ヘルステックビジネスにかかわる法務知識概要
~医療機器編~

ヘルステックビジネスにかかわる法務知識概要~医療機器編~

GVA法律事務所ヘルステックチーム(戸田・早崎・五反田・宮田)

 

1.はじめに

 ヘルステック分野は、AI、IoT等のテクノロジー技術の普及に伴い、市場の拡大が続いており、創薬・医療機器関係企業はもちろん、新規事業としてこの分野への進出を目指す企業も多く、注目を集める分野です。  

 日本国内の市場規模のみでも2017年から2022年までの間に50%増となることが見込まれており、世界的な潮流としてもヘルステック分野は継続的に市場規模が拡大していくと見込まれています。 一方で、新規にヘルステックビジネスに参入する企業にとっては、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)、臨床研究法をはじめとした法規制、アカデミアとの共同研究の推進にあたっての契約等、様々な側面で新たな法務知識の取得が必要不可欠な分野でもあります。  

 今回は、「ヘルステックビジネス推進に必要な法務知識概要 医療機器編」と題し、ヘルステックビジネスのうちでも医療機器開発を進めるにあたって各フェーズで留意すべき法務知識の概要を解説いたします。

 

 

2.基礎研究~応用研究(特許権・著作権帰属、大学との共同開発研究、ライセンス等)

(1) 医療機器について薬事承認を得て市場で販売するにあたっては、その医療機器に有効性、安全性及び品質維持体制の3要素が全て備わっていることが条件となります。一般的には、基礎研究において有効性が確認され、研究開発、開発設計(非臨床・臨床)と進むにつれて安全性が確保されていき、薬事申請を経て品質維持体制も認められて上市に至ることになります。

また、新医療機器、改良医療機器、後発医療機器のいずれかによって、臨床試験の可否やコスト・時間が大きく変わります。

 

(2)基礎研究

まず、後に医療機器につながる基礎的なアイデア・コンセプトが探索されます。このフェーズの中心的役割を担うのは大学や研究機関などのアカデミアの研究者であることが多いですが、医療現場に携わる医師や製品化に携わる企業が主体となって進められることもあります。

早ければ、この段階で基本特許の出願を行うことがあります。複数のステークホルダーが特許発明に携わった場合には、共同出願契約において、特許を受ける権利の帰属を明らかにし合意しておく必要があります。

 

(3)研究開発

医療機器の基礎的なアイデアが形になった次の段階では、市場性調査(Feasibility Study)や試作品の製作が行われ、改良が重ねられていきます。

企業が最終的に医療機器の製造販売を行うことを目指すにあたっては、この段階から薬事承認や保険収載のフェーズで協力を得られる有力な医師との連携体制を整えておくことが重要となり、共同研究開発契約が結ばれることが多くあります。

特に産学連携においては、大学に所属する研究者が手掛けた知的財産権が大学・研究者のいずれに帰属するかや、将来製品化された場合の収益・費用の配分などは大学やケースによってまちまちであり、契約においてこれらを明確に確認し取り決めておく必要があります。収益の配分に関しては、大学側は生み出された知財や医療機器を利用して自ら営利活動を行わない代わりに、企業側が獲得した収益に対して不実施補償と呼ばれる分配を求めることも多くあります。

 

(4)開発設計

上市を目指す医療機器の有効性や市場性が確認されてくると、それらのデータを踏まえて具体的な製品を形にしていく開発設計段階に至ります。この段階で重要なのは、GLP省令に準拠した「非臨床試験」の要否となります。

GLP省令とは、「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成17年3月厚生労働省令第37号)の通称であり(GLPはGood Laboratory Practiceの頭文字)、非臨床試験とは、動物などを使った医療機器の安全性の試験のことです。

GLP省令の対象となるのは、埋め込み・挿入・直接的問接的に人に触れて使用される医療機器の部品や材料であり、これらの医療機器についての生物学的安全性に関する資料の収集及び作成のために、試験施設又は試験場所において試験系を用いて行われる試験については、GLP省令に定める組織や手順を遵守しなければなりません。GLP適合確認書の写し等が製造販売承認申請の添付資料となります。

 

 

3.臨床試験(臨床研究法、臨床研究ガイドライン等)

(1)臨床研究 前述の通り、医療機器の開発に当たっては、臨床研究のプロセスが欠かせません。臨床研究、臨床試験、治験はそれぞれ以下の通りの包含関係になっています。

臨床研究については、臨床研究全般に対する倫理指針、人を対象とする医学的研究に関する倫理指針等が定められ、それぞれ定められた倫理指針の順守が補助金の交付条件ともなっています。各倫理指針の一覧は研究に関する指針について|厚生労働省にまとめられています。

 

(2)臨床試験 次に、臨床試験に関する法規制は以下の図の通り、複雑な様相を呈しています。

 

181217 HP公開 臨床研究法 10ページ参照

 

それぞれの法規制の概要は以下のとおりです。臨床試験の目的・対象によって法規制が異なるのでご留意ください。

ア 治験
臨床試験のうちでも、医薬品の製造販売承認申請に必要な試験成績を集めるために実施されるものは「治験」として特に定義され(薬機法2条17項)、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP省令)に則って準備・管理・実施・依頼することが義務付けられ(薬機法80条の2第1項、)、治験の実施に当たっては30日前までに厚生労働大臣へ治験計画の届出を行わなければなりません。 なお、上記の治験に先駆けて行われる非臨床試験(主に安全性を一定程度確認するための動物試験等)については、前述の通りGLP省令によって規制がなされています。 

イ 特定臨床研究
「特定臨床研究」に当たる場合、臨床研究法に定める各種の基準を順守する義務が生じます。「特定臨床研究」とは、臨床研究(医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究で治験は除く。)のうち、①医薬品等製造販売業者又はその特殊関係者から研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究と②未承認・適応外の医薬品等の臨床研究をいいます。 臨床研究法は、特定臨床研究の実施に当たって、モニタリング・監査の実施、利益相反の管理等の実施基準の遵守及びインフォームド・コンセントの取得、個人情報の保護、記録の保存、特定臨床研究審査委員会の意見聴取後の計画を厚生労働大臣に提出することを義務付けています。

ウ 治験及び特定臨床研究以外の医薬品等の臨床研究
治験及び特定臨床研究に当たらない臨床研究においては、上記特定臨床研究において義務付けられていた基準の順守についての努力義務が課されています。

 

 

4.薬事申請・承認

(1)研究、臨床試験を経て、製品になりますが、当該製品が医療機器に該当する場合は、薬機法に基づく業許可や届出が必要となります。 そのため、製品の製造や販売などを検討する場合は、まず、製品が医療機器に該当するかどうかを判断することが必要になります。そして、医療機器に該当する場合は、製品に関する事業の内容により、どのような規制があるのかを正確に認識し、規制に沿った対応を行うことが求められます。

 

(2)医療機器該当性 薬機法は、医療機器について「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等であり、政令で定めるもの」と定義しています(同法第2条第4項)。   

つまり、医療機器に該当するかどうかは、   

① 使用目的(人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、

又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされていること)

② 形態(機械器具であること)

③ 政令で定めるものであること

の3つの要件から判断されます。そして、この3つの要件の全てに当てはまることが必要です。 特に①の使用目的は、製品の機能だけなく、販路などを含めた様々な事情から判断されるものであり、判断に迷う場合は、薬機法に詳しい弁護士などからのアドバイスや関係機関への相談をすることが必要になります。

(3)医療機器に関する規制

ア 規制の概要

上記の該当性判断により、製品が医療機器に該当する場合は、その製品に関する規制に沿った対応が必要になります。

重要な視点としては、①製品に関する規制と②会社などの組織に関する規制の2つがあるということです。 つまり、複数の製品を扱う場合は、その製品ごとに①の規制への対応が必要になります。また、事業として、製造販売、製造、販売、貸与、修理の複数のものを営む場合には、それぞれの業許可が必要になります。

イ 製品に関する規制

薬機法は、医療機器を製造販売するためには、医療機器について承認、認証、届出等が必要になります。そして、これらは、医療機器の分類ごとに異なることから、当該医療機器の分類について正確に把握することが必要になります。

すべての医療機器には一般的名称があり、その製品の患者等へのリスクの大きさの違いに対応して、異なる分類がなされています。薬機法による分類としては、高度管理医療機器、管理医療機器、一般医療機器がありますが(法分類)、さらに4段階のクラスに分けられています(クラス分類)。この分類により、製品を製造販売する際に必要となる許認可の審査基準なども異なっており、各製品ごとの分類を把握することが必要不可欠になります。

ウ 組織に関する規制

薬機法の組織に関する規制とは、各業務に関する許可、登録制度です。薬機法では、大きく分けて4種類あります。

まず、①製造販売業許可とは、医療機器の元売業であり、医療機器の有効性・安全性・品質維持に一義的な責任を持つことになります。ただし、この許可を取得しただけでは直接医療機器を製造したり、直接販売することはできません。次に、②製造業登録は国内において医療機器を生産する場合に必要な登録となります。また、③販売・貸与業許可は、国内で定められた医療機器を市場に販売したり、貸与する際に必要な許可となります。そして、④修理業許可は、販売または貸与された医療機器を修理する事業を行う際に必要な許可になります。

これらは、それぞれ要求される要件が異なる上に、短期的に取得するものではないことから、医療機器に関する事業を営む際には、具体的にどのような事業をするのかを明確にした上で、必要な業許可を取得する必要があります。

エ 小括

上記は、医療機器に関する規制の概要を示したものに過ぎず、各規制ごとに省令による基準が設けられており、詳細な内容を確認し、その規制に沿った適切な対応が求められます。ただ、これらの規制は、医療機器が、人の健康や生命に与える影響が大きく、薬機法の趣旨である医療機器の有効性、安全性、品質維持を確保するために求められているものといえます。医療機器という機器の特質を考えれば、これを事業とするために遵守すべき規制といえます。この規制を正確に理解し、適切に遵守すべきことが求められているといえます。

 

 

5.上市前後の戦略(広告規制、製造・販売に関する契約)

(1)医療機器に該当し、薬機法に基づく業許可や届出への対応を行う傍ら、上市後の販売戦略を構築するにあたっても留意するべき法規制があります。

 

(2)広告規制

ア 医療機器に関する法規制の中には「広告規制」というものが存在します。当該規制に違反すると、最悪の場合罰則の適用もありうるため、プロモーション戦略を練る場面においてもレギュレーション対応の視点は必要となります。医療機器申請・承認を見据える会社であれば、「自社が行いたいマーケティングは適法か?」という問題は避けて通れません。

そこで、以下ではこれから医療機器の広告を行っていくという場面において注意すべき広告規制及びこの規制に対応するための考え方の概要を説明したいと思います。

イ 承認前の段階における広告規制  

(ア)薬機法上の規制の概要   

医療機器の承認を受ける前の場面における広告規制としては、薬機法68条に定める承認前の広告禁止があります。同条は、「何人も、…医療機器…の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。」と定め、広く規制を行っています。  

(イ)「広告」の意義   

とはいっても、同条にいう「広告」に該当しなければ当該規制の対象にはならないため、プロモーション戦略を練るにあたっては、「広告」の意義を理解することが重要となります。

「広告」の意義については、「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」という厚生労働省が示す「広告」概念の解釈基準(平成10年9月29日医薬監第148号)が参考になり、これによると、①一般人が認知できる状態であること(認知性)、②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること(特定性)、③顧客を誘引する(顧客の購買意欲を昂進させる)意図が明確であることの3点が「広告」の要件と整理されます。  

(ウ)小括   

以上のように、承認前の段階でプロモーション戦略を立てるにあたっては、当該プロモーション手法が上記3要件を充足する「広告」に該当するのかというアプローチで検討していくことになります。実際の検討では、上記アプローチをベースとしつつ、具体的事例に従って更に参照すべき基準や解釈を検討していくことになると考えられます。

ウ 承認後の段階における広告規制  

(ア)薬機法上の規制の概要  

医療機器の承認を受けた後の場面においても広告規制は存在します。薬機法66条でその内容が定められていますが、その中でも適用の可能性が高く検討の必要性がある①虚偽又は誇大な記事の広告の禁止に違反しないかの視点は重要となります。

具体的なレギュレーション対応としては、「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」(平成29年9月29日薬生監麻発0929第5号)という厚生労働省が示す広告規制の解釈基準を参照する必要があります。当該基準自体には法的拘束力はありませんが、この基準は薬機法を運用する厚生労働省が自ら示した法の解釈基準であるため、遵守すべき基準のベースとなるものと位置づけられるといえます。  

(イ)小括   

以上のように、承認後の広告規制においては、厚生労働省が示す解釈基準を参照し、プロモーション対象となる医療機器の特性に即して具体的にいかなる広告が規制対象となるのかを検討しながら戦略を立てていく必要があります。また、前提として承認後の広告規制も「広告」に対する規制であるため、そもそも当該プロモーションが規制対象たる「広告」といえるのかという観点から、上記「広告」の3要件該当性の検討も必要となります。このほか、日本医療機器産業連合会が策定している「医療機器業プロモーションコード」や「医療機器適正広告ガイド集」についても留意する必要があります。

 

(3)製造・販売契約上の戦略

ア 医療機器は、製造業者→製造販売業者→販売業者→医療機関等というルートをたどって市場に流通するところ、この商流の中で各プレーヤーが選択する契約類型は、実際にはケースバイケースであるとはいえますが、本稿はその中でも代表的な契約類型である①業務委託契約、②売買契約について、それぞれの主な留意点をご紹介したいと思います。

イ ①業務委託契約

たとえば製造販売業者が製造業者に対して医療機器の製造を委託し、この供給を受ける内容の契約を締結するとき、通常両者の間には業務委託契約という類型の契約関係が結ばれます。

この類型の契約が締結されるときには、委託する業務内容や範囲、業務が行われる期間、業務の対価としての料金やその支払方法について正確に定めることはもちろんのこと、検収・契約不適合責任についての定め、再委託についての定め、受託者に薬機法関連の法令・基準遵守義務を設けること、知的財産権の取扱い、両当事者の秘密保持義務の明示、製造物責任の所在・範囲についての定めを設けておくことが重要となります。

ウ ②売買契約

既に製品化された医療機器を目的物とする取引を行う契約を締結するとき、通常両者の間には売買契約という類型の契約関係が結ばれます。

以下に述べる点は上記①業務委託契約の内容と多くが共通しますが、この類型の契約が締結されるときには、対象となる目的物の仕様や代金額・支払時期・支払方法の定めはもちろんのこと、検収・契約不適合責任についての取扱い、所有権の移転時期についての定め、危険負担についての定め、再委託についての定め、品質保証(薬機法関連の法令・基準遵守の保証)、知的財産権の取扱い、製造物責任の所在・範囲についての定めを設けておくことが重要となります。

 

以上

 

 

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