
執筆:弁護士 水谷 守
(1)フィリピン労働法における「労働者」の定義
フィリピンにおいては、Labor. Code of The Philippines(以下「フィリピン労働法」といいます。)という日本における労働法に位置付けられる法令が定められており、労働者の健康や福祉を守りつつ、使用者との間における公平な立場を保護するための条項が規定されています。
フィリピン労働法においては、労働者に位置付けられる“Employee”(より広義の“Worker”とは異なります。)が定義されており、「使用者に雇用されている者」と説明されています。本稿においては、使用者に雇用されている者を「労働者」といい、以下では労働者該当性について解説いたします。
(2)フィリピン労働法における労働者該当性の判断
労働者に該当する場合は、フィリピン労働法における労働者保護の規定が適用されるため、労働者に該当するかどうかは、企業が事業運営のために人員を確保する場面において重要な事項といえます。この労働者該当性については、フィリピンの裁判所は一貫して “four-fold test” と呼ばれる基準を適用しており、以下の4つの要素を基準に判断しているとされています(Parayday v. Shogun Shipping Co., Inc., G.R. No. 204555, July 6, 2020)。
① 使用者が対象者の選考及び採用を行ったかどうか
② 使用者から賃金の支払いがあるかどうか
③ 使用者が対象者を解雇する権限を有しているかどうか
④ 使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか
これらのうち、④の「使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか」が最も重要な要素であるとされており、使用者が、仕事の結果だけではなく、結果を出すための手段や過程においても管理する権限を有していたかどうかが検討されます。
(3)労働者該当性に関して企業が注意すべき点
企業が事業運営のため、人員を確保する際に、注意すべき事項について説明します。
労働者該当性は、先に述べた要素からも分かるように、形式的な面のみならず、実質的な面についても判断されます。仮に対象者との契約書において「労働者」という文言が使用されていない場合であっても、“four-fold test”の基準に照らして検討した場合に、労働者に該当すると判断される場合があります。労働者に当たらない典型例としては、取締役等の役員が挙げられますが、肩書きが役員である場合であっても、“four-fold test”に照らして労働者としての実態がある場合には、労働者に該当し、労働法の保護が適用される余地があることに注意が必要です。
監修
弁護士 金子 知史
(2019年にGVA TNY Consulting Philippines, Inc.設立。同社代表取締役就任。2016年の弁護士登録以来、渉外法務、特にフィリピンに関する案件に注力し、多くの企業を法的にサポート。新規進出企業の設立支援、設立手続代行、VISA、契約書ドラフト・レビュー(日英)、新規ビジネス等についての適法性リサーチ(外資規制・ライセンス等を含む。)、労務・人事、M&A(デューデリジェンス)、紛争・裁判・交渉、商標を中心としてフィリピンにおける事業展開を支援する。スタートアップから上場企業まで幅広く企業に対して法務サービスを提供。)