいものをピックアップして紹介していきます。

 

 

1.はじめに

 新法の制定や法改正に関するニュースや記事を見ると、「成立」、「公布」、「施行」という用語を目にすることがあるかと思います。

 それぞれを簡単に説明すると、法律案が両議院で可決されることを「成立」、成立した法律が官報に掲載され国民に周知されることを「公布」、成立し公布された法律の運用が実際に開始されることを「施行」といいます。

 通常は、成立・公布から施行までの間に一定の期間が設けられます。もっとも、中には「この法律は、公布の日の翌日から施行する。」というように、即時に運用が開始されるものもあります。

 新法の制定や法改正に関するニュースや記事を見るときには、それが成立・公布に関するものなのか、施行に関するものなのかを注意して読むと、いつまでにどのような対応をする必要があるのかということがより分かりやすくなります。

 また、法律によっては、上場企業などの大企業にのみ適用されるものや、大企業と中小企業で施行時期に差が設けられている場合もありますので、ご自身の会社が適用対象となるのか、いつから適用対象となるのか、という点も留意する必要があります。

 

 

2.会社法(令和2年3月31日から施行)

 2020年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」が成立し、同月11日に公布されました。

 今回の改正では、株主総会資料の電子提供制度の創設や取締役の報酬に関する規律の見直し、会社補償に関する規律の整備などがされています。

 取締役の報酬については、取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ、また、株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするという趣旨から、主に上場会社を対象として、取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合には、取締役会はその決定方針を定め、その概要等を開示しなければならないという規定や、取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には金銭の払い込みを要しないものとするという規定が設けられています。

 上場会社のみが対象となる改正というわけではなく、取締役の報酬として募集株式や募集新株予約権を付与する場合には、発行する数の上限等を決議事項に加えなければならないという規定も新設されていますので、スタートアップ・ベンチャー企業も注意が必要です(参照:法務省民事局「会社法の一部を改正する法律について」)。

 改正後の会社法は、会社法施行規則との一部を改正する省令において、原則として2021年3月1日から施行されます。

 

 

3.中小事業主への同一労働同一賃金規制の適用(4月1日から施行)

 2018年6月29日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立され、同年7月6日に公布されました。

 その中では、長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保といった観点から様々な改正がなされており、いわゆる「同一労働同一賃金」とよばれるものもその一つです。

 同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものであり、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以前はパート労働法と呼ばれていたもの。現在はパート・有期雇用労働法と呼ばれる。)の中で定められています。

 この法律は、既に施行されていますが、中小事業主に関しては2021年4月1日から施行するものとされていました。ここでいう中小事業主とは、「資本金の額又は出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが以下の基準を満たしている事業者となります。

業種

資本金の額又は出資の総額

常用使用する労働者の数

小売業

5000万円以下

50人以下

サービス業

5000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他

3億年以下

300人以下

 そのため、これまで適用を受けていなかった中小事業主も今年からこの同一労働同一賃金の対応をしなければならなくなります。

 同一労働同一賃金に関しては、2020年10月に最高裁が立て続けに判決を出しており注目度も高まっています。

 まだ対応できていない事業者は、これらの判決のポイントも抑えたうえで、早急に誰と誰の賃金が同一でなければならないのか、どのような取り組みをしなければならないのか、といった事項について整理していく必要があります。

 なお、同一労働同一賃金については、厚生労働省の特集ページ特設サイトが参考になります。

 

 

4.資金決済法及び金融サービスの提供に関する法律(2021年中)

 2020年6月5日に、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同年6月12日に公布されました。

 この法律では、金融商品販売法が「金融サービスの提供に関する法律」に改められ、1つの登録で、銀行・証券・保険全ての分野のサービスの仲介を行うことができる「金融サービス仲介業」が創設されるなどしました。

 また、この法律では、資金決済法も改正され、海外送金のニーズなどを踏まえて100万円超の高額送金を取扱可能な新しい類型(認可制)の創設やより緩やかな制限のもとで認められる少額類型(登録制)の創設、いわゆる収納代行のうち割り勘アプリのように実質的に個人間送金を行う行為が資金移動業の規制対象であることが明確にされるなどしました。

 金融サービスの提供に関する法律の部分は公布の日から1年6か月を超えない範囲で、資金決済法の部分は公布の日から1年を超えない範囲で、それぞれ施行されます。

 まだ具体的な施行日は決まっていませんが、いずれも2021年中には施行される見込みです。

 資金決済法の改正内容については、弊所の原田雅史弁護士が「資金決済法の改正と新しいFinTech(フィンテック)サービスについて ~資金移動業の3類型及び収納代行の一定の線引き~」の中で解説していますので、こちらをご参照下さい。

 また、資金決済サービスそのものについての理解を深めたいという方は、2021年1月29日に原田雅史弁護士と宮本真衣弁護士が、「LINEからみる資金決済サービスの活用方法」というセミナーを行いますので、ぜひご参加下さい。

 

 

5.その他

(1)特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律

 2020年5月27日に、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が成立し、同年6月3日に公布されました。

 この法律は、公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされていますので、2021年中に施行される見込みです。

 この法律は、「近年、デジタルプラットフォームが利用者の市場アクセスを飛躍的に向上させ、重要な役割を果たすようになって」いる一方で、「一部の市場では規約の変更や取引拒絶の理由が示されないなど取引の透明性が低いことや、商品等提供利用者の合理的な要請に対応する手続・体制が不十分であることといった懸念が指摘されてい」る「状況を踏まえ、デジタルプラットフォームにおける取引の透明性と公正性の向上を図るために、取引条件等の情報の開示、運営における公正性確保、運営状況の報告と評価・評価結果の公表等の必要な措置を講じ」ることを目的として定められました(引用:経済産業省2020年2月18日ニュースリリース)。

 この法律では、特に取引の透明性及び公正性を高める必要性の高いものを提供する事業者を「特定プラットフォーム提供者」と定義し、その事業者に対する取引条件の開示や、自主的な手続・体制の整備、運営状況の報告と評価といった規律を設けています。

 

(2)個人情報保護法

 2020年6月に成立し公布された改正個人情報保護法は、2022年6月までに施行される見込みです。改正により、保有個人データの開示方法の変更、漏洩が発生した場合の報告や通知の義務化、個人関連情報や仮名加工情報といった新たな概念の導入などがされています。

 個人情報保護員会では、2020年中に「改正法に関連する政令・規則等の整備に向けた論点について」という議題で改正法に関する論点整理がされてきました。

 政令案や規則案については、2020年12月25日の第162回個人情報保護員会の配布資料として既に公表され、意見募集も開始しています。

 改正時に示されたロードマップ案によれば、2021年の5月から6月にかけてガイドラインの意見募集も開始される予定です(第144回個人情報保護員会資料1参照)。

 そのため、個人情報を取り扱う事業者は2021年中に公表される情報を整理し、2022年の施行に備えておく必要があります。

 

以上