【タイ リーガルコラム】訴訟・紛争対応編:タイの裁判手続の概要

【タイ リーガルコラム】訴訟・紛争対応編:タイの裁判手続の概要

弁護士 藤江 大輔/Daisuke Fujie

弁護士 靏 拓剛/Takuma Tsuru

 

 

本コラムでは、タイにおける訴訟手続や紛争対応について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。
今回は、タイの訴訟手続の概要について解説します。

 

 

タイの企業と揉めたら?

タイは、世界でも有数の日系企業の進出国です。また、タイに進出はしていなくても、タイの企業と取引している日本企業も多数存在します。取引先のタイの企業と揉めた場合、どのように対応すればいいのでしょうか。

 

日本と同様にタイでも、企業間の揉め事が話し合いで解決しない場合、弁護士を雇って交渉することが一般的ですが、それでも解決しない場合には、やはり裁判(民事訴訟)を起こして、法廷で決着をつけることになります。特に、言語や文化の違う国際取引においては、コミュニケーションに齟齬が生じやすく、日本企業同士の争いの場合に比しても、協議で解決することが難しい場合があります。

 

では、タイでの民事訴訟は、日本の訴訟とどのように異なるのでしょうか。タイの民事訴訟の全体像について確認したいと思います。

 

 

日本とは大きく異なるタイにおける裁判の流れ

タイの裁判の流れにおいて、日本と最も大きく異なる点の一つは、訴訟期日の少なさです。
日本で裁判を行う場合、訴訟期日の数に決まりはありませんが、一般的には、第一回期日に訴状を陳述し、その後何度も期日を重ね、和解に至った場合を除き、判決という流れになります。民事第一審訴訟事件における全体の期日回数は平均で5回程度、証人尋問を実施した事件に限れば、平均12回程度です(「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)」最高裁判所)。日本では、訴訟期日のたびに、原告・被告双方の当事者が、(通常は交互に)準備書面という形で各自の主張を行うため、事件にもよりますが、各当事者は、4回ないし5回、あるいはそれ以上の回数にわたって、主張書面と証拠を提出することになります。

 

一方、タイの裁判の場合、基本的な訴訟期日は、判決期日を含め3回のみです。
第1回期日、証拠調べ期日、判決期日、というような流れになります。したがって、原告・被告の各当事者は、実質的には1度しか主張書面を提出する機会がありません。日本での裁判のように、何度も主張を積み重ねることができないため、最初の主張書面、つまり原告にとっては訴状、被告にとっては答弁書において、ほぼすべての主張をし尽くさなければなりません。
このように、タイの裁判は、期日数が少なく、主張の機会が実質的に1度しか無いという点が日本とは大きく異なります。
もちろん、実際の裁判では、合間に和解交渉のための期日等が設定されることが多く、期日数が3回よりも多くなることもありますが、そもそも何度も期日を行う中で当事者が主張と証拠を積み重ねていくことを前提とする日本の裁判とは、根本的に考え方が異なります。

 

タイの訴訟手続の概要を大まかにまとめると、以下のようになります。

 

タイにおける訴訟手続概要(第一審)

 

 

裁判にかかる期間はどのくらい?

上記のように、タイの訴訟期日は原則3回とかなり少ないため、裁判にかかる期間も、日本と比較すると、短い傾向にあります。とはいえ、日本の場合、各期日間の期間は1ヶ月程度であるのが一般的ですが、タイの裁判では、2―3ヶ月、ときには半年近く期間が空くこともあるため、判決までにかかる期間は、1年から1年半程度となるケースが多いでしょう。
もちろん、通常の訴訟期日の間に和解交渉期日を多数設けるような場合には、訴訟期間が長引くこととなります。また、早期に和解の合意に至った場合には、半年程度で終わることもあります。

 

もっとも、タイには、欠席判決という制度がないため、事件によっては、日本の裁判よりも長くなる場合があります。これは日本の裁判と大きく異なるもう一つの点といえます。
日本では、第一回期日までに被告が答弁書を提出せず、本人も代理人も裁判所に出廷しなかった場合には通常、被告は原告の主張をすべて認めたものとみなされ、原告側勝訴の判決が下されます。このような判決は、欠席判決と呼ばれています。

 

一方、タイでは、答弁書提出期限までに被告が答弁書を提出せず、第一回期日に本人も代理人も裁判所に出廷しなかった場合、被告は、第一回期日における訴訟進行について権利放棄したものとみなされますが(民事訴訟法(以下「法」といいます。)第200条第2項)、直ちに原告の主張を認めたものとみなされるわけではありません。このような場合には、原告側のみの一方的な証拠調べ(証人尋問を含む)を行い、証拠に基づいて、原告の主張が認められるか否かを裁判所が判断し、判決を出します(法第198条、第198条bis、第206条第1項)。
したがって、ほぼ全件につき証拠調べを行うため、被告が応訴しないような場合については、日本よりもタイのほうが時間も手間もかかる、ということになります。

 

 

判決と和解

日本と同様、タイの裁判が終了する場面には、判決と和解があります。
判決により終了する場合には、裁判所が当事者の提出した証拠に基づき判決を下し、判決期日において宣告します。判決宣告後、1ヶ月程度で判決が確定し、これにより裁判が終了します。

 

一方、訴訟提起後、判決が出される前に、当事者間で和解の合意に至った場合には、訴訟上の和解となります。タイでも、日本と同様に裁判所はいつでも和解勧奨をすることができるとされており(法第20条)、実務上も、日本に比してもかなり積極的に和解勧奨を行う傾向にあります。特に、通常の民事訴訟も手続過程において、仲裁人と呼ばれる裁判所が指名した仲裁者が当事者の間に入って和解協議を進める手続きが導入されている点に特徴があります(法第20条bis)。実務運用上、当事者が明確に拒否しない限り、第1回期日において、まずは仲裁者による和解協議の場が持たれることが一般的です。
和解協議の結果、当事者間で和解の合意に至った場合、タイでは、当事者間で和解合意書を締結するとともに、その和解合意書に基づく判決が出されることとなります。この場合も、1ヶ月程度で判決が確定し、これにより裁判が終了します。

 

通常の判決の場合でも和解の場合でも同様ですが、原告が勝訴した場合で、判決ないし和解合意書に定められているところに従って被告が自ら義務を履行しない場合には、執行を申し立てることができます(法第274条)。
ただ、金銭の支払いや財産の引渡し等を命じる判決などの場合には、判決書において、義務履行のための期間や条件等が定められ、その期間等が過ぎてからでなければ執行の申立ができない点にやや特徴があります(法第273条第1項、第2項、第276条第1項)。

 

 

裁判費用の目安は?

裁判にかかるコストは、裁判所に納める訴訟費用に加え、弁護士を雇った場合には弁護士費用、その他郵送費等の雑費がかかる点は日本とほぼ同様です。裁判所に収める費用は、請求する金額や争いの対象となる物の価値等に応じて変わりますが、請求額等が5000万バーツ以下の部分についてはその2%(ただし、上限20万バーツ)、5000万バーツを超える部分についてはその0.1%となります。

 

もっとも、タイの裁判では、証拠書類を含め、裁判所に提出するすべての裁判資料につき、タイ語に翻訳する必要があります(法第46条)。日系企業の場合、取引関係のメールや社内資料などの証拠の多くは、日本語ないし英語で作成されていることが多いため、多額の翻訳費用がかかる可能性がある点に留意する必要があります。また、証拠調べ期日において証人尋問等を行う場合も、日本人等が証言する場合には別途通訳を雇う必要がありますので、その費用も必要となります。

 

 

訴訟手続きの全体像を知る

今回は、タイの民事裁判の大まかな流れについてご紹介しました。タイの裁判手続きについて一般に得られる情報はまだそれほど多くなく、手続きの全体像すらわからないため、日本での裁判以上に不安が多いという方も多いかと思います。タイでビジネスを行うにあたって、どうしても裁判によらなければ解決できない問題が生じてしまった場合に、どのように裁判手続きが進行していくのかについて、本コラムを少しでも参考にしていただければと思います。

 

 

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