2020.10.28
新株予約権・ストックオプションの発行手続について
前回はストックオプションのメリット・デメリットやその利用方法について見てきました。
そのため、今回はそのストックオプションを発行する際の手続について見てみます。
■ストックオプションの発行方法
会社法上、募集新株予約権の発行形態としては、株主割当と第三者割当というパターンに分かれます。
株主割当とは、各株主が保有する株式数に応じて各株主に対して募集新株予約権の割当てを受ける権利を与えることを言います。
一方で、第三者割当とは、会社法上は、株主割当以外の場合、つまり、広く第三者に対して募集新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合を言います。 そのため、各株主が保有する株式数(の割合)によることなく、既存株主の全部又は一部に募集新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合についても、株主割当ではなく、第三者割当として取り扱われることとされています。
■第三者割当による発行手続
ここからは、一般的によく用いられるスキームである第三者割当のケースを前提に発行手続を見ていきたいと思います。
まず、会社が新株予約権を引き受ける者(引受人)を募集する場合には、主に以下のような募集事項(会社法第238条第1項)を定めることが必要となります。
① 募集新株予約権の内容(以下に記載のア~サに関する事項)及び数
ア 新株予約権の目的である株式の数又はその数の算定方法
イ 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
ウ 金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
エ 新株予約権の行使期間
オ 新株予約権の行使時に増加する資本金及び資本準備金に関する事項
カ 譲渡による新株予約権の取得について会社の承認を要することとするときは、その旨
キ 取得条項付新株予約権に関する事項
ク 組織再編時に交付される新株予約権に関する事項
ケ 新株予約権行使時に交付する株式数の端数処理に関する事項
コ 新株予約権証券を発行するときは、その旨
サ 証券発行新株予約権について記名式と無記名式の転換請求の制限に関する事項
② 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
③ ②以外の場合には、募集新株予約権の払込金額又は算定方法
④ 募集新株予約権の割当日
⑤ 募集新株予約権の払込期日(②の場合を除く)
⑥ 新株予約権付社債の場合には、会社法第676条に掲げる事項等(詳細について、ここでは説明を割愛します。)
募集事項の決定については、非公開会社(発行株式の全てに譲渡制限が付されている会社)では、原則として株主総会の特別決議により行います。
また、募集事項の決定について、取締役会の決議ないし取締役の決定に委任することが認められています。なお、この場合であっても、募集新株予約権の内容・募集新株予約権の数の上限・払込金額の下限(払込金額を無償とする場合にはその旨)等の事項については、株主総会の特別決議(委任決議)の中で定める必要があります。
公開会社(発行株式の全部又は一部に譲渡制限が付されていない会社)では、有利発行(※)にあたる場合を除き、取締役会の決議により、募集事項を決定することとされています。
※有利発行とは、新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることが引受人にとって特に有利な条件である場合や払込価額が引受人にとって特に有利な金額である場合がこれにあたります(会社法第238条第3項)。有利発行に当たる場合には、有利発行によって新株予約権の募集を行うことが必要な理由を説明する必要があり、かつ、公開会社であっても株主総会の特別決議が必要となります(会社法第240条第1項)。
さらに、種類株式発行会社(複数の種類の株式を発行する定めを置いている会社)において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式である場合には、上記募集事項の決定については、上記株主総会の特別決議等に加えて、当該種類株主総会の決議も必要となります(会社法第238条第4項)。ただし、例外として、このような場合においても種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合には、種類株主総会の決議は不要となります。
なお、種類株式発行会社においては、委任決議についても、種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、種類株主総会の決議が必要となります(会社法第239条第4項)。
募集事項を定めたら、会社は、募集新株予約権の引受けの申込みをしようとする者に対して、以下の事項を通知する必要があります(会社法第242条第1項)。
① 株式会社の商号
② 募集事項
③ 新株予約権の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
④ 上記①~③に掲げるもののほか、法務省令で定める事項(詳細について、ここでは説明を割愛します。)
上記の通知に基づいて、引受人は、以下の事項を記載した書面(新株予約権引受申込証)を株式会社に提出することにより、申込手続を行っていく流れになります(会社法第242条第2項)。
① 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
② 引き受けようとする募集新株予約権の数
引受人からの申込みがあったら、会社は、各引受人に対して割り当てる新株予約権の数を決める決議(割当決議)を行うことになります(以下、この方法によるストックオプションの発行を「申込割当方式」といいます。)。
ここで、募集新株予約権の目的である株式の全部又は一部が譲渡制限株式である場合、又は募集新株予約権が譲渡制限新株予約権(譲渡による当該新株予約権の取得について株式会社の承認を要する旨の定めがあるもの)である場合は、以下の機関によって、割当決議を行う必要があります。
・取締役会設置会社(取締役会を置く会社):取締役会の決議
・取締役会非設置会社(取締役会を置いていない会社)の場合:株主総会の特別決議
※定款で定めることにより、上記とは異なる決議機関とすることも認められます。
一方で、会社と引受人との間で総数引受契約(引受人が新株予約権の総数を引き受けることを定める契約)を締結する場合には、上記の申込事項の通知・申込み・割当てを行うことなく募集新株予約権の発行手続を完了させることが認められています(会社法第244条第1項)。
実務上、引受人や割り当てる新株予約権の数が最初から決まっているような場合には、総数引受契約を締結する方法(以下「総数引受契約方式」といいます。)でスキームが組まれるケースが多いです。
なお、総数引受契約方式の場合には、割当決議に代えて、総数引受契約の承認決議(決議機関については割当決議と同様)が必要となります。
総数引受契約の締結又は申込み・割当てが完了した後、割当日の到来により、引受人は新株予約権者となります。
会社は、新株予約権が発行された後遅滞なく新株予約権原簿を作成する必要があります(会社法第249条)。
また、新株予約権の割当日から2週間以内に、管轄法務局へ募集新株予約権の発行に基づく登記申請を行う必要があります。
■申込割当方式と総数引受契約方式の違いについて
ところで、申込割当方式の場合には、募集新株予約権の割当日の前日までに申込者に割り当てる募集新株予約権の数を通知しなければならないため(会社法第243条第3項参照)、株主総会の招集手続の省略について株主たちの同意が得られているような場合であっても、スケジュールとしては最低でも2日以上必要となります。
他方、総数引受契約方式の場合には、当該割当通知も不要とされているため(会社法第244条第1項)、1日で手続を完了させることが可能となります。
ベンチャー企業の場合には、タイトなスケジュールの中で手続を進めなければならないことも多いため、なるべく早く手続を完了させることができるという点で、総数引受契約方式は便利であるものと考えられます。
もっとも、申込割当方式を使うメリットも別途存在します。
総数引受契約方式の場合、登記申請のために総数引受契約を法務局に提出する必要がありますが、こちらの書類には引受人の押印が必要となります。そのため、引受人の押印をもらうまで登記が完了しないこととなり、登記完了まで時間がかかる可能性があります。
他方、申込割当方式の場合には、先に触れたとおり、新株予約権引受申込証等の引受人が押印した一定の書類が登記手続において必要となるのが原則ですが、登記実務上は、募集新株予約権の引受けの申込みがあったことを会社の代表取締役が証明した書類をもって代用することが認められていることから、引受人の押印がなくとも、会社の代表取締役の届出印の押印だけで登記手続を進めることが可能とされています。
そのため、例えば、引受人が多忙な場合や遠方に在住しているような場合には、書類に押印をもらうのに時間がかかってしまうことが想定されますが、申込割当方式の場合は上記方法を用いることにより、引受人の押印がなされた書類の原本が手元に存在しない状態であっても、登記手続を完了することが可能となります。
ここで、総数引受契約方式と申込割当方式の違いについて整理してみたいと思います。
総数引受契約方式 | 申込割当方式 | |
発行決議の要否 | 必要 | 必要 |
会社からの申込事項の通知の要否 | 不要 | 必要 |
引受人からの申込みの要否 | 不要 | 必要 |
契約の承認・割当決議の要否 | 必要 | 必要 |
会社からの割当通知の要否 | 不要 | 必要 |
発行手続の必要日数(※) | 1日で可能 | 最低でも2日必要 |
引受人の押印の省略の可否 | 不可 | 可能 |
※株主総会の招集手続の省略について株主全員の同意が得られている場合を前提にしています(会社法第300条参照)。
■最後に
今回は、新株予約権の発行手続の概要について見てきましたが、次回以降は税制適格ストックオプション、有償ストックオプション、1円ストックオプション(株式報酬型ストックオプション)、信託型ストックオプション等、様々な種類のストックオプションについて見ていきたいと思います。
新株予約権・ストックオプションについては、その特徴をきちんと理解した上で、自社の実情に沿う形で有効に活用していきましょう。